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「TPPには断固反対」より

ワガ国ノ法律ハ
変エサセナイ
アメリカは履行法によって国内法が守られている

TPPは平成の不平等条約

アメリカだけが守られる「履行法」とは

岩月浩二

 アメリカとの自由貿易協定は、法的に必ず不平等条約になる。したがって、TPPも必ず法的に不平等な条約になる。

 このことは、国際経済法のテキストに書いてある。学生でも知っている、いわば常識に属する。しかし、一般には伝えられない。「原子力ムラ」と同様に、「TPPムラ」という利益集団があるが、閉鎖的な「TPPムラ」は、アメリカとの自由貿易協定が法律的な不平等条約になる事実をひた隠しにしている。

米韓FTAで韓国の法律は66件も変わった

 TPPは非関税障壁の撤廃を目的としている。平たく言えば、外国資本の活動を制約する国内の規制や仕組みを撤廃しようということだ。したがって、TPPで非関税障壁とされれば、加盟国は国内の規制や仕組みを変えなければならない。

 米韓FTAも同様で、韓国は、租税・郵便・放送・知的財産・医療機器・医薬品・自動車安全基準・環境保全等の諸分野にわたって、米韓FTA発効後一年の時点ですでに66件の法令規則等の改正をしなければならなくなった。

 条約は国家間の約束事である。非関税障壁とされた仕組みを変えると約束したのだから、約束を守るために、国内の法令を改正するのは、通常は、当然のこととされる。

アメリカだけは法律が変わらない

 ところが、アメリカにはこの当然のことが通じない。アメリカは、米韓FTAを締結しても一つの法律も変えることはないのだ。アメリカの法令が米韓FTAに全部一致しているから変える必要がないというわけではない。信じられない裏技を使う。

 アメリカは、自由貿易協定を締結した後、これを国内法化するプロセスとして「履行法」を制定し、その中に必ず次の規定を盛り込んでいる。

 (1)連邦法・州法に反する自由貿易協定は無効。

 (2)自由貿易協定に反する連邦法・州法は有効。

 (3)何人も(但し合衆国を除く)、自由貿易協定に基づいて攻撃防御方法とすることができない(平たく言うと、自由貿易協定に基づいて権利を主張し、義務を免れることはできない)。

 (4)何人も、当局のいかなる作為・不作為に対しても、自由貿易協定に基づいて、異議(訴訟等)を申し立てることはできない。

 これらの条項は、確認できる限りで、WTO(国際貿易機関)履行法、NAFTA(北米自由貿易協定)履行法、米韓FTA履行法のいずれにも盛り込まれている。簡単に言えば、アメリカの国内では、国内法が自由貿易協定に優越し、自由貿易協定は無効だということだ。

 アメリカには連邦法と州法とがある。州は、独立性があるから、日本の自治体より広い決定権を持つ。州の独自性があるから、すべての州に対して自由貿易協定に合わせて法律を変えるように求めるわけにはいかないという事情はある。だが、連邦法も見直すつもりがないというのは、開き直りである。

 アメリカがしようとしているのは、自分の国にたとえ非関税障壁があったとしても、それは触らずに自由貿易協定の相手国の仕組みだけを一方的に変えようということなのだ。

 これはまったく不平等である。アメリカは冷戦終結後、自らを安全圏において世界規模で戦争を繰り返した。自由貿易協定をめぐるこの手口は、アメリカのしかけた戦争に似ている。アメリカにとって自由貿易とは、経済を舞台とした戦争なのだ。

 日本では、自由貿易を無条件に善とする議論が多い。しかし、「自由貿易」の盟主であるアメリカは、自由貿易のために国内制度を犠牲にするつもりは微塵もない。徹底した保護主義を採用しているのだ。それが国益と国民の利益を守る現実的な選択だからだ。日本の自由貿易礼賛論はまったく非現実的だ。

 不都合な事実をひた隠しにして、自由貿易を礼賛する「TPPムラ」は、新興宗教の教祖集団のようなものだ。

貿易については議会が権限を持つアメリカ

 一般に諸外国では、自由貿易協定の締結権限は内閣等の行政府に委ねられており、議会は、締結された自由貿易協定を、一括して承認(批准)するか否決するかどちらかである。

 ところが、アメリカ合衆国憲法では、通商(貿易)に関する事項は、議会の専権事項に属している(1条8項3号)。大統領自体には、憲法上、TPPのような通商協定を締結する権限さえない。議会は通商に関する権限が議会の専権事項であることに基づいて、自由貿易協定の国内法的な効力を自由自在に操る。

 アメリカ合衆国憲法の上では、そうしたやり方は正当なのだ。

アメリカには「国際法違反」が通用しない

 自由貿易協定を国内では無効にするというアメリカのやり方は、憲法には合っていても、国際的な約束を無視しているのだから、国際法には違反している。しかし、アメリカに対して、国際法違反を問うのは現実問題として無意味だ。

