日銀は「予想インフレ率」を重視している
8月鉱工業生産指数や9月短観など、このところ、景気低迷を示唆する経済指標の発表が相次いでいる。また、8月消費者物価指数は、生鮮食品を除く総合(コア)で前年比-0.1%と、2013年4月以来のマイナスとなった。このため、市場では、日銀による追加金融緩和の期待が高まっている。
だが、10月6、7日に開催された日銀の金融政策決定会合では、追加緩和は見送られた。日銀は、中国に代表される海外景気の減速懸念には十分留意しながらも、「デフレ解消は今なお進捗中である」という基本スタンスを変えなかった。
なかでも注目すべきは、日銀が「予想インフレ率の基調は安定している」と判断している点である。
現在の日銀は、「2%のインフレ目標」を掲げている。これはできるだけ早くインフレ率を2%近傍の水準にまで引き上げるだけではなく、将来にわたって「安定的に」2%近傍のインフレ率を実現させることも含んでいる。すなわち、これは、日銀が、足元の実現インフレ率だけではなく、「予想インフレ率」をも同様に重視していることを意味している。
だが、政策決定にとって意味のある予想インフレ率を手に入れるのは、さすがの日銀でも難しい。日銀は昨年の3月以降、短観調査対象企業全社に対し、1年後、3年後、5年後の販売価格、及び物価全般の見通し(対前年比)についてアンケート調査を実施し、企業ベースの予想インフレ率を直接把握しようと努めている。
これによると、9月時点での全規模全産業での自社の販売価格の平均予想上昇率は、1年後が+0.7%、3年後が1.4%、5年後が+1.8%で6月時点から0.2~0.3%程度下方修正されている。
日銀にとって、年率で0.2~0.3%程度の下方修正は、「企業がインフレ見通しを下方修正させた」と判断するほどの低下幅ではなかったかもしれない。だが、このアンケート調査は、あくまでも調査対象企業の「主観」に基づいたものであり、各企業の経営者が販売価格や物価全般の見通しを毎四半期毎に定量的に推定しているとも思えない。
また、定性的な見通しの場合、これまでの動きからのマイナーチェンジで終わってしまう可能性も否定できない。そのため、各企業の回答結果を単純平均(もしくは中心値をとっても同様である)しても、その数値の統計的客観性にはやや疑問が残る。
この調査は、昨年3月から開始されたものなので、わずか7四半期分のデータがあるのみである。日本企業に再びデフレマインドが出てきたか否かは、少なくともデフレ期の予想インフレ率の動きをみなければ、単純な平均値の計算だけでは把握が難しい。
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