機械は我々を幸福にするのか

「グレート・デカップリング」という現実 

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蒸気機関の発明により我々は「筋力」を得て、肉体労働から解放されたが、現在のデジタル技術の進展は、我々に「知力」を与え、知識労働を肩代わりし、その生産性を飛躍的に伸ばしてきた。しかし、デジタル技術により経済は発展しても、雇用は伸びず大多数の人間の富が増えないというグレート・デカップリングという現象も起きている。デジタル技術の飛躍的な進歩により、いま何が起きているのか。技術と経済の関わりを研究してきた『ザ・セカンド・マシン・エイジ』の著者たちがデータや調査から分析を加えるとともに、新しい時代に向けての準備を語る。『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』11月号よりインタビュー全文を掲載。
 

我々は「第二の機械時代」の転換点に立っている

 機械は人間ができることならほぼ何でもできそうだ。いまや自動車さえドライバーなしで自走しつつある。それはビジネスや雇用にとって何を意味するのか。人間に残される仕事はあるのか。初歩的な作業だけでなく、高度なスキルを必要とする仕事でも機械が取って代わるのか。人間と機械が協力して働くとしたら、どちらが意思決定を下すのか。デジタル技術がビジネスを変容させる中、各企業や産業界・経済界はそうした問いに直面するようになっている。

 技術の進歩は世界をよくするが、新たな課題も生み出す、と語るのはマサチューセッツ工科大学(MIT)スローンスクール・オブ・マネジメントの研究者、エリック・ブリニョルフソンとアンドリュー・マカフィー。二人は長年、テクノロジーが経済に及ぼす影響を研究してきた。彼らの最新刊『ザ・セカンド・マシン・エイジ』(第二の機械時代)はハイテクがもたらす未来を前向きにとらえている。だが2014年の刊行以来、二人は自分たちにとっても驚くべき側面を持つ問題に取り組んできた。すなわち「なぜデジタルイノベーションは米国の平均所得の停滞をもたらし、多くの中間層の雇用を奪っているのか」である。

『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)誌エディターのエイミー・バーンスタインおよびエディター・アット・ラージのアナンド・ラマンによる本インタビューで、ブリニョルフソンとマカフィーはこう説明する。

 デジタル技術は経済成長を後押しするものの、最新のデータが示すように、皆が等しくその恩恵にあずかるわけではない。産業革命と比べて、デジタル技術のほうが「勝者総取り」の市場を生みやすい。二人はまた、技術進歩の目まぐるしいスピードにもかかわらず、ビジネスの活力は落ちていると考え、政策による対応が不十分ではないかと懸念する。未来のことは誰もわからないが、新しいテクノロジーが経済に及ぼす負の側面に立ち向かうべき時はいまである──これが二人の結論である。

HBR(以下色文字):お二人の最近の研究では、デジタル技術が可能にした進歩に焦点を当てておられました。しかし先般、デジタル技術をめぐる問題点が急速に表面化していると懸念を表明されました。何をそれほど心配されているのですか。

マカフィー:1つはっきりさせておきましょう。デジタル技術が人間の知力に及ぼしている影響は、産業革命の時代に蒸気機関やその関連技術が人間の筋力に及ぼした影響と同じなのです。デジタル技術のおかげで私たちは数々の限界を素早く克服し、新たなフロンティアをかつてないスピードで切り開くことができます。素晴らしいことです。しかし、それが今後どう展開するかは正確にはわかりません。

 蒸気機関を産業革命の牽引役になるレベルまで改良するには数十年かかりましたが、それと同じで、デジタル技術が洗練されるのにも時間がかかっています。コンピュータやロボットはこれからも進化し続け、驚くほどのスピードで新しいことをできるようになるでしょう。だから私たちはいま、「第二の機械時代」が幕を開けようとする転換点にいるのです。

 これからの時代はもっとよくなるでしょう。理由は単純です。デジタル技術のおかげで、もっとたくさんのものを生み出せるようになるからです。医療、教育、娯楽のほか、私たちにとって大事な商品やサービスがもっと充実します。また、地球資源をあまり損なうことなく、そうした恩恵を世界中のもっとたくさんの人々に届けられるようになります。

ブリニョルフソン:しかし、デジタル化とともにやっかいな問題も生じています。何も驚くことではありません。歴史を振り返れば、経済発展にはたいていよからぬ副作用が伴いました。たとえば、最初の産業革命は莫大な富を生みましたが、汚染や疾病、児童労働ももたらしました。

 デジタル化によって、いままでとは違うタイプの経済的混乱が生じています。これはある部分、コンピュータが強力になれば特定の職種の働き手が必要なくなるという事実を反映しています。技術が進歩すると、それに取り残される人がある程度、いや、場合によったらたくさん出てきます。

 とはいえ、それ以外の人たちにとっては、未来は明るい。特別な技術スキルや知識を備えた働き手にとって、これほどよい時代はありません。そうした人たちは価値を創出し、価値を獲得することができます。しかし、ごく普通のスキルしか持たない人には厳しい時代です。コンピュータやロボットは尋常でないスピードで基本的なスキルを学んでいます。

マカフィー:技術進歩によって全体のパイが大きくなれば万人が等しく恩恵を受ける、という経済法則はありません。デジタル技術は価値の高いアイデアやプロセス、イノベーションを低コストで再現できます。その結果、社会は豊かになり、イノベーターは富を得ます。しかし、ある種の仕事に対する需要は縮小します。

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