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大阪でベンチャーやってます

WikiPlanの社長がベンチャー/スタートアップ(と時々趣味)に関する記事を書くブログ

日本でシリコンバレーのようなスタートアップ生態系をつくれるか?

skycrapersflic.krphoto by Gino maccanti


ベンチャーキャピタルのSparkLabs Global Venturesが、世界で最もスタートアップがアツい都市はどこか、という調査を実施した。結果は以下の通りだ。


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出典: The 10 hottest startup ecosystems in the world from VentureBeat


1位は言わずもがなシリコンバレー。そのあとにストックホルム、テルアビブと続く。アジアではソウルが5位と健闘している。


このランキングは、以下のような基準で評価され、作成されている。

  • Funding Ecosystem & Exits (ファイナンス・イグジット状況)
  • Engineering Talent (エンジニア人材)
  • Active Mentoring (活発なメンター)
  • Technical Infrastructure (技術的インフラ)
  • Startup Culture (スタートアップ文化)
  • Legal & Policy Infrastructure (法的・政策的インフラ)
  • Economic Foundation (経済的基盤)
  • Government Policies & Programs (政府の政策・プログラム)


Exitは会社買収先の見つかりやすさ、Policy Infrastructureは減税制度とかだろうか。


ともかく、何が言いたいかというと、日本の都市が入っていないということだ。 筆者の会社の本拠地大阪は…まあ難しいだろう。しかし、東京も入っていない。スタートアップブームで、企業評価額がインフレを起こしている、なんていうことをよく聞くが、JVCAの仮屋薗会長の言う通り、まだまだ他の都市に比べれば、日本はお寒い状況なのである。

【目次】

大企業が牽引した日本の高度経済成長


かつて、日本が世界中を驚かせた時代があった。1955年から始まる高度経済成長だ。1955年~60年の実質平均成長率は8.7%、60年~65年は9.7%、第一次オイルショック直前の65年~70年には11.6%を記録した。驚異的な伸びである。


この時期に日本では都市化が始まる。農業人口が減少し、都市人口が爆発的に上昇。オリンピックを控えた1962年に、東京の人口は世界で初めて1000万人にまで達した。


この経済成長を支えたのは大企業だ。この時代に、"企業社会秩序"が生まれ、連帯とチームワークが重んじられる日本的なまたは"サラリーマン的"な気質が重んじられるようになった。社会学者小熊英二によると、この時期に国民に"無自覚なナショナリズム(単一民族という意識)"が芽生えたという。


高度経済成長は、ベンチャーマインドを持った開拓者たちが跋扈して、経済を盛り上げたというよりは、国民皆が大きな企業に入り、一生懸命働いた成果だった。日本の開業率は朝鮮戦争の特需があった1955年をピークに、年々減少しており、高度経済成長期にも、開業率が大きく上振れすることはなかった。


本田宗一郎や安藤百福といったベンチャーマインドを持った起業家はいたが、都市を巻き込むような一大ムーブメントにはならなかった。


ベンチャーにはリスクがつきものだ。そのリスクを誰かが許容し、評価し、最終的にマネーを出すことで、ベンチャーの生態系が豊かになる。経済的に余裕がある人ほど、金銭的リスクを許容できる。そして、経済的に豊かな人が増える好景気時に、ベンチャーの生態系にマネーが流入しなかった。


日本でベンチャーの振興政策が始まったのは1970年代からだ。この時代に、ベンチャーに関するシンポジウムが開催されたり、日本初のベンチャーキャピタル、京都エンタープライズディベロップメントが設立されるのだが、時期が遅かった。第一次オイルショックの影響で、日本の高度経済成長は終わりを迎えていた。


その後、バブル時に開業率が一時上昇したりもするのだが、ベンチャーの生態系が活性化することはなかった。結果、ランキングにも出てこない寒い状態に陥ってしまったのである。


特徴を生かすか、特徴を作るか


ランキングに入っている都市も、一日にして生態系を成長させたわけではない。都市毎に要因がある。


例えば、ベルリンにスタートアップが集まっているのは、人材が確保しやすいなどの理由があるという。東西に分断されていたドイツでは、首都ベルリンに企業のヘッドクォーターが集中しなかった。結果、優秀な人材が大企業以外の企業に溢れる傾向にある。


