はじめてのPC。
自分が生まれて初めて購入したPCは、1999年に発売されたシャープの「メビウス PC-PJ2(以下メビウス)」だった。
特に何かこだわりがあった訳ではない。
デスクトップでもノートでもいいと思っていたし、とりあえず今は亡きラオックスのコンピュータ館に行って(当時は東京に住んでいた)、展示されているPCを見比べて気に入ったものを買ってきただけだ。
メビウスは、「低反射ブラックTFT液晶」なるものを搭載しており、ぶっちゃけ他のPCよりも画面が綺麗に見えた(個人の感想であり云々)のが、購入の決め手だった。
なにしろ、初めてのPCである。スペックなんかの知識も何も無かったし、とりあえず周りがWindowsユーザーばかりだったのでWindowsPC買っとけばOKくらいしか考えてなかった。
本当はMacが欲しかったのだけれども、当時はまだ初代iMacが発売されたばかりの頃でさすがに敷居が高すぎた。秋葉原にiMacを展示してあるショールーム的なお店があって、そこで少しいじった時にエフェクトとかカッコイイな〜とは思っていたのだが、買うまでの勇気は出なかった。
そんなこんなで、勘で「君に決めた!」と、半ば勢いでメビウスを買ってきたわけだ。
WindowsXP登場。
しばらくメビウスを使って、だんだん慣れてきた頃にWindowsXP(以下XP)が発売された。
ちょっと前にサポート切れになった時に、XPは「最も優秀なWindows」とか何とか言われたが、登場したばかりの頃はボロクソに言われていた。
WindowsXPから採用されたデザイン「Luna」は、当時の貧弱なメモリやグラフィックボードでは処理が重かったし、互換性の問題で動かないアプリケーションもあった。エクスプローラーのサイドバーも、「おせっかいすぎ。邪魔」とか何とか言われていた。
セキュリティに関しても決して褒められたものではなかった。まともに「使えるOS」として認識されたのは、2004年のService Pack2が提供されてからだったと、個人的には思っている。
で、XPが発売される頃になると、自分の使っていたメビウス(OSはWindows98 SE)もガタが来始めていた。
電源を入れて、完全に起動が終了するまで何分もかかるようになり、時々「例外」が発生してフリーズする。いわゆるBSOD(ブルー・スクリーン・オブ・デス)というヤツだ。
さすがにストレスフルになってきたので、PCを買い換えようと考えていた。ちょうどその頃に知ったのが、PCショップに自分の好きなパーツを指定して組み立てて送ってもらう、BTO(Build to Order)というシステムだった。
前述の通り、WindowsXPは発売当初は重いOSだったので、なるべくいいスペックの物を買いたかった。だが、お店に並んでいるメーカー製のPCには、自分の希望を満たしてくれるものがなかなか無かったので、思い切ってBTOで注文してみることにした。
選んだショップは、Faithというショップだ。
BTOに関する知識はなかったので、PC関係に詳しい友達に相談して決めた。
注文して1週間後くらいで家にPCが届いた。これで高スペックウハウハPC生活だぜ〜と思いながら開封し、セットアップ。起動時間もくたびれたメビウスよりずっと早く、店頭で見たメーカー製PCよりもずっとキビキビ動いていた。
だが、問題が一つあった。BTOのPCに付いてきたキーボードが恐ろしくショボかったのである。キータッチがポコポコしていて、押しにくい事この上ない。タイピングしてて気持ち悪くなってくる感触に耐え切れず、キーボードを調達することにした。
メカキーとの出会い。
例のPCに詳しい友達と一緒に秋葉原に赴き、キーボード専門店(だったと思う)に入った。壁一面にキーボードが飾ってある凄い店だった。
展示してあるキーボードは、キータッチを実際に確かめる事が出来たので、色々触って回った。その中に、明らかにキータッチが他のと違うキーボードがあった。押すとカチャカチャ気持ちいい音が鳴るのである。
なんでこのキーボードはカチャカチャ言うのか知りたかったので友達に聞くと、「ああ、それはメカキーだよ」という答えが返ってきた。
メカキー?
友だちが言うには、そのキーボードは「メカニカルキーボード」というものらしい。なんだか雄々しい名前だ。
当時、キーボードには大きく分けて3つのタイプがあった。
まず、パンタグラフキーボード。ノートPCに使われる薄型のキーボードだ。自分が最初に買ったメビウスのキーボードもこれだ。
次に、メンブレンキーボード。これが前述のBTO PCを買った時に付いてきたポコポコするタッチのキーボード。自分が掴まされたのはその中でもかなりの粗悪品だった。まあ、オマケみたいなものだから仕方ないけど。
最後が、メカニカルキーボード。ラバードームでキーを支えるメンブレンと違って、金属板が仕込まれており、不快な沈み込みがない。あのカチャカチャいう独特の打鍵音はこの金属板の音だったのだ(本当はもっと複雑だけど、ここはザックリにします)。
自分は、このメカキーの音に夢中になり、それを買った。世の中には、こんなに打ちやすいキーボードがあるものなのかと感心しながら使った。
その後も、何度かPCを買い換えたが、付属のキーボードは使わずにすぐ捨てた。自分にはメカキーがある。こんなオマケのキーボードなど要らないのだ。世に出回るメーカー製のPCも全てメカキーにすればいいのに…などと時代錯誤な事も考えるようになっていた。
後から知ったのだが、昔はPCのキーボードはメカニカルキーボードが主流だった。だが、コストの面からメンブレンキーボードに取って代わられていったのだ。そんなことも知らずに、自分は最前線を走っている気になっていた。
メカキーにはその素材により茶軸、青軸、赤軸などの種類に分けられる。細かい説明は長くなるので避けるが、この軸によってタイピングの感じや、打鍵音が変わってくる。自分はカチャカチャ音の鳴る青軸が好きだった。
Macにスイッチ。
2011年に、WindowsPCに別れを告げて、Macユーザーになった。
メカキー信者だった自分も、今では以前程のこだわりがなくなってしまった。それもこれも、MacBookProのキーボードがそれなりの打鍵感があり、使っていて違和感のないものだからだと思う。
Macにする前に一時的に使っていたCULV(ネットブックの後に出た格安PC。流行らなかった)のキーボードは、Macと同じアイソレーションキーボード(今風の、キー同士の感覚が広く、隙間が枠で塞がれているもの)だったにも関わらず、恐ろしく使いにくかった。もしMacBookProがあんな打鍵感だったら、今ほど愛用するようになったかは自信がない。
すっかりMacのキーボードに慣れてしまった自分だが、今でもたまにセキュリティ関係の更新の為に、WindowsPCを起動することがある。メカキーを触るのは、その時だけになってしまった。
その際、かつて愛したメカキーのカチャカチャ言う打鍵感に酔いながらタイピングをする。そして、やっぱりメカキーはいいなぁと、改めて思うのだ。