突然海の中に現れたハートマーク。
一体何?実はこちらタツノオトシゴのオスとメス。
カップル誕生の瞬間です。
いや〜アツアツですね。
1か月後愛の結晶が誕生します。
おなかがパンパン。
赤ちゃんが産まれようとしているんです。
呼吸が荒くなってきました。
おなかにぐっと力を込めます。
産まれました!親そっくりのかわいい赤ちゃんです。
「頑張ったね〜ママ」と言いたいところですが違うんです。
出産していたのはなんとパパ!タツノオトシゴの仲間はオスがおなかで子どもを育て出産する世界唯一の生きものなんです。
でも一体なぜ?取材班は4か月にわたり珍魚タツノオトシゴに密着。
その奇妙な愛の物語を世界で初めて明らかにします。
(テーマ音楽)私たちがタツノオトシゴの観察にやってきたのは日本海鳥取の海。
切り立った崖が続く浦富海岸です。
ダイビングガイドの山崎英治さん。
タツノオトシゴの不思議な生態に魅せられ5年前から観察を続けています。
山崎さんの案内で早速タツノオトシゴを探しに行きます。
岩だらけの地形は海の中まで続いています。
うわ〜アジの大群です。
ハマチもやってきました。
海底に点在する岩の塊は「根」と呼ばれます。
タツノオトシゴはこうした根に生える海藻に暮らしています。
山崎さんが早速見つけたようですがどこにいるかわかりますか?答えはここ。
タツノオトシゴは体長7センチほど。
不思議な形ですがこれでもれっきとした魚の仲間です。
体じゅうについたモジャモジャ。
海藻が生えてしまったわけではありません。
「皮弁」と呼ばれる皮膚の一部です。
形だけでなく色も周囲の環境に溶け込んでいます。
タツノオトシゴは「かくれんぼ名人」なんです。
ではそろそろホントに魚だという証拠をお見せしましょう。
まず背ビレはどこにあるかというとここです。
胸ビレはこの辺り。
拡大してみると確かにヒレがありますよね。
でももはやヒレと呼べなくなってしまったものもあります。
こちら尾ヒレはすっかり形を変え尻尾になっています。
この尻尾を海藻に巻きつけ潮に流されないよう体を固定。
海藻に紛れて過ごしながら食事をします。
スポイトのような口でプランクトンや小さな甲殻類などを吸い取って食べるんです。
周りには恐ろしい肉食の魚がたくさんいます。
やってきたのはオニオコゼです。
見るからに怖そうな顔。
狙った獲物は…逃しません。
こんな魚に見つかったら一巻の終わりです。
あっオニオコゼのすぐ上にタツノオトシゴがいます。
でもオニオコゼは気付いていないようです。
タツノオトシゴはこうしてじっとしているかぎりまず襲われません。
独特な姿を生かし海藻に紛れて暮らすことで天敵だらけの海を生き抜いているんです。
1匹のメスが海藻を離れました。
流されているだけのように見えますがこれがタツノオトシゴの泳ぎなんです。
小さな背ビレを一生懸命動かして前に進みます。
胸ビレもパワー全開!でもこの体ですからスピードは全く出ません。
なぜメスは身の危険を冒して泳ぎだしたんでしょう?何かを探しているようです。
泳ぎがさらに遅くなりました。
よく見るとすぐ上に別のタツノオトシゴがいます。
オスです。
メスが誘うように進むと…。
オスがついてきました。
そうです春は恋の季節。
この時だけは危険を顧みず泳ぎ回るんです。
メスに追いついたオス。
尻尾をメスの体に絡めています。
しきりに体を動かしながらアピールするオス。
さあメスはどう応えるんでしょう?あっメスが離れていきます。
オスはふられてしまいました。
タツノオトシゴの恋の駆け引きどうやらメスに主導権があるようです。
メスが次のオスのところに向かいます。
こちらのオスおなかが風船のように膨らんでいます。
そのおなかをメスにすりつけています。
しぼませたり膨らませたり。
実はこれメスが卵を産みつけるための袋なんです。
ふだんはしぼんでいますがメスの産卵が近づくと膨らませるようになります。
オスは「大きな袋を用意したから僕に卵を預けてよ〜」とアピールしているんです。
これまで野外では繁殖行動はほとんど観察されていません。
今回の観察で1匹のメスが複数のオスを訪ねて回ることがわかりました。
パートナー選びの決め手はオスのおなかの袋の大きさです。
決定的な瞬間を目撃しました。
高さ6メートルもある崖になった根を探していたその時。
下のほうに…あっ!ハートマークを発見!タツノオトシゴのカップルが誕生したんです。
お互いじっと見つめ合っているよう。
こっちまで恥ずかしくなるほどのアツアツぶりです。
わずか40秒足らずの出来事でした。
この時メスはオスのおなかの袋の中に産卵します。
そしてオスは袋の中で卵を受精させるんです。
見事なハートマークを作った崖の根のカップル。
私たちはそれぞれに名前を付け観察を続けることにしました。
メスはきれいの「レイ」。
体の色がひときわきれいなオレンジ色だから。
オスは「マコト」。