また、言語的な優位性もある。ベルリンでは、スタートアップ向けのイベントやアクセラレータープログラムのほとんどが英語で行われる。オフィスでも英語が話されることが多い。そもそもヨーロッパ圏は英語がしっかりと教育カリキュラムに組み込まれており、多くの人が(比較的に)英語を使うことに苦労しない。ドイツ人は、独特の訛りはあるけれど、大抵流暢だ。(ヘルボーイのヨハン・クラウスみたいなのがドイツ訛り)


言語的な障壁がなくなれば、人や情報の流入が活発になる。スタートアップ生態系が発達した他の都市と有機的に連携できる。例えば、SoundCloudの創業者アレクサンダー・リュングはスウェーデン出身だが、ベルリンで起業している。


一方、ロンドンのような都市は、一つのジャンルに焦点を当て、そのジャンルを活性化しようと試みている。ロンドンでは金融系のスタートアップが盛り上がっており、FincanceとTechnologyを掛け合わせて、FinTechと呼ばれている。政府も運営に関わるベンチャー支援NGOがFinTech関連のスタートアップを人材・資金等の面でバックアップしており、スタートアップ生態系が潤っている。


キャメロン政権が立ち上げたテックシティUKでは、Old Street駅から東部のオリンピックスタジアムにかけた東ロンドンを「テックシティ」に認定し、様々なインフラ支援を始めた。シリコンバレーにテクノロジー系の人材が流通しないよう、様々な施策を講じている。ロンドンのスタートアップ生態系成長の陰には、政府の多大な後方支援がある。


人工知能に特化した都市はいかが?


筆者の考えなのだが、日本でスタートアップ生態系を活性化するには、ロンドンのように特徴を作る施策が必要ではないかと思う。 もっと大々的にビジョンを掲げてみてはどうだろう。


例えば、十年後には14兆円の市場規模になるとも予測されている人工知能だ。


人工知能は、ディープラーニングなどの機械学習の技術は無論重要だが、機械学習に投入するデータも同様に重要である。ネットを探れば様々なデータを取得できるものの、それ以上に、ネットに流れていないデータ、そもそもデータ化されていない様々な事象が、人工知能に与える""として重要だ。


前者については、データを可能な限りオープン化し、データの利用を民間にゆだねることが必要になる。これを主導できるのは行政だ。シムシティのダッシュボードに表示されるような都市にまつわる様々なデータを公開してしまうことで、これを知識化し、うまく活用する人口知能ベンチャーがたくさん生まれるかもしれない。


また、都市の各所に新たなセンシングデバイスをばら撒いて、事象をデータ化するのも良いだろう。デバイスを設置するためには規制が壁になるため、これを行政の力でとっぱらってもらう。行政主導で、インフラ、自然環境、生活に関わる様々な事象をセンシングし、そのデータを公開すれば、人工知能ベンチャーが様々な視点で活用してくれるだろう。


人工知能の大きなテーマの一つである自動運転も行政の協力が欠かせない。既存のインフラを利用するにしろ、新しくインフラを整備するにせよ、官民が連携しなければ自動運転技術をテスト・実用化できない。自動車という日本の主要産業とも深くかかわっているため、このジャンルの企業を支援することは喫緊の課題といえる。



※※※


色々書いてきたが、とにかく、日本でシリコンバレーのようなスタートアップ生態系が作れるか?という問いに対しては、今のままではだめで、何らかのビジョンが必要ではないか、というのが筆者の考えである。人工知能と書いてみたが、他のジャンルでもいい。再生医療でもいいし、スマート農業でもいい。ビジョンを掲げ、都市をまるごと売り出せば、やがて大きなうねりになって、生態系を活性化できるのではないだろうか。


世界のどの都市にも先駆けて、人工知能を搭載したロボットや輸送機が都市を駆け巡る、そんな"クールなジャパン"になればいいなぁ。


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