消費者にとっては大歓迎
人口の減少を貿易の拡大で補うーー。そんな期待を抱かせる巨大な自由貿易圏の誕生が現実味を帯びてきた。
先週月曜日(10月5日)、日本、米国、豪州など12ヵ国が環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉で大筋合意に達した。
発効すれば、国内総生産(GDP)で世界の4割弱、8億1000万の人口を擁する世界最大の自由貿易圏が誕生することになる。日本にとって、1992年の「関税及び貿易に関する一般協定」(GATT)のウルグアイ・ラウンド以来のメガ通商協定だ。
協定発効は来年以降になる見通しだが、農林水産省は発効を前提に、現在、農水産物834品目にかけている輸入関税の半分を撤廃する方針だ。
ブドウ、小豆、マグロ缶詰が即時関税ゼロとなるほか、ワイン、オレンジ、ソーゼージ、牛タン、鶏肉、紅鮭の関税も6~11年をかけて撤廃する。現在38.5%の関税をかけている牛肉も、段階的に9%まで引き下げる計画だ。
われわれ消費者にとって歓迎すべき話である。
一方、製造業では、自動車や自動車部品などの輸出が容易になるため、生産の空洞化に歯止めがかかり、国内の雇用維持に役立ちそうだ。早くも、ライバルの欧州や中国、韓国が焦りの色を見せているという。
競争にさらされる国内農業の体質改善は内政面の大きな課題だ。また、TPPをテコに欧州や中国、残りのアジア諸国とも野心的な経済連携協定を締結できるかどうか、日本の経済外交の大きな焦点になるだろう。
TPPの発効には、日米を含む6ヵ国以上が批准したうえで、そのGDPの合計が域内の85%以上を占めることが必要。来秋に大統領選挙を控えた米国で議会承認手続きに時間がかかることが予想され、協定の批准は2016年6月以降になる見通しだ。
官僚たちの政治不信
日本は、TPP交渉に大きく遅れて参加しただけに、よく、ここまで漕ぎ着けたというのが実際のところだろう。
出遅れの原因は、経済官庁の官僚たちが政治家の指導力に懐疑的だったことだ。
ニュージーランド、シンガポール、チリ、ブルネイが2006年の自由貿易協定「パシフィック4(P4)」の発効前後に、同協定をアジア太平洋地域全体を網羅するTPPに発展させる戦略を固め、日本に主導的な役割を果たす用意がないか内々に打診してきたのに対し、態度を保留したのである。
当時、P4諸国は、経済規模が突出している米国の牽制役を日本に期待していたが、官僚は弱体化していた自民党政権では国内をまとめる指導力がないと踏んで、政権交代を待つことにした。
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