レイからの卵を預かり真面目に育て始めたから。
特徴は目の横の白い線です。
1か月後。
崖の根でタツノオトシゴを見つけました。
目の横に白い線が見えます。
マコトです。
おなかが大きく膨らんでいます。
レイから受け取った卵を守り続けているんです。
オスのおなかの袋は「育児のう」と呼ばれています。
中には驚くべき仕組みがあります。
メスから卵を受け取ると卵が1個ずつ入る部屋が出来ます。
この部屋の壁を通して親の体から栄養や酸素が取り込まれているのではないかと考えられているんです。
まるで哺乳類のメスが持つ胎盤のような働きです。
オスがしきりにプランクトンを食べています。
おなかの卵にせっせと栄養を与えているんでしょうか。
体を作り替えてまで育児に励むまさに究極の育メンです。
いやぁオスがおなかでわが子を育てているとは驚きました。
まるで人間の妊婦さんみたいですな。
ホントびっくりですよねヒゲじい。
でもちょっと待った!なんでタツノオトシゴはここまで手の込んだことをしてわざわざオスが子育てするんですかね?いい質問ですね。
そこには魚界の育メンの壮大な歴史が隠されているんです。
えっ育メンの壮大な歴史?はい。
そもそも魚の世界には育メンがたくさんいます。
産んだ卵を守る魚のうち2/3はオスが守るんです。
そうすればメスは卵の保護に労力をかけなくてすむため次の卵を作る準備ができます。
お〜なるほどね。
でも岩などに産みつけられた場合どんなに守っていても敵に卵を食べられてしまうことがあります。
う〜んどれどれ?あホントだ!食べられてますぞ。
ねえ。
そこでです。
卵を産みつける場所を工夫する魚が現れたんです。
タツノオトシゴの祖先。
その性質を残しているのがこのリーフィーシードラゴン。
メスがオスの体に卵を産みつけるんです。
これならオスはたとえ敵が来ても泳いで逃げて卵を守ることができます。
なるほどそりゃ考えましたな。
でもここまでしても卵は狙われてしまうことがあります。
お〜大変だ!ちっちゃな魚が卵をつっついとりますぞ。
そこでタツノオトシゴは産んだ卵を完全に包み込む「育児のう」を手に入れました。
こうすれば卵は格段に襲われにくくなります。
なるほど!タツノオトシゴは長〜い進化の果てに誕生したまさに究極の育メンですな。
でも進化しすぎちゃってパパもママにならないとママならない…なんちゃってね。
第2章ではマコトがついに出産。
感動の瞬間です。
ところがその直後レイに新たなオス「ナツオ」が急接近。
アツアツカップルの恋の行方から目が離せません。
鳥取といえばおなじみ鳥取砂丘。
今回の取材場所浦富海岸はそのわずか7キロ先にあります。
この周辺の海にはタツノオトシゴに負けないかくれんぼ名人がたくさんいるんです。
砂地に隠れているのはカレイに似たクロウシノシタ。
目だけを出し獲物を狙います。
こちらの小さなイカ水を吐いて砂を飛ばし器用に潜ります。
最後は砂をかけて出来上がり。
お見事!岩場の海藻では…。
あれ何か変ですよ。
実はこれカニです。
切り取った海藻を体に植え付けカムフラージュしているんです。
そしてこちらわかりますか?海藻にぴったりくっついているのはダンゴウオ。
全長わずか1センチ足らず。
1円玉の半分ほどの大きさです。
海藻の一部になりきって敵の目から逃れています。
うんかわいい!砂地から岩場の海藻までそれぞれの環境に合わせて身を隠しているんですね。
4月下旬カップルになったメスのレイとオスのマコト。
その後マコトはレイから受け取った卵を守り育てていました。
出産が近づいたとの連絡を受け私たちは現場に向かいました。
出産は深夜に行われるといいます。
見逃すことがないよう交代で観察を続けます。
ついにその時がやってきました。
午前2時半。
マコトです。
おなかはパンパン。
もうはち切れんばかりです。
マコトの呼吸が荒くなってきました。
息むように体を動かしています。
おなかの袋に海水を出し入れし赤ちゃんが出てくるのを促しているんです。
あっ出てきました!赤ちゃんです。
体長はわずか1センチほど。
親と同じ体つきをしています。
かわいいですね。
マコトはおなかに力を込め次々に産んでいきます。
およそ40分で80匹ほどの赤ちゃんが旅立ちました。
出産の一部始終をここまで詳細に捉えたのは初めてのことです。
大仕事を終えたマコト。
おなかの育児のうはすっかりしぼんでいます。
ホントお疲れさまでした。
夜が明けたあと再び崖の根を訪ねました。
おや?1匹のタツノオトシゴが泳いでいます。
レイです。
どこへ向かうんでしょう。
あとについていくと…。
マコトがいました。
レイがおなかをマコトに押しつけています。
実はレイのおなかの中には新たな卵が準備されています。
でもマコトはほんの数時間前に出産を終えたばかり。
育児のうを見てもしぼんだままです。
今卵を受け取るのはさすがに難しいようです。
