【社説】「正しい歴史教科書」作り、完成を急ぐな

 韓国教育部(省に相当)は、歴史教科書を「国定化」する方針を明らかにし、新しい教科書の別称を「正しい歴史教科書」と名付けた。政府・与党からは「バランス教科書」「統合教科書」「単一教科書」という言葉も聞かれる。どうにか「国定」という修飾語を避けようとした結果だ。しかし、どんな表現を使ったとしても、国家が教科書の発行を独占し、学生にとって選択の余地がなくなる事実に変わりはない。

 教育部は国定教科書の配布時期を2017年3月と定めた。今年11月に執筆を開始し、1年以内に完了し、来年12月に1カ月間の監修作業と適合性検討を行うという計画だ。朴槿恵(パク・クンヘ)政権の任期が満了する前に新しい歴史教科書を教室に送ろうとしているわけだ。

 現在問題になっている検定教科書は、執筆、検定、基準告示から検定発表に至るまで2年かかる。それでも検定に合格した教科書8種類から829カ所の誤りが発見され、後から修正された。教育部は新しい歴史教科書について、モデル学校で数カ月間研究授業を行うプロセスも省略しようとしている。余裕がないスケジュールでいい加減な編さん作業が行われる懸念が示されるのは当然だ。

 これまでの検定教科書に偏向や誤りが多かった点は教育部と国史編さん委員会による責任が大きい。教育部がこれまで教科書の執筆基準と方向を明確かつ詳細に示し、国史編さん委が指針に基づき細かく審査していれば、こんなことは起きなかったはずだ。教育部と国史編さん委の能力と姿勢が一新されなければ、いくら教科書を国定化してもまともな歴史教科書が出来上上がる保障はない。

 国史編さん委は理念的に左派、右派から20-40人の執筆陣を集める計画とされる。国民が望むのは左派と右派の機械的なバランスではない。筆者が多いからといって、良い教科書ができるわけでもない。近現代史研究者の大多数が一つの歴史観に偏っているのが韓国歴史学界の現実だ。その上、多くの歴史学者が教科書国定化に反対している。そうした状況でどうやって優秀な筆者を集めるかに関する苦心の跡やビジョンは教育部の発表にはない。

 先進国の歴史教科書は学生のみならず、全国民の教養書になっている。それほどやさしく、面白く、内容が豊富だ。教科書1冊をつくるのに5-6年をかけた結果だ。現在の検定教科書では駄目だという国民的な共通認識は既に形成されている。現政権が誤った歴史教育を正す基礎を築けば、それだけで大きな功績となるはずだ。任期中にやり遂げると執着するあまり、無理を押し通せば、歴史教育が政治に振り回されるまた一つの事例として記録されることになるだろう。

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