緊急インタビュー!仏学者エマニュエル・トッド「VW事件から見えてくる ドイツ最大の弱点」 ~やっぱりドイツが世界をダメにする?

2015年10月12日(月) 週刊現代

週刊現代経済の死角

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しばしば「モラル」を忘れるドイツ

トッド氏はEU(欧州連合)内で経済力と影響力を拡大するドイツの指導者たちを指して、こう批判していた。これをそのままフォルクスワーゲンの指導者=経営者にあてはめると、今回の不正事件の深層をそのまま映すように、次のように読み替えられる。

自動車業界の世界トップという「支配的立場」に立った彼らが、「精神的不安」に陥ったとき、不正に手を染めてしまった—。

トッド氏は本誌に、続けて言う。

「私はさきほど技術的な評判はあまり問題ではないと言いました。なぜかといえば、排ガスをごまかすための装置というものを作れること自体、技術的に妙技であるといえるからです。

では、私が真に問題と考えるのはなにか。

それは、諸問題を単にテクニカル(技術的)なものとして扱い、モラル(道徳)の面を忘れてしまうという古くからのドイツの傾向です。フォルクスワーゲンのスキャンダルが起きて、世界中の人々はそんなドイツの特質を思い出したでしょう。知っての通り、この種の『中身のない合理性』は、それ自体が危険なのです」

いくら優れた技術も、モラルに欠ける人間がそれを手にした時には「凶器」になり得る。フォルクスワーゲンは高い技術力を持つ一流メーカーでありながら、その「成果」の使い方を間違えてしまったわけだ。

「もう一点、付け加えて言いましょう」

トッド氏は言う。

「フォルクスワーゲンのスキャンダルは、ドイツ人のアメリカに対する根深い感情について多くのことを教えてくれます。ドイツ人は心の底で、かなり反米の気持ちを強く持っています。ドイツ人はおそらく、リベラルなアメリカの価値観を受け入れないでしょう」

フォルクスワーゲンのディーゼル車の不正を発見したのは、米国のウェストバージニア大学の研究者だった。その指摘を受けて、米環境保護庁が調査をしたところ、改めて不正が発見されたという経緯がある。

そのため、一部からは「フォルクスワーゲンを倒すための米国の謀略」という陰謀論が浮上している。だが、トッド氏が指摘しているのは、そうした不毛な対立についてではない。

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