日本人が知らない「EUの盟主」ドイツの正体 ~VW事件を生み出した「傲慢」「自賛」体質とは独在住作家が分析

2015年10月13日(火) 週刊現代

週刊現代経済の死角

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そして、フォルクスワーゲンの不正問題です。燃費が良くて、パワーがあって、なおかつ環境によい。そんなディーゼルエンジンを作り上げ、世界中で大儲けしたいという野望があったことは間違いありません。フォルクスワーゲンの経営陣にとっては、心がくすぐられるチャレンジに映ったのでしょう。

実際には、なかなかそんな夢のようなディーゼルエンジンは開発できない。しかし、自分たちにはできるはず。そう思っているうちに魔が差した?要は、ばれなければ良い……。

もし、彼らがこんな考えにとらわれていたのだとしたら、何かが狂ってしまっていたとしか思えません。おそらく不正をしていたという自覚もなかったのではないでしょうか。これは傲慢なことです。

東西ドイツの統一は1990年。西ドイツが東ドイツという破産国を抱え込む形でしたから、ドイツは経済的に一時困窮しました。'98年から'05年まで首相を務めたシュレーダー氏は『アジェンダ2010』という大胆な構造改革を断行し、それまでの「手厚い社会保障」にすらメスを入れました。

その後、改革の効果はゆっくりと現れ始め、2010年頃になって初めて成長という果実をもたらしました。ですからドイツ人には、自分たちが進めてきた構造改革に対する強い自負があります。だから、南欧の破綻国にもそれを強いるのです。

しかし今、EUではドイツのやり方に批判の声が聞かれます。ドイツの交易はEU圏内がメインなので、ドイツが輸出超過になれば、EU内には必ず輸入超過になる国が出る。そもそも、異なる経済力の国が同じ通貨を使えば、経済力のあるドイツにとってユーロは常に安く、輸出は伸びる一方です。そして、他の国々はいつの間にか、輸出など夢に見るしかなくなってしまいました。

しかし、ドイツ人からすれば、この事実は受け入れがたい。自分たちが成長できたのは勤勉と努力の結果だと思っています。ギリシャをはじめとする南欧の国々の経済が低迷しているのは、彼ら自身の責任だと考えるわけです。

そこで援助の条件に、過酷な金融引き締めを要求し、「上から目線」、つまり傲慢だと憎まれる。両者の意見は、今や完全にすれ違ってしまっています。

驕れる者は久しからず

フォルクスワーゲンの不正問題は、ドイツ人の「高い鼻」を折るには十分な一大事件です。ドイツ国内はまさにパニック状態が続いています。

倫理的に正しい国民であったはずのドイツ人が、よりによって不正をしていたということは、ドイツ人を非常に戸惑わせています。ドイツ人はドイツ車に強いアイデンティティーを感じています。中でも、国民車であるフォルクスワーゲンはドイツ人の誇りそのものです。ドイツ人にとってはフォルクスワーゲンの醜聞は自分自身の醜聞なのです。下手に弾劾すれば、自分自身を弾劾することになりかねない。

そのうえ、ドイツ人は、「実務的」にもどうすればよいのかわからずに、困惑しています。

ドイツでは消費者のクレームに対応するのは、メーカーではなく販売会社です。しかし、今回、販売会社もいわば被害者で、今のところクレームに対応する術を持ちません。現在の法律では米国のような集団訴訟はできませんが、今、メーカーに対してそれをできるようにしようという声さえ上がりはじめました。

フォルクスワーゲン社が一刻も早く対策を打ち出さなければ、あちこちで不満が募り、ますます事態が混乱するでしょう。

そうした中で、私が危惧しているのは、ドイツ人がこの危機を抜け出すために、外部に「敵」を見出すのではないかということです。

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