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【社説】

週のはじめに考える 中韓接近どう向き合う

 日中韓の首脳会談が十月末にも開かれる見通しです。中韓が急速に接近する中で、日本は歴史問題と交流、協力にどう対応するかが問われます。

 韓国の朴槿恵大統領は二〇一三年二月の就任直後から、中国への接近を強めてきました。それまで朝鮮半島をめぐる外交、安全保障では、大筋として「日米韓」と「中朝」というブロックに分かれましたが、各国の指導者交代もあって今はもう少し複雑です。

 日本と米国は中国の勢力拡大を抑止するため連携を強める。韓国はこれとはやや距離を置き、経済面などを重視して中国に近づく。一方、北朝鮮は中国と修復の動きはあるものの、孤立からまだ抜け出せない−。これが現在の東アジアの構図です。

◆経済と北朝鮮の抑止

 中国は九月三日に「抗日戦争勝利七十年」の大規模な記念行事を開きましたが、米国と欧州主要国の首脳は欠席し、安倍晋三首相も訪中を見送りました。中国の軍備拡張、国際法を無視した海洋進出や人権への対応を問題視したからです。朴大統領は出席し、軍事パレードも参観しました。

 米国や日本政府は表だっての批判は控えましたが、強い違和感が残ったはずです。韓国紙「ハンギョレ新聞」によれば、米国のシンクタンク研究員が「青チームにいるはずの人が赤チームにいるとの声が出ている」と発言しました。本来なら、同盟関係にある米国側にいるはずの朴大統領がなぜ、相手チームというべき中国に加わったのかという痛烈な皮肉です。

 韓国の対中貿易は、米国と日本との貿易額を合わせたより多い。携帯電話や自動車など主力産業は中国市場頼みで、訪韓する中国人観光客は日本人を抜いて一位になった−。経済の依存度は深まるばかりです。

 北朝鮮の核開発を止めるにも、後ろ盾である中国の協力が不可欠です。習近平政権は経済力のある韓国との外交に比重を移しているから、朴政権は今が、中国の助けを借りてでも北朝鮮を抑止する好機と考えているのでしょう。

◆日米との距離広がる

 韓国には「安米経中」という言葉があります。安全保障は軍事同盟がある米国に、経済は中国に頼るという戦略です。だが、オバマ政権は神経をとがらせています。中国が目指す国際社会での枠組みづくりに、韓国が組み込まれるのではないかと疑うからです。

 中国が主導したアジアインフラ投資銀行(AIIB)に、韓国は参加しました。日米両国が見送った中での決断でした。

 防衛問題はさらに根が深そうです。米国は北朝鮮の脅威に対抗して、在韓米軍基地に「高高度防衛ミサイル」(THAAD)を配備する構想を持っていますが、韓国は中国の反対を懸念して決断を下せないまま。システムが稼働すると、北朝鮮はもちろん、中国本土のミサイル情報も探知できるからです。

 韓国は日米と次第に距離を置くように見えますが、韓国の外交関係者は「軍事同盟がある以上、外交の柱は米国だ」「中国に近づくのは地政学上、必要に迫られているからで、慎重に進めている」と説明します。

 では、中韓接近は日本にはどういう影響を及ぼすのでしょうか。

 安倍首相は八月、戦後七十年談話を発表し、中韓両国は積極的な評価こそしなかったものの、これまでのような激しい批判は抑えました。日本との関係改善を望み、首脳会談の必要性を理解したとみられます。

 それでも火種は残っています。国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界記憶遺産に十日、中国が申請した「南京事件」の資料が選ばれました。日本政府は、虐殺の被害者数など両国間でまだ論争があるのに、中国は政治利用をしたと反発しています。今回は見送られましたが、中国は旧日本軍の従軍慰安婦に関する資料も申請しました。慰安婦問題では、韓国も別に申請する構えでいます。

 かつて日本の軍国主義の被害を受けた中韓は、歴史認識でも共通点を探そうとしていることは見逃せません。

◆「70年談話」具体化を

 ソウルで開かれる日中韓首脳会談では、歴史問題が議題に上るでしょう。同時期に安倍首相と朴大統領の初めての首脳会談が実現すれば、比重はさらに高くなるはずです。

 心配なのは、慰安婦問題や戦前、戦中の徴用工に対する補償で、中韓連携の動きが過度に強まることです。首相は七十年談話に込めた思いと今後の政策を、言葉と行動で示す必要があります。歴史認識が政争の具に使われてはならないし、それはどの国民も望むところではないでしょう。

 

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