シュガードロップ・ブレイクアウト -
簡単に話を説明すると、主人公は皇女で、暗殺云々に巻き込まれそうになり12歳になるまで帝都とは別の離れた土地で暮らしていた。そこをもうそろそろいい頃合いだろと帝都に呼び戻され、初めて父親の顔を目にする。そこで父やいろんな人達の思惑に巻き込まれながら皇女としての日々を過ごしていく……というもの。一応地球上の未来の話だけども、宮廷ファンタジーというか中世的な雰囲気がある。
シナリオについては楽しめたところもあったけど、上手く入り込めなかったところが多々あったのは否定出来ない。この理由は後述しますが。イマイチ乗りきれない部分もあったけど、それでも各々の行動の理由は理解できたし概ね納得できた。ジャンルとしてはダーク恋愛ノベルゲーだけど、恋愛要素が濃いわけではないし、そういった意味での過程を期待すると少々肩透かしを喰らうかも。そんで、あるところで同人ゲーだからこそな自由度高い展開が降り注ぐのでご注意。
主人公は女性で周りにはたくさん男がいるけど、大きく2本の道に分かれていて2人しか選べないが、どちらも結末や感情には納得できる。乙女ゲームといえば乙女ゲームだけど、『ノベルゲーム』という表現が一番近いゲームだと思う。
しかし同人ゲーをやる度にエンドロールで流れるスタッフ数の少なさに度肝を抜かれます。シナリオ量もそれなりであるのに、システム関連等々をこの人数でやっているのかと思うと、好きだからこそ出来る努力の技なのかなあとも感じた。システムや演出は驚くような出来で、場面演出も効果的に使っていて、動作はサクサク。動作機能的には文句なしでした。保存時や再開時の確認ダイアログが出る出ないを選べるのはとてもかゆいところに手が届いた。クイックセーブとか言っておきながらダイアログ出すとか全然クイックじゃないなと思っていた人間なので。
何より凄いのは、このゲームにはほぼ立ち絵が存在せずに、まるで漫画でも読んでいるかのようにスチル演出が豊富であること。その数1000枚以上。絵は正直に申せばお世辞にも綺麗とは言いがたいけど、この数を書き上げて色塗りして……な作業は相当な苦労だっただろうなと。そしてこの演出があったからこそ、このゲームをより楽しめたところが大きいのだと思った。
選択肢はそれほど多いわけではないけど、重要な場面で迫られる事が多く、そうでなかったとしても大分経った後にED分岐に響くものが多くて若干大変だった。シーンスキップは便利だったけど、シーンが終わる度に止められるので、周回するのにはあまり向かなかった。あと画面上にボタンが無いので、いちいち右クリックの後にシーンスキップを選ばなければならなかったのもちょっと辛かった。
ちなみに自分はシェア版をプレイしました。フリー版では本ルートを丸まるプレイできるので、そちらでやってみて相性が良さそうであればシェア版をプレイしてみるのが良いと思われる。ただ、それぞれの場面で、どんな行動をしていたかどんな感情を持っていたかはシェア版でしか明かされないのでご注意。
少々物足りない部分もあったけど、買ってよかったと思えたし、キャラクターは一部を除き好きになれました(除かれた一部の人はお察しください、後述します)。フリー版のままでは相手の心情がわからなくて展開に疑問を持ったまま終えてしまうと思うので、個人的には是非シェア版をオススメしたい。フリー版本編一本道では納得が行かなかったけど、サイドストーリーを読んでいく内にどんどん腑に落ちていってストーリーに愛着が持てるようになったので。言い換えれば、フリー版だけでは納得できるとはちょっと言い難い出来。
以下よりネタバレフルオープンな感想です。
うーん、満足した部分と、そうでない部分がきっぱり分かれている。
まず一番最初に引っかかったのは世界観。ゲームをする前にシナリオ設定的な意味で事前情報をあまり仕入れない身としては、この話が中世的な創作の世界観なのか、地球上の話なのか疑問を持った。実在する大陸の名前は出てくるのに、それを利用したような地形的なお話は殆ど出てこないし、そういう世界観を組むのであれば、もっとその土地ごとの特色とかを織り交ぜて欲しかったなと。あと、テレビがあるのに、通信的なやり取りは手紙で、なのにホログラムシステムがあるという……時代は後退してるの進んでるの?とそこを考えるとそれが気になってしょうがなくなった。通常的な演出は後退しているという演出なのに、時たま現代的な要素が織り交ぜられているのとても混乱する。
