妊婦死亡、流産、14歳の母親……知られざる産婦人科の現場から〜大反響漫画『透明なゆりかご』作者・沖田×華さんに聞く
現代ビジネス 10月14日(水)11時1分配信
---作中では沖田さんだけでなく、医師やベテランの看護師さんも呆然としていましたよね。それは初めてのことだったから?
そうですね、それもあります。実際は分娩中に妊産婦が亡くなることは少なくありません。たとえば、いきんでいる時に脳の血管が切れてしまったり、高血圧症候群になって一気に血圧が200 まで上がってしまったりといったケースです。
ところが病理解剖でわかった出血の原因は、癒着性胎盤。本来出産すれば自然に剥がれるはずの胎盤が子宮にくっついたままになってしまうという珍しい症例でした。外科的処置でもって子宮から剥がす必要があるのですが、第二子が生まれる時に引っかかってしまったらしく、剥がれてしまったんです。
---誰も予想しない原因だったんですね。
出血した時にベテラン看護師が想定していた3つの原因の中には含まれていませんでした。
---3つの原因とは?
1つは子宮破裂。2つ目は胎児が生まれていないのに胎盤が剥がれてしまう胎盤早期剥離。最後は何かしらの理由で動脈を傷つけてしまった、の3つです。
その後、癒着性胎盤は妊娠中に見つけることが難しいと聞きました。色々予測しなければいけないけれど、非常にまれな症例の場合はそれだけじゃどうにもならないこともあるのだと、この時イヤというほどわかりました。
そして、後日病院に怒鳴り込んできた旦那さんを見て、あらためてあってはならないことが起こってしまったのだと痛感しました。
---死亡事故の後、院内ではカンファレンスが開かれています。カンファレンスとは具体的にどのようなことをするのでしょうか?
看護師がおこなうカンファレンスの目的は問題解決です。どうしてこういう事態になってしまったのかということを当時の状況や事実と照らし合わせ、論理的に分析する会議のようなものです。
最初はアセスメントといって、看護過程に関する情報を共有します。「適切な処置が問題なく行われたか」などだけでなくと、分単位で患者さんの容態の変化を把握し、少しでもおかしなことはなかったかを見つけていく作業をします。
問題点を見つけることができれば同じことは二度と起こりません。「カンファレンスをきちんと行うことで防げるものがあるなら防ぎたい」と皆思っているので、感傷にひたることもなく冷静。まるで学校の授業を聞いているかのようでした。
けれど話し合った結果、この問題は分娩前に発見することはできなかったという結論に至りました。
---そういう場合はどうするのですか?
この時は緊急時のマニュアルが作成されました。基本は自己判断をしないこと。簡単に安全とか大丈夫とか決めつけず、少しでも数値がおかしいと思ったら先生に相談する。それは通常の出産もハイリスク出産も同じです。
他には双子またはそれ以上の多子出産の場合、緊急時の対応ができる大きな病院に紹介状を書いて帝王切開で安全に産んでもらうというのもありましたね。
マニュアルは事故などを未然に防ぐことができます。けれどマニュアルがあるということは、前例があったということ。
あの場にいたひとりひとりが思った「もしあの時、事前に総合病院に転院させていたら」「救急車が渋滞で遅れなければ」という、たくさんの“たられば”という後悔がマニュアルの項目にあらわれているんです。彼女の死を通し、皆より一層慎重になりました。
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