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相手に恥をかかせない。人にはプライドや尊厳がありますから何事にも気遣いが必要です。例えば、ホンダ創業者の本田宗一郎氏は常に相手の立場になった言動や行動ができたことから社内外を問わず信奉者が多かったと聞きます。当時の副社長の藤沢武夫氏が語るエピソードで次のようなものがあります。

仕事の契約で、外人と料亭に行った際、その方が便器の中に入れ歯を落としてしまいました。落ち込んでいるのをそのままにはできずに、本田宗一郎氏は便器のなかから入れ歯を拾い出して、クレゾールで消毒をしてお湯で洗いました。さらに薬品の臭いがついていないか自分の口の中にいれて確認をして、陽気に、人を笑わせながら廊下で踊りながら、その人に届けました。

本田宗一郎氏は自分が若かったとき、金と権力で、人の嫌がる仕事を押し付けられたことの辛さを知っていました。だから、他人にはそのようなことをさせたくないと堅く心にきめていたそうです。相手の立場を思っていないと、このような対応は取れないという有名なエピソードです。

相手に恥を欠かせないことは、マネジメントにおける重要なスキルです。例えば、人を叱るときにはその人の本音が表れます。感情に任せて思うままに叱り続けていると、人格否定につながり、部下ならやる気をなくして意欲が減退してしまいます。

また人前で怒鳴り散らかす上司が良くいます。本人は威厳をひけらかしているのかも知れませんが、周囲の意識は硬直します。正しくても相手に逃げ道を残しておかないと禍根を残します。叱るときには褒めてから叱る、叱ったあとにほめるなど、フォローを忘れないことも大切です。頭ごなしに叱ったり、相手の言い分をまったく聞かないと単なるパワハラになってしまいます。

以前、私が顧問をしていた会社では、上司が衆目の前で部下を罵倒することが日常でした。売上の悪い部門がターゲットです。「死んでしまえ」「だからお前は嫌われるんだ」「お前のためを思って言っているんだ」。その度に部下は萎縮します。いま考えればかなり危険なワードが並んでいました。

上司が部下を叱る場所は社外のほうが無難です。コーヒーの美味しいカフェなど誰の眼にも留まらない場所が理想です。そして二人とも真剣な面持ちです。このような光景を見たら、単なる打合せか指導の可能性が高いかも知れません。部下を叱るときほど上司のマネジメント力が試されると思います。

尾藤克之
経営コンサルタント

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