ところが翌日意外な光景を目にしました。
ハートマークです!マコトがレイの卵を受け取ったんです。
レイの積極的なアプローチに根負けしたんでしょうか。
レイにとってマコトは1回目の出産を無事成功させた実績があります。
卵を託すには最も信頼の置けるオスなんです。
同じころうれしい発見がありました。
「チビタツ発見」?海藻をよく見ると…赤ちゃんです!無事海藻にたどりついていました。
よかった!アツアツカップルのまさに「愛の結晶」です。
そんな幸せな日が続いていた6月半ば。
レイが海藻から離れ移動を始めました。
あっそばにもう一匹います。
育児に励むマコトの様子をうかがいに来たんでしょうか?でも体の色が妙に黒っぽいですね。
さらに顔にはあの白い線がありません。
マコトとは別のオスです。
一体どういうことなんでしょう?しかもこのオスおなかをレイにすり寄せています。
レイのほうも嫌がっていません。
むしろ仲むつまじい様子にも見えます。
何だかこの2匹とっても怪しいですねぇ。
このオスまるで日焼けしているように黒いので「ナツオ」と名付けましょう。
それから2日後のことです。
ナツオがレイに近づいていきます。
育児のうを膨らませ猛アピール。
そしてついにハートマーク。
レイがナツオに卵を託したんです。
3回目のハートマークの相手はマコトではありませんでした。
ちょちょっと待った!はい。
レイとマコトはお似合いのカップルだと思っていたのに一体これはどういうことなんですか?あれヒゲじい怒ってますね。
怒ってます。
だってマコトは一生懸命子育てに励んでいるのにナツオにも卵を託すなんてあんまりじゃないですか!まあまあ落ち着いて下さい。
レイにはレイの事情があるんですよ。
えっどんな?はい。
タツノオトシゴの繁殖についてはまだわかっていないことが多いんですがこれまでの観察ではオスが卵を受け取ってから出産するまでに1か月ほどの時間がかかっていました。
ほうほう。
一方メスは2週間ほどで卵の準備ができることがわかりました。
あそうなんだ。
メスは少しでも早く卵をオスに預ければまた次の卵の準備ができますよね。
ですから今回のように別のオスにも卵を預けると考えられるんです。
ふ〜ん。
つまりオスとメスのサイクルが違うからしかたがないっていうことなんでしょうか?はい。
メスはできるだけ多くの卵を産んでたくさんの子孫を残したい。
一方オスはメスから預かった大切な卵を時間をかけて確実に育て上げたい。
どちらも必死で子孫を残そうとした結果なんです。
う〜んそれだけ子孫を残すのが大変ということですな。
子孫を残すのは「難しそん」…なんちゃってね。
7月半ば。
大型で強い台風が近づき鳥取の海は大荒れ。
子育て中のタツノオトシゴたちは大丈夫なんでしょうか?台風が去ったあと様子を見に行きます。
ところがマコトとレイそしてナツオも見つけることができませんでした。
そんな中ガイドの山崎さんが何かを見つけました。
子どもです。
大きさは3センチほど。
大人の半分近くまで成長していました。
体つきも海藻と見分けがつきません。
もう立派なかくれんぼ名人です。
次の夏にはあのハートマークを見せてくれることでしょう。
今回密着することで初めて見えてきたタツノオトシゴの不思議な恋。
オスはおなかで卵を育て出産までする究極の育メン。
そしてメスはせっせと卵を作りたくさんの子孫を残すしっかり者でした。
カップルが作り上げる見事なハートマークは次の命をつなぐひたむきさの証しなのです。
(美和)出ていきんさい。
(秀次郎)母上!母上…。
2015/10/11(日) 19:30〜20:00
NHK総合1・神戸
ダーウィンが来た!「オスが出産!?珍魚タツノオトシゴ」[字]
日本の沿岸にすむ珍魚タツノオトシゴ。オスが赤ちゃんを“出産”するという常識破りの生態を持つ。鳥取の海で4か月の密着取材を敢行!スクープ映像満載で奇妙な恋に迫る。
詳細情報
番組内容
日本の沿岸にすむタツノオトシゴ。奇抜な形だが、れっきとした魚だ。オスが赤ちゃんを“出産”するという常識破りの生態を持つ。いったいなぜ?鳥取の海で4か月もの密着取材を行い、謎に迫る。春、海中にカップルが作るハートマークが出現。この時メスはオスのおなかの袋に産卵し、オスは卵を大切に守り育てる。1か月後、感動の出産の瞬間をカメラは捉えた!スクープ映像満載で描く、珍魚タツノオトシゴの奇妙な恋。歌:平原綾香
出演者
【語り】近田雄一,龍田直樹,豊嶋真千子
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
趣味/教育 – 旅・釣り・アウトドア
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
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