厚労省汚職:検討段階から癒着 収賄容疑で室長補佐逮捕
毎日新聞 2015年10月14日 02時30分(最終更新 10月14日 02時45分)
◇マイナンバー制度に関連する事業を巡り警視庁が摘発
マイナンバー制度に関連する厚生労働省の事業を巡り、同省職員と業者の癒着が警視庁に摘発された。マイナンバー法の施行を受けた番号通知の作業が進む中での贈収賄事件。厚労省は制度自体への事件の影響を否定するが、システムに精通し、自らの立場を利用した職員の不正を見抜けなかった同省の責任が問われそうだ。【古関俊樹、宮崎隆、黒川晋史】
厚労省情報政策担当参事官室室長補佐の中安一幸容疑者(45)が収賄容疑で警視庁捜査2課に逮捕されたことを受け、厚労省は13日午後7時から緊急の記者会見を開いた。冒頭で田中誠二人事課長は「国民のみなさまに深くおわび申し上げる」と述べ、頭を下げた。
だが、マイナンバー制度への事件の影響について問われると、中安容疑者の上司にあたる情報政策担当参事官室の佐々木裕介参事官は「大きな影響はない」と繰り返した。佐々木参事官は「(中安容疑者が)マイナンバー導入に向けてのシステム面の企画・立案に直接関与していない」と強調。「厚労省の行政政策に国民が疑念を抱くという影響はあるだろうが、制度の導入そのものには大きな影響はないと考えている」と釈明した。
警視庁による摘発の対象となったのは、同省が2011年10月に公募した二つの委託事業だ。いずれも、社会保障分野でのマイナンバー制度の実現に向けた厚労省の調査・検討の意味合いを含んでいた。マイナンバーの準備段階で業者との癒着を背景とするシステムづくりが行われていたことになる。
11年4月には、マイナンバー制度を巡り、当時の民主党政権が「社会保障・税番号要綱」をまとめるなど実現への動きが具体化しつつあった。翌12年に出された関連法案は衆院の解散でいったん廃案になったが、自公政権が一部修正のうえ改めて法案を提出し、13年に成立している。
2事業のうち一つは、事業の表題が「社会保障分野での情報連携のための通信・認証・認可など要件定義に資する提案請負業務」(約1億4000万円)で、医療機関や各保険組合などが連携するための情報システム作りを目的としていた。もう一つは「社会保障分野での番号制度に伴う利用場面の実装設計に資する仮想環境構築請負業務」(約7400万円)でインターネット上に仮想のシステムを試験的に作り、適切な情報の活用法を調べるためのものだった。
捜査関係者などによると、中安容疑者は情報システムの知識が豊富だったことから、2事業の企画競争で担当部署のチームを統括する責任者として関わっていた。前者の事業には2社、後者には4社が企画競争に参加したが、いずれも贈賄側のコンサルタント会社が受注した。捜査関係者は「発注内容の原案を作成しているのだから、(贈賄側の業者が)高い評価を得るのは当然の結果だ」と指摘する。