印南敦史 - スタディ,書評 06:30 AM
クラウドファンディングについて知っておきたい基礎知識
クラウドファンディングを通じて、さまざまな分野でさまざまなビジネスが成功していることはご存知のとおりです。とはいえ、実際に利用するとなると不明点も多く、不安も否めず、二の足を踏んでしまうという方も多いのではないでしょうか。そこでおすすめしたいのが、『日本人のためのクラウドファンディング入門』(板越ジョージ、フォレスト2545新書)。
2014年12月に刊行された、日本初のクラウドファンディング解説書『クラウドファンディングで夢をかなえる本』(ダイヤモンド社)を軸に、よりわかりやすく書き下ろされた入門書だそうです。
「ファンディング」と聞くと、なにか大きなお金が動くようなイメージがあるかもしれません。しかし実際は、身近な目標を達成するための、とても便利な資金集めの方法なのです。(中略)メリットは、資金調達だけではありません。(中略)応援者や技術、販売ルート、メディアPR、社会的信用など、さまざまなメリットがたくさんあります。(「はじめに」より)
基本的なことを確認するため、序章「クラウドファンディングとは何か?」に目を向けてみましょう。
「クラウドファンディング」ってなに?
「クラウド(Crowd)」が「群衆」を意味するところからもわかるとおり、「クラウドファンディング」とは、銀行や投資家からお金を集めるのではなく、「不特定多数の人から、インターネットを通じて少額ずつお金を集める仕組み」。つまり、「群衆から資金を調達する」ということになるわけです。
クラウドファンディングが従来の資金調達と違うのは、インターネットの仲介サイト(以下、CFサイト)が誕生したことにより、不特定多数の群衆からお金を集めやすくなった点。アメリカでいえば、2008年にスタートした「Indiegogo(インディゴーゴー)」、翌年に立ち上がった世界最大のクラウドファンディングサイト「Kickstarter(キックスターター)が有名。日本でも2011年に「レディーフォー」「キャンプファイヤー」「モーションギャラリー」がサービスを開始しています。(28ページより)
クラウドファンディングの3つの種類
そして著者によれば、クラウドファンディングは「導入型」「寄付型」「金融型」の3種に大別できるそうです。それぞれについて違いを確認してみましょう。
1. 購入型
「購入型」とは、お金を出してくれた人(以下、支援者)に、その対価としてなんらかの見返り(以下、リターン)として物品やサービスを提供すること。海外では「リワード型」と呼ばれているそうです。たとえば時計をつくるプロジェクトがあった場合、そこに1万円の支援金を出せば、1万円のリターンとして現物の時計を送るというようなケース。現在、一般的に「クラウドファンディング」と呼ばれているものの多くが、この「購入型」に含まれます。
2. 寄付型
「寄付型」は「購入型」とは違い、お金を支援した人に対して経済的な見返りのないもの。つまり、純粋な寄付だということで、海外では「ドネーション型」と呼ばれているとか。アメリカでは「gofundme(ゴーファンドミー)」、日本では「ジャパンギビング」が有名だそうです。
ただしジャパンギビングはアメリカのゴーファンドミーとは異なり、お金を純粋に寄付するだけの方法と、「購入型」のように物品やサービスなどのリターンを渡す方法を選択できるのだといいます。そんな理由から著者は寄付型について、日本においては購入型との違いがはっきりしていないと指摘しています。しかもジャパンギビングに起案できるのは非営利組織のみで、個人で行うことはできないというので注意が必要。
3. 金融型
CFサイト運営会社が行う金融商品取引業の免許が必要なのが「金融型」。これは、3つの種類に分かれるそうです。
まず1つ目は、海外では「ソーシャルレンディング」「レンディング型」と呼ばれる「融資型」。これは、クラウドファンディングで集めた資金を、CFサイト運営会社が立案者に対して融資し、その返済元利益の一部を支援者に分配するという仕組みだといいます。よって、この事業を行うCFサイト運営会社は、「第2種金融商品取引業」の登録と「貸金業」の2つの登録が必要。海外では「Lendingclub(レンディングクラブ)」が有名で、日本では「クラウドバンク」や「マネオ」などがあるそうです。
2つ目は「事業投資型」。海外では「レベニューやプロフィットシェア」「ロイヤリティー型」とも呼ばれているこちらは、プロジェクトの成果をもとに、投資した割合に応じて金銭的な配当金を支援者に渡すというもの。当然ながら、事業が失敗した場合は配当金がないことになります。CFサイト運営会社は、「第2種金融商品取引業」の登録を行う必要が。日本では「ミュージックセキュリティーズ」が草分け的な存在だそうです。
そして最後は「株式投資型」。海外では「エクイティ型」と呼ばれているもので、個人が未上場企業に対してCFサイトを介して出資し、対価として株式を受け取るという仕組み。アメリカでは2012年に「JOBS法」で法制化され、日本では2015年5月に金融商品取引法の改正によって合法化されたといいます。
この法律により、1社あたり上限1億円、ひとりあたり最大50万円まで未上場企業の株式を購入できるようになったそうです。また従来、CFサイトは「第1種金融商品取引業」の登録が必要でしたが、「第1種少額電子募集取扱業」の登録になって緩和されたとか。なお海外ではきわめて新しいものとなるので、課題も残されているといいます。
金融型の流れは、支援者側の視点での働きに見えるため、資金調達する側にはあまり関係ないようにも思えます。しかし、これが促進されることにより、クラウドファンディングが投資対象として位置づけられるため、利用者側にとっても資金調達がしやすくなる可能性を秘めていると著者。(33ページより)
クラウドファンディングに向いているプロジェクト
しかし、そもそもどのようなプロジェクトがクラウドファンディングに向いているのでしょうか? このことについて著者は、いままでの成功事例を見ると、そこにヒントを見つけ出すことができると記しています。そして、それら成功事例を分析すると、次のような傾向が見えてくるそうです。
たとえば、本をつくる、CDをつくる、町工場が新商品をつくるなど「ものづくりを行うための費用」。また、老舗レストランやNPOの活動、図書館を継続させるための費用などにあたる「運営を継続するための費用」。さらに、「渡航するための費用」もあるといいます。たとえば事業を行うための費用や、外国のミュージシャンを日本に連れてくる渡航費など。
また、「新規オープンのために、ものを買う資金」も。図書館の本を買う、ネイルサロンがインテリアを買うなどがこれにあたるもの。他にも「新規事業の投資」「建設するための費用」として、発展途上国に学校をつくる、カフェを開業する、古民家を再生するなども考えられます。さらには「イベントを開催するための費用」として、主婦がお祭りを開催、被災地で映画を上映、アーティストの個展開催などにも利用されるのだとか。
こうして並べてみると、私たちの考えている夢やアイデア、やりたいことなどは、クラウドファンディングを利用することで実現できることがわかります。もちろんその大前提となるのは「資金調達の成功」ですが、少なくともなにかやりたいことがあるのであれば、利用しない手はないかもしれません。著者も「知らない分だけ、やらない分だけ損している」とまでいい切っています。(39ページより)
これらの基本を踏まえたうえで、本編ではクラウドファンディングを実現するためのメソッドを緻密に解説しています。また数々の事例も盛り込まれているため、より立体的にクラウドファンディングのリアリティーをイメージできるはずです。
(印南敦史)
- クラウドファンディングで夢をかなえる本
- 板越 ジョージダイヤモンド社