あとほぼ少数の登場人物だけで話が進んでいくので、実際にどんな圧力があってどんな力関係で、というのはわかりにくかったというか、それほど重厚ではなかった。「高貴なるスミレ色」っていうのがどれだけ重い物なのかというのも、作中で重要だと語られる割には、『どれだけ重要か』というエピソードが薄くて、そんなに重要なことだと伝わりにくかったというか。
そんでもってもう一つ引っかかったのは、恋愛過程。これがもう少ししっかりしていればもっと楽しめたんだろうなあと……サブキャラたちの想い(父親とかエリンとか)はわかるけど、主人公がヒーロー側へ思いを寄せる展開が『それだけで?』といった感じだったので。もう少しエピソードがあって、その人の想いとかに惹かれる様子が見たかった。作中では『好きなことに理由なんてない』みたいに語られていたし、ほぼ一目惚れな感じもするけど、物語を楽しむ上ではそれじゃ物足りないというか。12歳じゃ仕方がないのかなあ、とも思うけども。
一人称視点と三人称視点が混ざって混乱もするけど、そちらは慣れれば大丈夫だった。わかりやすく背景色とかで色分けしてくれたらより良かったなと思うけど、読みやすい文章で苦が無く進められた。大変だったのは人名が横文字で覚えるのが大変だったけど、これは自分のおつむがついていけないだけなので若干へこんだ。
満足した点は、ストーリーの根幹がしっかりしていること。世界観設定には混乱したけど、各々がどういう状況でどういう思いを抱いてどういう行動に至ったかはよく理解できた。ただ前述したけど、本ルートだけでは納得は出来なかったので、全部プレイ出来て良かったなあと。途中、飽きが来そうなところでドーンと来るので、そこからの展開にはかなり引き込まれていった。後半はちょっと駆け足かなと思えて、終わり方もここでなのかとちょっと思ってしまったけど、明るい未来が見えるようで心持ちすっきり終えることが出来たのは良かった。
以下よりキャラ感想。
・マーゴット=エディス・ヴィラ・アヴァロン
皇女であるけども、その立場で少しだけ大人にならざるを得なかった普通の子。本人も自覚していたけど、自分に皇帝になる力量は無いと思っているし、読んでいる自分もそう感じた。特別頭が切れるわけではないけど、ワガママを言えないと我慢もするし、普通の子であるにも関わらず生まれで特殊な環境に置かれてゆがんでいく彼女を見るのはただただ可哀想だった。彼女には特別コレが良い!といえるような魅力が無かったのが残念かな、と思うけど、彼女にこんもり盛られた不憫設定のおかげでそんなことはもはやどうでもいいかなと思える域にまで達した。
特別秀でていた母親とそっくりなおかげで、母親を知っている人が自分を通して母親を見ている、という特殊な辛さも二重に重なって切なかった。彼女の母親を知らないロディスに惹かれるのはよく分かる。あとほぼ一目惚れとは言え、今作中一であろう器のデカさを披露したロディスに一発で惹かれるあたり彼女の男を見る目は確かなんじゃないだろうか。なんだかんだこの国は安泰だな、と思った。
後半、父親からの性的暴行(敢えて怒りを込めてこう言わせてもらう)を、自分が母親を殺したという思いからそれを受け入れる様子は、DVに陥ってしまう人の心情を見ているようで辛かった。心優しいのに環境のせいで歪んでしまった子、それを守るべきな大人たちの不甲斐なさよ……ED後は普通に普通の幸せを手に入れられると良いなと思いつつ、彼女もこれから来るであろう困難に立ち向かう強さを育てていってほしいなと思えました。
・ロディス・カスタニエ
TrueEDをクリアした時にはロディスの行動理由がさっぱりわからなくて最後の唐突なプロポーズにはぽかんとするしかなかったけど、二周目からサイドストーリーを開放する度にロディス来い!ロディス!!と思えるぐらいにはロディスにハマった。まさしく今作中一のヒーロー。4年も放ったらかしたくせに!とか言われてたけど、いやそれで彼が責められるのも筋違いだと思うし、利用すると近づいたくせして純粋な姫だとわかるやいなや手を引っ込めてしまった彼の性根の優しさが胸に来るものがあった。ていうか、性的暴行シーンを見せつけられて、かなり厄介な展開だとわかっているのにそれでも手を差し伸べて『救いたい』と思って行動に移す彼の器でかすぎて、マーゴットだけでなく私までロディスに救われた。彼が居なかったらこの作品を好きにはなれなかっただろうなあと思うほど。周りの大人達はロディスさんを見習うように、特に父親!オメーのことだよコノヤロウ!
