素人インタビュー番組増加 人気理由は脱予定調和と人間ドラマ
NEWS ポストセブン 10月12日(月)7時6分配信
素人にインタビューして、面白いトークやユニークなキャラクターを引き出すことを企画のメインに据えた番組が増加している。しかも、人気番組が多い。いったいなぜ増えているのか? そして人気の理由とは? テレビ解説者の木村隆志さんが分析する。
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素人インタビュー番組の代表格と言えば、『1億人の大質問!? 笑ってコラえて!』(日本テレビ系)。王道の「日本列島ダーツの旅」に加え、昨年はじまった「朝までハシゴの旅」もラブリさんと佐藤栞里さんの活躍で人気コーナーになるなど、ますます絶好調です。同じ日本テレビ系の『カミングアウトバラエティ!! 秘密のケンミンSHOW』『月曜から夜ふかし』も素人インタビューを中心に構成され、安定した支持を集めています。
そこにテレビ東京が、2013年に『YOUは何しに日本へ?』、2014年に『家、ついて行ってイイですか?』『逆向き列車』という、1人の人間を掘り下げるスタイルの番組を投入してきました。これらがそろって大好評だったのですが、その理由は、「視聴者が素人インタビューの映像に新鮮さを感じた」から。『クイズ!ヘキサゴン』(フジテレビ系)が全盛期の2000年代前半からタレントを大量投入した番組が激増し、内輪受けのようにガヤガヤさわぐシーンに辟易する人が増えました。その点、素人が等身大で話す姿は、どこか安心感がある上に、意外性や再発見があったのでしょう。
また、タレントを大量投入した番組と比べると、「素人インタビューには台本がない」ことも大きいと思われます。タレント同士が見せる“お約束”などの予定調和も視聴者が嫌う要素なのですが、それがないため、つい見入ってしまうのでしょう。街ぶら番組や路線バス番組の隆盛を見ても、視聴者が“台本のない楽しさ”を選んでいることがわかります。
日本テレビとテレビ東京の素人インタビュー番組が好調なため、今年から他局も素人インタビュー番組に力を入れはじめました。テレビ朝日は、4月に『夜の巷を徘徊する』、10月に『聞きにくい事聞く』(テレビ朝日)をスタート。フジテレビは、3月に単発で『バカリズムのとりあえず相談室〜日本のリアルお悩み集めてきました〜』を放送してレギュラー化への布石を打ち、18日からは『人生のパイセンTV』もスタート予定です。
さらにテレビ東京は、10月に『おねだりの達人』も追加。「マツコ・デラックスと素人」「素人へ聞きにくい質問」「素人の悩み」「素人のおバカな先輩」「素人におねだり」と微妙にテーマは異なりますが、共通しているのは番組名のわかりやすさ。タレントのネームバリューに頼らない分、「名前だけでどんな内容かわかる」ことが素人インタビュー番組の必須条件とも言えるでしょう。
それぞれの番組でインタビューを見ていて気づくのは、素人の2極化です。かつてはテレビに出たい人がほとんどで、実際に出た人は自慢していたものですが、現在はそういう人が半数以下になったとみています。その代わり、テレビに出たい人は、ハロウィンで大騒ぎし、ラグビーW杯のにわかファンになる人のようなノリの良さがあり、番組を大いに盛り上げるようになっています。
つまり、「テレビに出たい人の分母は減っているけど、面白さの質は上がっている」ということ。これまで素人インタビュー系のバラエティー番組が少なかったため、面白い素人を発掘できる余地はまだまだ残っていると思われます。
さらにこれらの番組が支持されているのは、テレビに出たい人が「ただ面白いだけではない」ことも大きいでしょう。よくよく話を聞くと、夢や希望、暗い過去や深い悩みなどの人間ドラマが次々に出てくる、という演出上の振り幅も魅力の1つになっています。「へえ〜、こんな人生もあるんだ」と他人の生活や人生をのぞきできるのも醍醐味と言えるでしょう。
最後にもう1つ。素人インタビュー番組がここまで増えている理由は、制作サイド側の事情もあります。何しろタレントもスタジオも、衣装もヘアメイクもほとんどいらないだけに超低予算。広告収入減による制作費カットが求められるテレビ局にとって、素人インタビュー番組は優良コンテンツなのです。
ただ、ネタを探すところからはじめなければいけない上に、素人はタレントのようにコントロールが利かないなど、スタッフの苦労は計り知れません。「朝から真夜中まで街頭に張りついて成果なし」なんてことも多く、精神的・肉体的な疲労度が極めて高いため、クオリティのキープは難しいのです。私自身も大ファンの『さんま・玉緒のお年玉! あんたの夢をかなえたろか』(TBS系)が年1回のペースを守っているのもそのためでしょう。
ともあれ、素人の面白さは無限大。それをどう引き出すのか、今まさにテレビマンたちの頭と体力が問われているのです。
【木村隆志】
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』(TAC出版)など。
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