MUSIC TALK

デジタルが開いた音の可能性 コーネリアス 小山田圭吾(後編)

  • 2015年10月13日

撮影/山田秀隆

  • 撮影/山田秀隆

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  • 8月、東京・夢の島公園陸上競技場で開催された音楽フェスティバル「ワールド・ハピネス2015」に、METAFIVEが出演。メンバーは、高橋幸宏、小山田圭吾、砂原良徳、TOWA TEI、ゴンドウトモヒコ、LEO今井

  • この8月にリリースしたワーク集「Constellations of Music」

 CD売り上げのピーク、そしてテクノロジーがめまぐるしく進化した90年代が終わり、音楽は発信する形態も楽しみ方も大きく様変わりした。「コーネリアス」はその波に流されることなく、縦横無尽に独自の音の世界を発信し続ける。(文・中津海麻子)

    ◇

前編から続く

――1997年、アルバム「ファンタズマ」が米国のレコード会社からリリースされ、海外からの注目も高まりました。この頃をどう振り返りますか?

 90年代半ばは、欧米から日本の音楽が発見され、過去と比べても現在と比べても、日本のポップミュージックが海外でもっとも認知された時代だったと思います。ちょうどその頃、日本の音楽産業はピークを迎えていて、世界中の珍しいレコードが日本に集まってきていました。そして、欧米のポップミュージックから距離がある分、ランダムかつ等間隔で吸収し、それをミックスして新しい音楽を発信するようになっていた。それが欧米の人たちにとっては新鮮だったんじゃないかな。僕の音楽も、そんな感じで海外から注目されたんだと思います。

 国内のCD売り上げも97~98年頃がピークでした。宇多田ヒカルさんのアルバムが何百万枚も売れたりして、そういうモンスターヒットが出た分、僕がやっていたようなちょっと偏った音楽や実験的な音楽にも力を入れてくれる余裕が音楽業界全体にあったように思います。

 今ではメジャーなレコード会社から出してもらえないようなアバンギャルドな音楽もたくさん生まれて、それがタワーレコードやHMVはもちろん、街のレコード屋にも並んで、多感な若い人たちが普通に手にできた。そしてまた、新たなカルチャーが生まれる。そんな時代でしたね。

――海外ツアーをする中で、驚いたこと、影響を受けたことは?

 たくさんあります。たとえば、憧れのアーティストと一緒にツアーをする機会にも恵まれたんですが、結構売れていてメジャーな人たちでも、自分たちでバンに機材を詰め込み、運転して、搬入もステージのセッティングも自分たちでやっていたことにはちょっと驚きました。なんか普通だな、と(笑)。体力的にはきつかったけど楽しかった。日本にいると自分たちは新幹線や飛行機で移動して、機材を触ることなんてほとんどない。全然環境が違うんです。

 ライブに来る人たちも、日本だと事前にCDを買って来るファンが多いのに対し、向こうでは「今日何やってるんだろう?」という感じで訪れて、気に入ったらCDを買って帰る。日本は余計な情報やイメージ、アーティストのキャラクターなどが重要視され、音楽自体があまりフォーカスされないけれど、海外ではまず音楽ありきで、その場で聴いて判断するんです。ミュージシャンにとってもリスナーにとっても、音楽が特別なものではなく生活の中に普通にあって、その関係もとてもフラット。それが僕には新鮮だったし、自分もそういう感じでやりたいと思うようになりましたね。

――アナログからデジタルへ、また、インターネットの登場など、90年代はテクノロジーが一気に進化した時代でもあります。創作活動に変化はありましたか?

 作曲の方法や音作りの可能性はだいぶ変わったと思います。それまでは、楽曲を最初から最後まで作り、譜面に起こし、バンドと練習して「せーの」で録音する……という流れで、録音したものを後から手直しするのは難しかった。でもパソコンなら断片的に音を作り、修正しながら最終的な形にできる。最初に楽曲がなくても、曲の一部やアイデアさえあれば、それをふくらませていって曲にすることも可能です。

 もちろん以前のやり方でも時間をかければできるんですが、商業スタジオは借りるのに1日何十万円もかかってしまう。パソコンなら民家の一室でもできちゃうんです。時間軸みたいなものを自由自在に操れるようになって、自分の音に対して納得いくまで研磨できるようになった。僕自身の音楽、創作活動にもかなり影響があったと思います。

 インターネットは、コラボレーションのあり方を変えました。8月に国内外のアーティストとコラボレーションした作品などをまとめたワーク集「Constellations of Music」をリリースしたのですが、ここに収録されている中には一度も会ったことのない人との曲もあって。メールとデータのやり取りだけでコラボレーションが成立しちゃうんです。本音を言うと1回ぐらいは会ってみたいから、それがいいことだとは思わないんだけど、だからこそ実現するコラボレーションもある。音楽の可能性を広げる恩恵のひとつだと感じています。

――アニメ「攻殻機動隊 ARISE」や子ども番組「デザインあ」(NHK Eテレ)のサウンドプロデュースなど、それまでコーネリアスの音楽に触れたことのないリスナーにも音楽を発信する機会が増えています。音作りの「流儀」は違うのですか?

 映像作品や番組の場合、コンセプトや世界観がすでにあって、求められる音楽もはっきりしているので、0から何かを生み出すというよりは、自分の持っているものの中から抽出してその世界観にすり合わせていく、という感じですね。

 アニメに関しては、作品のコンセプトに沿ったものであってほしい、という思いが根底にあって。最近はレコード会社とタイアップして、作品と関係ない新人バンドの曲とかが使われたりするけど、ああいうのはがっかりする。子どものころ好きだった「ルパン三世」は、主題歌でちゃんと「ルパン、ルパン」って歌われてるじゃないですか(笑)。だから「攻殻機動隊 ARISE」では、英語タイトルの「GHOST IN THE SHELL」をきちんと歌詞に入れました。

――YMOの高橋幸宏さんをはじめとする国内のアーティスト5人と結成したユニット「METAFIVE」の活動も、話題を呼んでいます。

 幸宏さんは10歳以上年上だけど、同じ東京出身ということもあり、坂本龍一さんや細野晴臣さんもそうなのですが、音楽的にも人間としても同じ匂いを感じます。もちろん大先輩で、決して友だちなんて言えないけど、趣味が違う同世代よりははるかにしっくりきますね(笑)。

「METAFIVE」はメンバーの個性も活動もバラバラですが、やっぱり同じ匂いの人たちの集まりなので、多くを語らなくても大体同じ方向が見えている。男ばっかりで部活っぽくワイワイやっています。来年1月にはニューアルバムをリリースする予定です。

――ファンは「コーネリアス」のオリジナルアルバムも心待ちにしています。予定は?

 気づけば前作から10年近くが過ぎてしまいました。年とると1年って早いじゃないですか? なんか10年って実感もなく、ボーっとしてたらあっという間に経っちゃったって感じです。でも最近、さすがに早く出したいなと思うようになってきていて。このままだとリリースしないで死ぬかも、って心配なので(笑)。

    ◇

小山田圭吾(おやまだ・けいご)
1969年東京都生まれ。89年、フリッパーズ・ギターのメンバーとしてデビュー。バンド解散後 93年、コーネリアスとして活動開始。現在まで5枚のオリジナルアルバムをリリース。自身の活動以外にも、国内外多数のアーティストとのコラボレーションやリミックス、プロデュースなど 幅広く活動中。今年8月、コーネリアスの近年のワークを集めたコンピレーション「Constellations of Music」をリリースした。
http://www.cornelius-sound.com/

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