マイナンバー汚職:他に数百万円受領か「自分から要求」
毎日新聞 2015年10月14日 20時25分(最終更新 10月14日 20時50分)
厚生労働省発注のマイナンバー制度に関連した事業などを巡る汚職事件で、収賄容疑で逮捕された同省情報政策担当参事官室室長補佐の中安一幸容疑者(45)=さいたま市大宮区三橋1=が、逮捕容疑となった100万円のほかに、贈賄側の経営コンサルタント会社から数回にわたり計数百万円を受け取った疑いがあることが捜査関係者への取材で分かった。100万円の授受について「自分から要求した」と供述し、賄賂の認識があったことを認めているという。
捜査関係者によると、中安容疑者は現金100万円を受け取ったとされる2011年11月から5年ほど前に、コンサルタント会社の70代の男性役員と仕事を通じて知り合った。その後、現金の授受を繰り返し、逮捕容疑の100万円のほか、計数百万円の現金を受け取っていたとみられる。また、飲食の接待も複数回にわたり受けた疑いがあるという。
逮捕容疑となった100万円は、コンサルタント会社で男性役員から手渡しで受け取っていた。クレジットカードの支払いや、飲食代に充てていたとみられる。
警視庁捜査2課は、情報技術(IT)に精通する中安容疑者が、情報システムを扱うコンサルタント会社とこれまで10年近くにわたって交流し、癒着を深めていたとみている。
中安容疑者は、11年11月、厚労省が公募したマイナンバー関連の調査研究など2事業で、コンサルタント会社に企画競争の「仕様書」の原案を書かせて同社の意向に沿った発注内容にするなど便宜を図った見返りに、男性役員から現金を受け取ったとされる。【宮崎隆、黒川晋史】
◇IT関連特需、数兆円規模
マイナンバー制度が生み出す市場は数兆円の規模に膨らむことが予想され、IT関連企業が受注競争を展開している。厚生労働省職員の汚職事件は、業界がこうした「特需」に沸く中で摘発された。
マイナンバー法を所管する内閣官房社会保障改革担当室によると、制度の導入に絡み、政府は情報ネットワークシステムの構築などで3000億円弱を投じる見込みだ。導入後も年間の運営費は300億円程度に上るとみられる。
民間分野の市場も大きい。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの春日丈実チーフコンサルタントは「官民合わせた市場規模は1兆〜3兆円程度。医療や金融分野でも利用されるようになれば、さらに市場は拡大するだろう」と分析する。
参入を目指す競争は熱を帯びているという。金融ジャーナリストの森岡英樹さんは「大手に限らず、IT関連企業にとって最大の特需になっている。初期段階から事業に食い込んでおこうとする企業も多く、今回の汚職事件のような事態が懸念されていた」と指摘。「業者選定は一人の担当者に権限を集中させず、プロセスを集団で共有するなどして透明性をより高める必要がある」と話す。【福島祥】