アドベンチャーゲーム研究処

アドベンチャーゲーム(AVG・ADV)の旧作から新作まで、レビュー+紹介を主として取り上げるブログ。(更新は不定期)
取り上げる範囲は家庭用のみです。


テーマ:
【概要】
 90年代中盤に発生したPC美少女ゲーム移植ブームの一翼を担った「EVE」シリーズの、ファーストリリース作品にして最も評価が高く、そしてその後のシリーズを迷走させた原因ともなった『EVE burst erorr』をPS2向けにリメイクした作品。リメイクにあたり、声優や仕様に若干の変更が施されている。一応ミステリーという体裁の作品だがSF的な要素が多く、プレイヤーからはミステリー物という認識はされていない。PC版のシナリオライティングを行った菅野ひろゆきは本作で大出世をしたことはあまりにも有名。元ネタのSS版は累計約19万本、SS版から6年半後に発売されたこのPS2版は約4.5万本を販売。市場価格は1000~2000円程度で、総プレイボリュームは13~15時間ぐらい。



【システム】
 ゲームデザインそのものは、かなりオーソドックスな選択肢総当たり型のADV。独自システムとして、「探偵編」と「エージェント編」の2本のシナリオを行き来して話を進行させるマルチサイトシステムを採用している。このシステム、分かり易く言えばザッピングシステムとも言えるのだが、本作はシナリオが一本道なので互いの行動で相手に影響を与えるような選択肢は登場しない。ただし、二つのシナリオを並行してプレイさせるために、片方の話を進展させすぎるとシナリオ進行ができなくするポイントを用意しており、この手の作品にありがちなただ読むだけの状況は避けられている。

 バックログ、スキップ、音量調節、随時セーブ可能など、元が元なこともあって、やりすぎとも言える快適性を実現しており、プレイして不憫に思うところは殆ど無い。この手の作品に慣れているプレイヤー以外でも、その世界観を受け入れられれば、ゲームにすんなり入り込み完走することが可能だろう。

【ゲームテンポ】
 総当たり型の作品ということで、ゲーム進行の障壁がどの程度のバランスで配置されているかがゲームテンポの善し悪しを握っているのだが、本作は総当たり型ADV全盛時の作品ということでバランス配分のツボは心得ており、進みすぎず詰まりすぎずで心地よく進行可能。

 前述通り、シナリオを進めすぎると一方のシナリオを並行してプレイして貰うため、進行停止してしまうポイントが存在するのだが、本作よりそのポイントに到達するとプレイヤーにその事実を教えてくれるサイトNaviボタンという物があり視点変更を行うタイミング自体はかなり分かり易くなったいる。
 またPS2というハードの都合で、若干ロードが長い気もする。まあ、PS・SS期(ロード時間は勿論、サイトチェンジごとにディスクを交換しなければならなかったりした)と比べれば幾らかマシではあるのだが、それとこれとは話は別だろう。

【ストーリー】
 ミステリーという体裁なので、数々の伏線を一気に回収する構成となっており、かなり多くの謎が終盤に明らかになるという、据え置き的なADV盛り上がり方をキッチリ心得たストーリー展開でかなりカタルシスが高い。

 ただし並行して進行する2つのシナリオのうちのひとつである「エージェント編」は、SPとして防備(=守り手)することをストーリーテリングを中心としているためか、不測の事態に“備える事”がゲームプレイの目的となり、「探偵編」の捜査すること(=攻め手)の様な“次の目的地”がどこかハッキリせず、不測の事態が起きるまで、ただただ選択肢を総当たりで“待つ”ことが多く、若干退屈なゲームプレイになってしまっている。
 またこのシリーズ全体に言えることだが、ストーリーの収束が終盤に偏り過ぎているため、そこから慢性的な中だるみが発生しており、サイトチェンジによって交互にプレイする都合上流れを削いでしまっている部分もあり、途中で飽きてしまう可能性もある。

【ここが○!】
・ツボを押さえた、シナリオ展開とバランス配分。
・ストーリー展開自体は面白い。
【ここが×…】
・アニメーションが売りのひとつなのだが、立ち絵は兎も角ムービーシーンの作画が酷い。
・キャラクターや世界観に好みが二分するところが多い。

【総括】
 美少女ゲームと言うことで敬遠率の高そうなタイトルではあるものの、10年以上支持を集めるのはダテではなく、ADVファンの好むツボはかなり心得ている。評判は良いものの蓋を開ければ…という展開の多い美少女ゲームでも「当たり」の部類に入る作品と言って差し支えないデキなので、気になる方はプレイを推しておきたい。ただしシナリオの立ち上がりの悪さと中盤の中だるみ、設定自体も美少女ゲームという枠からはみ出ていないという点には注意が必要だろう。

 ちなみに、このシリーズを混沌に突き落とした『burst error』の次作、『EVE the lost one』のシナリオを担当した山田桜丸氏は、昨年(2008年)に直木賞を受賞している。…ことはそこそこ有名か。どうもADV業界にはその実力は兎も角、ファンの気持ちというものが理解出来ない書き手が多いような気がする。

【Next Title...(次に手にとって貰いたい作品)】

PS『EVE ZERO』(『burst error』の前日譚。)
PS2『探偵神宮寺三郎 InnocentBlack』(話の展開が少しEVEチック)
【得点】
8/10
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