N高等学校記者発表会より
「ふつうの高校生になって将来どうするの?」
2015年10月14日(水)、六本木・ニコファーレで行われた記者発表会で、冒頭に流れたメッセージムービーにはこんな刺激的なキャッチコピーが踊った。
これは、カドカワ代表取締役会長の佐藤辰男氏、同社代表取締役社長の川上量生氏、ドワンゴ教育事業本部の奥平博一氏により、同社がかねてより準備を進めていた教育事業「ネットの高校」の詳細に関する記者発表会だ。
初公開となった学校名は「N高等学校」。2016年4月の開校を予定する同校は、授業も、課題の提出も、全てインターネット上で行う通信制高校で、修了後は高校の卒業資格が取得できる。
いつでも、どこでも、自分のペースで学べるネット学習の利点を活かし、好きなことに好きなだけ打ち込む時間が作れるというのも魅力的だ。実際、通常の科目以外に多彩な課外授業や職業体験が用意されているという。
さらに、クラス制を敷くことで学習の相談を気軽に行える担任がつく他、「学び」に必要な学友コミュニティの形成を重視して全生徒にSlackやGitHubアカウントを付与。さらにリアルな触れ合いの生まれる「ニコニコ超会議」で行う文化祭などのイベントを通じて、友人との親交も深められるという。
ニコニコ動画などで同社グループ会社が得意とする「双方向のコミュニケーション」を取り入れた、これまでの通信制高校とは一線を画する次世代の高等学校になる見込みだ。
学校設立は、川上氏からデジタルネイティブ世代へのエール
N高等学校設立の背景を語る川上氏
なぜ今、ネット授業を主体とする高校の開校に踏み切ったのか。N高等学校設立に対する思いを、川上氏はこう語った。
「何らかの理由で通常の修学レールから脱し、不登校や引きこもりと呼ばれるようになってしまう学生は近年増加傾向にあります。彼らの多くが日常的にネットに触れて過ごし、社会での居場所を失っている状況です。しかし、彼らは本当に落ちこぼれなのでしょうか。ネット社会である現代。デジタルネイティブ世代である彼らこそ、主役となるべき存在ではないでしょうか。そこで、来るべき時代に対応できるような高校を私たちの手でつくろうと考えました」
現在、不登校児童は全国に約17万人。しかし、社会は彼らの潜在的な能力や可能性を有効活用できていない。その現状に、川上氏は危機感を感じていたのだろう。
「私たちが動かなければ、きっと誰も新たな学校をつくろうなどとしない。だからこそ、N高等学校の設立を決意したのです」
まつもとゆきひろ氏など一流プログラマーから学ぶ、社会で活躍する術
写真左から、奥平氏、川上氏、佐藤氏
川上氏いわく、従来の高校との最たる違いは「卒業後の進路が明確になる学校」であることだという。その裏付けとなるのが、同校の特徴の一つである豊富な課外授業だ。
一流作家や編集者から学ぶ文芸小説創作授業や、創業50年を迎える専門学校運営企業・バンタングループの講師によるファッション・パティシエ・シェフ・声優などの各種クリエイティブ授業などが、ネットを通じて受講可能。
中でもこの日注目を集めたのが、業界で名を馳せるエンジニアによるプログラミング授業だ。
ドワンゴのトップエンジニアである戀塚昭彦氏や鈴木慎之介氏が講師を務めるほか、特別講師としてまつもとゆきひろ氏を迎える。Scala、JavaScript、Linuxなどの言語を学ぶことで、ニコニコ動画同様の動画サービスを開発できる程のスキルが習得できるという。
このプログラミング授業こそ、川上氏が思い描く「卒業後の進路が明確になる学校」に通ずるのだ。
「世界的にもプログラミング学習が推奨されている現代において、プログラミングスキルは社会での存在価値となり得ます。つまり、プログラミング授業を通じて、生徒たちが社会に出たときに就くべき職業を見出せる状況をつくりたいのです」
単に高校卒業資格を取得できるだけでなく、自由な時間を用いて将来を見据えた勉強ができるN高等学校。まだ幕開け前の同校だが、時代に合わせた学びのカタチを提案していることは確かだ。
取材・文/秋元祐香里(編集部)