「東京」をブランドに
東京都が発表した「& TOKYO」ロゴに注目が集まっている。
「& TOKYO(アンドトーキョー)」ロゴは、東京都を1つのブランドとしてアピールする目的で作られたもので、都が商標登録するものの、一般にも広く使用を開放する方針(一部は要申請)だ。
このロゴで大きく問題になっていることが2つある。1億3000万円の作成費用とオリジナリティの低さだ。
1億3000万円の内訳は?
13日に行われた舛添要一東京都知事の記者会見で、費用の一端が明かされた。
舛添知事:(前略)全体1億3000万円なのですけれども、これ自身、作るのに500万円だということで、それから商標の調査をやるのに2540万円と、これはかなりかかるのです。それから、さまざまなPRツールのデザイン経費、これが約7000万円、それで、こういうグッズをいろいろ、皆さん、ご覧いただいたように作っているわけです。それで全体の監修、調整とか、消費税とかいうことであります(後略)。
当初、ネットでは「1億3000万円で作ったロゴかこれか!」のような反応が多かったが、デザイン等にかかった費用は、500万円+αとのこと。しかしこれで落ち着くとは思えない。
舛添知事が勘違いしていそうなのは、ネットユーザーが騒いでいるのは、商標や著作権もあるだろうが、根本的に「お金(税金)をかけるなら、もっと良いものを作って欲しい」との思いではないだろうか。
「良いもの」を、より具体的に表現すると、オリジナリティがあって、パッと見て「これは良いな」と感じるものだろう。そんなこんなでオリンピック招致で使った桜リースが浮かんでくる。
桜リースと比較すると、「& TOKYO」は「何だかなぁ」と首を傾げてしまうし、1億3000万円が500万円であっても「500万円かけてこれかぁ」と思いが消えない。
動画が「好評」と知事
横にそれるが、舛添知事がこう発言している。
自分で言うのもおかしいのですけれど、結構、私の出たやつは好評で、ぜひホームページでご覧いただければと思っておりますので。
これは知事自ら出演した動画のことに違いない。PRツールの1つなので、7000万円の一部で作ったことになる。
執筆時点における再生回数は、日本語版が約1200回、英語版が100回余りだ。「好評?誰に?」と思ってしまう。それともこれをきっかけに動画へと呼び込もうとする算段だろうか。
「問題ない」と言うものの
「& TOKYO」ロゴに戻ると、先の記者会見では、次のような発言もあった。舛添知事の発言が長いので2つに分ける。
テレビ東京・石井記者:「&TOKYO」のロゴの件なのですけれども。ニュージーランドの弁護士事務所のロゴに似ているという話題で、ネット上でちょっと盛り上がっているのですけれども、先ほど、著作権と商標権が違うともおっしゃっていましたが、まず、知事の受けとめと、あと、この2か月間、様々な調査をされてきたというお話ありましたけれども、その経緯も含めて、ちょっと、都民にどのようにご説明をされるでしょうか。
舛添知事:一生懸命探されたかもしれないけれども、ごまんとあります、こういうのは。記号ですから。パソコンで打とうと思ったら、これは、記号なのですよ。だから、これもごまんとあるので、著作権の対象にならないのです。だから、もっと見つかってもいいのです。アンドの書き方だって、どういう書き方をしてもいいので。ですから、全く問題はないので、要するに、悪い言葉で言うと、パクリとか、パクったとかいう話がありますけれど、エンブレムの話と全然違うのです。
先ほど、2540万円もかかったのだけれど、商標登録をきちんとやったわけです。したがって、「&TOKYO」について何かクレーム出たとしても、こっちが商標登録をしていれば、商標権は問題ありません。著作権はないわけです、基本的に。ですから、まさにそれを皆さん方にこの前強調して、法律の話を長くしたので、誰でもこんなロゴは書けますから。
どうも分かりにくいが「商標登録をしたから商標権に問題は無い」「記号だから著作権の対象にならず問題は無い」とのことらしい。
「大丈夫かなぁ」の思いが湧いてくる。と言うのは、発言の続きがあるからだ。
もし訴えられたら?
舛添知事は、こう続けている。
舛添知事:だから、むしろそういうことの法的なものを法律専門家ときちんとクリアしたということであるので、それで、自転車の例を出して、「BIKE&TOKYO」と、この間出しました。それで、ある自転車屋さんが、既に「BIKE&TOKYO」と商標登録をしていて、ほかの自転車屋さんがそれを使ったときには、商標権の侵害になって訴えられる可能性があるので、それを使って商売をするときには自己責任で、つまり、自分でお金をかけてチェックをして、大丈夫ですよとやってくださいと。そのリスクは常にありますよということは申し上げたのですけれど、著作権に関しては全く問題ないので、この前の大会エンブレムとは、これは全く違いますという、それは、そうご理解いただければと思います。
「自己責任」やら「リスク」やらの言葉が出てくるが、この発言を聞いて「& TOKYO」ロゴを使おうとするところが出てくるだろうか。
佐野氏デザインのエンブレムにしても、訴訟で負ける見込みは少なかったとする専門家の意見が多い。ただ企業や団体が、訴えられる可能性があるところに首を突っ込むとは思えない。
しかも東京都(舛添知事)は「自己責任」「自分でお金をかけてチェック」などと言っているのだ。
「ビジネスでなければ大丈夫では?」と思うかもしれないが、東京都が佐野氏デザインのエンブレムが入った紙袋の使用を中止した件もある。
無料で配布したり、内輪で使ったりするグッズであっても、使用差し止めを求められる可能性はあり、それまでにかけた製作費は無駄になる。
もっと言ってしまえば、今ごろ国内外(特にごく近いアジアの国)の目ざとい人が、「○○& TOYO」とか「○○& TOKO」なんてロゴを、せっせと(こっそり?)作り始めているかもしれない。
そして日本の企業や団体が「○○& TOKYO」を使い始めると、「ちょっと待った!」と言ってくるのだ。訴訟で負ける可能性が少なくても、有象無象の圧力に耐えられるだろうか。
「Plug & See」が反応
フランスのメガネショップ「Plug & See」では、日本からの話題が耳に入ったようで、ホームページで寄付をアピールしている。
それによるとロゴの変更などにかかる費用に充てるとのこと。当初は「東京進出……」などの文言もあったが、現在は変わっている。
当初の表示
Plug & See
現在の表示
Plug & See
「寄付」をクリックしたところ、本当にカードやペイパルなどで入金できるようだ。
何となく冗談半分かなと感じるものの、「ごまんとある」(舛添知事談)中には、オリンピックロゴで訴訟を続けているドビ・オリビエ氏並みに厳しい反応を示すところがあるかもしれない。
新国立競技場の建設計画やオリンピックエンブレムでは、批判する一方の舛添知事だったが、立場が変わった今回、批判をかわしきれるだろうか。