一つ心配なのは、マーゴットへの感情は同情以外のなにものでもないんだけど、今後彼も恋心をいだいてくれるのだろうかと。純粋なマーゴットにある意味惹かれていたんだろうと思うけど。どうやら世渡り上手らしいから、お飾りの皇帝でも彼が舵をきればなんだかんだ上手く行ってしまいそうな。裏がありそうな人間には徹底的にやりそう。そうだったら良い、サイコウ。
・ジェラルド=エリク・アヴァロン
THE不憫。生まれながらにして姉の守護として暗殺諸々の技術を叩きこまれ、姉を慕い、そして自分の置かれた状況を不幸とすら感じていないのが更に辛い。影の剣ルートで実の父のことを『父上』と呼んでいたのは本当に可哀想だった。
性根は優しく押しに弱いところを見ると、『剣』として性格が向いていないのがよくわかるから、更に辛かった。なんか別のところで幸せになってほしいなあと思うけど、ジェラルドから『姉』をとり除くことはもう無理なのだろうか。彼も姉とは違った意味で不憫な人生を強いられているのに、幸福になれそうなルートが一つもなかったのは悲しいけど、これはそういうゲームじゃないので納得はできた。ていうか影の剣ルートでも置いて行かれるのが悲しくて。後はもう私が脳内で幸せにしてやるからこっちへおいで……。
・エリン・グレイ
遅いんだよ!来るのが!何が剣だこの野郎!と殴りかかりたかったけど、サブストーリー読んだらなんだか納得してしまった。雷に照らされる山が綺麗で、って表現がすごく好きで。それで肝心なところを逃してしまうのも先生らしいし、なにより一番悪いのは先生じゃないしなあ。先生の過去に何があったのかはわからないけど、先生も主人公の母親に囚われていて、主人公を支えるべき一番身近な存在が別の存在に囚われているっていうのが……主人公の逃げる場所が本当にないなと。ただ、4年も身動き取れなかったのは猛省していただきたいかな。
影の剣ルートではようやくいろんなものを捨てて、ある意味幸せなルートであったと思う。あとTrueではそんなに活躍できなかった先生が、唯一と言ってもいいぐらいフルに活躍できたルートだった。ていうかなんだかんだ、役得だよな、先生……ずるいぞ……。
・ゲオルグ・アヴァロン
主人公の父。アンモラルな展開があると聞いて、弟か……弟来るか!?と鼻息荒くしてたらお前かーい!で椅子ごとひっくり返った。序盤からしてすでに私のヤバイ奴を感知するセンサーは働いていたんだけども、彼が眼鏡って時点で大体察しておくべきだった。ただ、実際あの展開があったからこそこの物語はスタートするんだろうなとも思える。
奥さんのことは本当に愛していて、愛娘と12年も離れ離れになったことは不憫とは思うけど、その募った思いを愛娘へ性的な意味でぶつけるのとはまた別だし、綺麗にドン引いた。まだ何も知らないような12歳の子を自分の欲の吐け口にするって、自分の中の心のハサミがすかさず顔を見せた。
あと、ダメだとわかっているのに堕ちていくだけならまだしも、最後の最後まで自分の命を他人に任せるその根性の無さがイヤ。自分じゃ死に切れないだろうというのはわかるけども、エリン、そして主人公と、他人に自分の命の判断をさせる展開が多くて猛烈にイライラした。そのうえ4年も性的虐待って……最後の最後までなんだかんだ主人公の側にいるのが非情に腹立たしかったし、誰も殴ってくれなかったので、私が殴るから表へ出ろ。
でも、この展開はまさしく『同人ゲー』だからこそできる展開で、それを求めてプレイしたのでそういう意味では満足だった。欲を言うなら、どういうふうに狂っていったかも見てみたかったなあ……それを見たとしても許さないけど。
・ベネディクト=エイミス・ハミルトン
主人公の母の弟、いわゆる叔父。主人公をいろんな方法で狙ってくるけど、その割には全然疑われてる描写がなかったのは残念だった。主人公も最後に安易にホイホイついていって、笑ったけども。優秀で特別な姉と比べられ、差別されて歪むのも理解できたので、父親よりはわかりやすい感情ではあった。憎悪で歪んだ彼が、自分を歪ませた存在とよく似た存在に救われるところが見てみたかった。ただ残念なことに私の中でロディスが不動の一位すぎるんだよなあ……。
家も燃えて綺麗さっぱり無くなったことだし、感情的にも一からやり直してみませんか、と肩を叩きたい。ある意味、物語の刺身のツマにされた方なので報われて欲しいところもあるような無いような。
物語終盤で閉じ込められて探索して脱出する選択肢があるんだけども、そこで私は10回ほどBADEDを食らってへこんだ。意地になればなるほど正解が見つからなくて、正解にたどり着いたあとも燃え広がる絨毯を見ながら『これは違うバッドEDや…』と思って主人公と一緒に絶望してたらロディスが助けに来てくれてそこで歓声ワアア!って感じでした。
サイドストーリー方式って自分は余り好きじゃないんですが、今作に関しては効果的であったように思うし、サイドストーリーが公開される度に見るのを楽しみにしていた自分が居た。
どうやらロディスの過去が見れる作品があるらしいけども、そちらはやるかどうか迷っている。この作品の後日談が見れる作品もあるらしいので、そちらはもしかしたら近々プレイするかもしれません。もっとロディスが恋愛的な意味で悶えてるところが見たい。それを見て私も悶えたい。
あとこの作品をやって思ったこと。商業乙女ゲーってなかなかノベルゲームスタイルを取らないんだなあということ。それが良いとか悪いとかは別にして、もしかしたら対話方式みたいな方が作りやすいのかもしれないのかなと思った。自分はノベルゲームのが馴染み深いので、久々に故郷に帰ってきたみたいに感じた。あと、同人ゲーでも乙女ゲーが増えたなあ……時代は変わるもんだなあと思った今日このごろです。
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