インプレッション型広告をめぐる数々の課題が急浮上している。
ビューアビリティ問題からクリック詐欺、
そして、広告ブロックと表示速度問題。
デジタルメディア=Web メディア
であった時代の終えんが加速する。
そこに関わる要素を整理し次の時代を考える。
毎年、消費者のメディア接点を統計的に追っている調査に、メディア環境研究所による「メディア定点調査」があります。従来の“四マス”メディア、すなわちテレビ、ラジオ、新聞、雑誌に加えて、パソコン、タブレット、そして携帯電話・スマートフォンなど、新たなメディア基盤と消費者の接点の変化を、継続的に追うことができる貴重なものです。
2015年に行われた調査結果について、メディア環境研究所の新美妙子氏は、次のような解説を加えています(「生活者のメディア接触は『量』から『スピード』へ~メディア定点調査2015 最新データより~」)。
情報爆発以降、情報量は拡大の一途を辿っていますが、スマホなどのスマートデバイスが急速に生活に浸透した結果、生活者のメディア接触をひも解くポイントは「量」ではなく、「スピード」にシフトしつつあると考えられます。
メディアからの情報発信のタイミングに合わせて情報を取得していた生活者は、常にそばにあるスマートデバイスによって、自分のペースで情報を取得するようになりました。以前と同じ接触時間であっても、情報を高速処理して、より多くの情報に接触するようになる、限りある時間の中で膨大な情報を処理するため、メディアの同時行動化が進む、自分の好きな情報をひたすら楽しむなど、生活者はこれまでになかったスピード感でメディアに接触し始めています。
発表された資料から直接に、消費者のメディア接触のスタイルが“「量」ではなく、「スピード」にシフトしつつある”ことを鮮明に裏づけるデータは見あたりません。が、1日6時間以上のメディアヘビー接触層が増えていること、また、メディア接触において「スマホ、タブレットなどのスマートデバイスが牽引」などは、“「量」ではなく、「スピード」にシフト”を説明する有力な背景と見なすことができそうです。
新美氏の仮説に従うなら、消費者が、自らが欲する価値の高い情報を見いだすために、多量のメディアとの接触とその中からの選択という意思決定プロセスを高速に回転させている姿が見えてきます。
このことから、モバイル上でのスピーディなメディア接触を阻害するものに対しては、メディアヘビー接触層から強烈な“ノー”が突きつけられるだろうということもまた、想像できるのです。
さて、その阻害要因として複数の要素を想定できます。
- 低速ないしは不安定な通信ネットワーク
- リッチ化した HTML ページのレンダリング
- リッチ化し、背後に重い処理をともなう広告
などが、それです。
1.の通信ネットワークは、モバイル環境の普及にともない改善の著しい領域ですが、それ以上に、3. の広告掲出にともなうロスがユーザー体験を阻害しています。
顕著な例があります。
以下のチャートは、米 New York Times の記者らが自社サイトを含めて、50のポピュラーなメディアのモバイルサイトを、平均的な 4G 回線を用いたモバイル機器で表示した時間を計測したものです(「The Cost of Mobile Ads on 50 News Websites」より )。
黄色が広告表示に費やした時間、青色は広告ブロック機能をオンにした際(すなわち、編集コンテンツのみ表示した際)の時間です。50メディアのうち約半数が広告表示に編集コンテンツの表示以上の時間を要していることが分かります。
記事では、これを通信費用に換算する試みも行っています。つまり、モバイルユーザーは、自らが意図せず通信費用の半分以上を広告の表示のために費やしてもいるというわけです。
ここで、メディア運営者が、モバイルサイトからも広告表示を通じて費用を少しでも回収したいという切ない願いを否定したいとは思っていません。同じように、iOS という巨大プラットフォームが、確立していた Web メディアの収益モデルをなかば公的に排除することの是非を言いたいとも思いません。
重要なのは、これまで Web 界において標準であった収益モデル、いいかえれば Web メディア成功のための方程式に、プラットフォームから、そしてユーザーから“No”が突きつけらようとしているという事実です。
モバイルが、数多くの消費者にとりすでにメディア接触の場として中心になっていることを念頭に置けば、その意味の重さが見えてくるはずです。
モバイルを基点にして、スピーディにメディア接触と選択を行うメディアヘビー接触層の行動態様と嗜好を計算に入れれば、広告ブロック問題の顕在化と、Facebook Instant Articles の動きをはじめとした、Google Accelerated Mobile Pages(AMP)、Apple News といった、ニュースコンテンツに対する大手プラットフォームの同時多発的なアプローチは、けっして無関係のものでないことが見えてきます。
これらの動きがいずれも、
- モバイルにおいて ×(ニュース)コンテンツの表示高速化 × インプレッション型広告の代替案
を要素として含んでいることからもそれが分かります。
大手プラットフォームの取り組みとして、Google が“Web メディア成功のための方程式”に、いまもこだわっていることは当然でしょう。その分だけ、Web 上の HTML 表示高速化技術としての AMP と、Android アプリ「Google Play Newsstand」という両にらみのアプローチを行っている点は独自です。Google を除くFacebook および Apple が、Web メディアの従来の事業モデルそのものの破壊を顧みないスタンスにあることは明瞭です。
改めて整理すれば、モバイル体験(特に、スピーディに多量のメディア接触を行う際の体験)の阻害要因であるインプレッション型広告に対し、ユーザーは、大手プラットフォームの力も借りて代替案のある強力な立ち位置にあります。この点だけでも、Web ブラウザとインプレッション型広告の組み合わせが、Web メディアの収益モデル上の基幹であり続けられる余地(命数)は限定的となったと見ます。
では、代替案はといえば、プラットフォーム大手の提案に乗ること、あるいは、自らブラウザからアプリメディアへと転じること、また、非インプレッション型広告への切り換えなどが想定できます。さらには、購読者課金(ペイウォール型購読制やマイクロコンテンツ型課金)なども視野に入ってくるかもしれません。
いずれの選択肢においても、いまこそ、メディア事業者にはテクノロジーと戦略性に長けた視点が必要です。
内製主義で完結できないとなれば、信頼に足るパートナーとはだれか、という判断も肝要でしょう。
と同時に、本稿では一度も登場しなかった概念、“(コンテンツの)品質”が、単なるスピードから、次なるユーザー体験を構成する重要な要因として、いよいよ考えるべき出発点がここにあることも見落とすわけにはいかないはずです。