 かの原爆投下が無差別の空爆を禁止した国際法に違反することは明らかであった。当時の日本政府も国際法違反だと抗議している。しかし、国際法違反だからといって、アメリカに対して何らかの制裁を与えることができるかといえば、できない。あまりに卓越した力を有する超大国に対しては、国際法違反の追及は、現実には無意味というほかないのである。

 かくして、不平等条約がまかり通っている。TPPで行なわれることは、WTO、NAFTA、米韓FTAによる前例で、すでに明らかだ。アメリカはTPPの約束を無視して、国内の仕組みは一切変えない。日本は、韓国同様に非課税障壁だとされる規制の撤廃を余儀なくされる。

アメリカ以外の国(日本や韓国など)
ワガ国ノ法律ハ
変エサセナイ
日本や韓国などは国際協定のほうが 国内法より優位になる

日本では国内法より国際条約が上

 アメリカでは自由貿易協定と法律は同等の効力を有するとされる。同等の効力を有する場合は、通常、後の条約や法律の効力が優越する。だから、アメリカは自由貿易協定を締結・批准した後に履行法を制定し、国内法に反するものはその効力を無効にする。

 一方、日本では、条約は法律に優越した効力を持つとされている(条約と法律の効力は、それぞれの国の憲法の規定の仕方で決まる)。条約が法律に優越するのだから、日本ではTPPに反する法令や規則等は変えていかざるを得ないのである。

 アメリカの非関税障壁はまったく揺るがず、日本だけ、非課税障壁を次々と変えることを強いられるという条約を不平等条約といわず、何と呼ぶことができよう。こんなことは国際経済法を学ぶ者なら、誰もが知っている常識なのだ。しかし、専門家は何も言及しない。原発事故を軽く見せようとした専門家と同じだ。だから、国際経済法など門外漢の弁護士が、わざわざ教科書を買って、読んで、言わなければならない。

全米の州議会はISD条項に反対している

 これほど強烈に保護主義を貫いても、なおアメリカの制度を守るには不十分だとする意見は強い。一例として、全米州立法者協議会による、2012年7月5日付の意見がある。「ISD条項を設けないことを求める、TPP交渉担当者への公開書簡」と題されている。

 全米州立法者協議会は、全米50州・1自治区の議会を代表する協議会であり、この公開書簡は、全米の州議会の意思を示すものと見ることができる。ここで、全米州立法者協議会は、「ISD条項は、公共保健、安全および福祉を保護し、勤労者の健康および安全を保障し環境を保護する公正な法律を制定し、施行する州議会の権限と責任を妨害する」として、ISD条項の排除を求めているのだ。

 ISD条項とは、外国投資家の期待利益を侵害した政府や自治体等の行為に対して、外国投資家が国際投資私設法廷に損害賠償を求めて相手国政府を訴える権利を認める条項だ。この私設法廷では、外国投資家の期待利益が侵害されたかどうかを主要な基準にして、裁判が行なわれている。

 そして、この国際私設法廷では、しばしば国内法が無視されている。このため全米の州議会は、ISDが州の権限を不当に侵害するとして、一致した見解を発表したのだ。

 実際、外国投資家のISD提訴は、しばしば地方政府(自治体)等の環境や公共保健政策などが投資家の期待利益を侵害したとして、提訴されてきた。住民保護のために地方政府が行使する当然の権限が、問題にされてきたのだ。

 むき出しの保護主義を前面に掲げるアメリカ合衆国ですら、州の権限までは保護しきれない場合がある。このために州立法者協議会は、ISDに反対する書簡を発表したのだ。

ISD反対運動で国際的な市民連帯を

 TPPの法律的な強制力は、ISD条項によって担保される場面が多い。国内規制や仕組みが非関税障壁だとされて、国際私設法廷に持ち込まれた場合に、巨額の賠償を命じられる可能性があるということでTPPの実効性は確保されているのだ。

 だから、ISD条項を除けば、TPPの実効性を半ばは骨抜きにできる可能性がある。アメリカの州の議会から沸き起こった反対意見が、犠牲にされるのは日本の国民だけではないことを示している。アメリカ国民の利益すら侵害されるということは、TPP参加国の全国民の利益が侵害される可能性が高いということだ。

 ISD条項は、外国投資家を国家より優越的な存在として扱う。このことは、外国投資家と加盟各国の国民の対立という構図を内包しているということだ。全米で起きているISDに対する反対は国家間の利害を超えて、国民レベルでの共同の運動を切り開く可能性を持つ。

 国家間の不平等条約を巻き返す力は、意外にも国際的な国民との連帯にあるだろう。国際的な連帯は、自らの日常的な暮らしや生活を大切にする自然な感覚と、これを守ろうとする人々の自覚から生まれるに違いない。

 (弁護士・「TPPを考える国民会議」世話人)

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この記事の掲載号
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