「病床機能報告制度」にどう対応するか
団塊の世代が後期高齢者入りし、日本の高齢化がピークを迎える2025年。日本の医療提供体制は、「2025年モデル」の構築に向けて、確実なカウントダウンが始まっているが、足下の備えは万全だろうか。
25年に向けては、18年が大きなマイルストーンとなるとされる。この年には、6年に1度の医療・介護報酬の同時改定が行われる。加えて第7期医療計画がスタートするが、これは病床機能報告制度を踏まえた形になるので、位置付けは極めて重要になる。
まず、現在の医療介護を取り巻く動きを、おさらいしておきたい。
15年3月末に「地域医療構想策定ガイドライン」が出された。それに先立ち、病床機能報告制度が14年から始まっており、各医療機関は11月半ばまでに、病床機能を⾼度急性期、急性期、回復期、慢性期という四つの区分から選び、自己申告制で都道府県に届け出をしている。都道府県において、25年の医療需要と病床の必要量を推計して、それぞれの区分ごとに病床数を決定するのが「地域医療構想」であり、先のガイドラインを踏まえて、構想区域(おおむね2次医療圏)の関係者と連携を取りつつ、その策定が進められている。
医療を取り巻く環境に地域差
医療を取り巻く環境には、地域差が歴然としてある。ガイドラインと共に出された「地域医療構想策定ガイドライン等に関する検討会」の資料によれば、例えば、療養病床の受療率は、平均で見ると、西日本が300を超えるのに対し、東日本は200弱と、"西高東低"で、約6割の開きがある。東日本では、北海道と北陸がやや高めなぐらいだ。西日本は東日本と比べると、⼀般病床、療養病床とも病床数が多いため、平均在院日数は長く、患者1⼈当たり⼊院費も高いとされる。
また、25年の余剰ベッド数の予測においても、西日本が約8万床余るのに対し、東日本では約10万床が不足するという予測が出されている。特に3大都市圏は不足が顕著になってくる。さらに、看護師など医療職の人数なども、西日本が東日本に比べて、多めであるとされる。
15年6月には、内閣官房の「医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会」第1次報告が出された。 25年医療機能別必要病床数の推計結果によれば、医療機関所在地ベースと患者住所地ベースを比較すると、都道府県単位で見ても患者の流出入が発生していることが明らかになっている。とりわけ大都市部などで患者の流出入が大きい。
やはり6月、岩手県知事や総務大臣を務めた増田寛也氏を座長として、民間有識者などでつくる日本創成会議が、「東京圏高齢化危機回避戦略」をまとめた。今後10年間で、東京圏(1都3県)で後期高齢者が175万人増加し、25年には介護施設が13万人不足すると推計された。一方、「医療・介護に余力のある地域」として、全国の41の医療圏を挙げ、解決策の一つとして、東京圏の高齢者の早期の地方移住を提案する日本版CCRC(Continuing Care. RetirementCommunity)構想を出した。
6月9日には、厚生労働大臣の私的な諮問機関で、東京大学の渋谷健司氏を座長とし、若手の有識者や厚労省職員で構成する「保健医療2035」策定懇談会が、「保健医療のパラダイムシフト」をまとめた。35年は団塊ジュニアが高齢者となる年である。20年後に向け、単なる負担増と給付削減による現行制度の維持を目的とするのではなく、イノベーションを活用したシステムとしての保健医療を再構築し、もって経済財政にも貢献することが目指されている。35年に健康先進国となるために、「キュア中心」から「ケア中心」への保健医療のパラダイムシフトが提言されている。
そこでは、日本の皆保険制度は、これから先アジア諸国で起こる高齢化社会に対応したモデルとしては先駆的であること、これからの医療・介護は、機能を果たしつつも、少し身の締まった制度システムをつくっていくべきだとうたわれている。
社会保障費制策として病床削減は必至
政府の経済財政諮問会議では、社会保障分野においても「インセンティブ改革」の推進が求められている。健康づくりにおいても、医療・介護のサービス提供者においても、頑張れば報われる、もしくは、意欲を鼓舞するような仕組みづくりを、歳出効率化に結び付けようというものだ。
例えば、インセンティブ改革により個人の努力を支援する例/保険者機能の強化を促す例として、「健康ポイント制度」などの拡充や、各保険者の努力に対応するための後期高齢者支援金の加減算幅の拡大や国保支援金の傾斜配賦による被保険者の健康維持に向けた努力の促進などがある。
どれもこれも手を変え、品を変えの策だが、根底には、厳しい社会保障費の現状があることは間違いない。医療、介護、年金を合わせた社会保障給付費は約110兆円を超えており、右肩上がりで伸びている。そのうち、保険料は約60兆円で、50兆円が税金、つまりは借金である。この税金部分の伸びが著しく、1990年は10兆円に満たなかったのが、5倍以上になっている。積もりに積もった国の借金残高は、国債や借入金、政府短期証券を合わせ、15年3月末時点で1053兆円を突破した。
不要な病床の削減、すなわち、より費用の掛からない在宅医療・介護にシフトさせようという流れに向かうのは必定だ。今も介護療養病床などには、相当数の社会的入院があり、現状で20 ~ 30万床の病床が過剰だと推定されている。18年に、本格的にオンラインで病棟単位のデータが収集されるようになれば、申し開きはできなくなってくる。地域内での議論によって、自主的に収斂に向かわせるというが、削減に向かう方向は揺るぎがない。
少子化によって、医療の担い手となる18歳人口も減少の一途をたどっていることも明らかだが、この点についても地域差は明白にあり、都市部に比べて地方は厳しい状況がある。
今こそ腰を落ち着けて、きっちり行政の動きや地域の情報を収集し、患者に選ばれる病院か、スタッフに選ばれる病院かを考えて、地域の実情に見合った地固めをしていくことは喫緊の課題となるだろう。18年までは、2年半を余すのみである。
2015年8月24日 02:01 | 医療・医療政策・厚生労働省・政治・病院