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【社説】

高校生と政治 学校の萎縮こそ禁物だ

 十八歳から選挙権が与えられるのに伴い、文部科学省は高校生による政治活動を条件つきで解禁するという。元来、政治活動の自由は憲法で保障されている。生徒の主体性に委ねてこそ理にかなう。

 民主主義の意義や政治の成り立ち、選挙の仕組みについて教養を高める教育は大切だが、生徒の政治活動は望ましくない。長年そうした考えが高校を覆ってきた。

 旧文部省が四十六年前、学校の内外を問わず、高校生の政治活動を禁止する通知を出してからだろう。背景には大学紛争の飛び火があった。

 選挙権年齢が十八歳以上に引き下げられ、文科省は通知を出し直す。教育の政治的中立性を意識し、生徒の選挙運動や政治活動への警戒心を解いてはいない。

 通知案では、従来通り校内での政治活動は原則として禁じる。放課後や休日の校外での活動は認めるものの、一定の条件を課す。

 つまり自他の学業や生活に支障が出たり、生徒間で政治的対立が生じて教育の妨げになったりすれば禁止措置もありうる。一歩前進だが、やはり規制優先の発想だ。

 校内では、例えば、生徒会で平和宣言を採択する行為に待ったがかかる恐れもある。部活動で憲法改正論を練り上げたり、文化祭で原発を風刺する作品を発表したりするのも難しいかもしれない。

 先の安全保障関連法案に反対する集会やデモには、多くの高校生が出かけた。解禁される校外での活動も「勉強がおろそかになっている」とか「他の生徒を勧誘している」というような理屈で、制限される事態も生じかねない。

 政治活動は表現の自由に根ざした国民の権利である。学校は外圧に萎縮したり、体面を気にかけたりして、生徒の主体性を摘み取らないよう最大限配慮してほしい。

 生々しい政策課題を議論し、模擬選挙や模擬議会を実施する主権者教育が広がっている。現実の政治世界に興味や関心を抱き、行動に移す生徒も増えるに違いない。

 もちろん、学校は不偏不党の立場を求められる。教員は特定の主義主張を押しつけてはならない。けれども、生徒の取り組みに目を光らせ、政治色を帯びた活動には口を出すという後ろ向きの姿勢では、市民性は育つまい。

 山口県立高校で行われた安保関連法案の模擬投票をめぐり、自民党県議の追及に教育長が謝罪する一幕もあった。教育現場への政治介入は多事争論の気風を壊す。それは生徒の成長を阻むに等しい。

 

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