武井宏之
2015年10月12日06時53分
1980年代後半の「地上げ」で空き家や空き地が虫食い状に残り、一時は街の存続が危ぶまれた東京都新宿区の西富久地区が、55階建てタワーマンションを核とした新たな街に生まれ変わった。「バブル経済の傷痕」の復興に「ここで暮らし続けたい」と奮闘してきた住民らは感慨深げだ。
「山手線内最高層」をうたう高さ180メートルのタワーマンション(1084戸)を中心に9月に完成した「富久クロス」。中低層棟の屋上には、こうした再開発物件には珍しい戸建て風住宅がある。
路地に木造家屋が軒を連ねたかつての西富久の街並みを再現したもので、「ペントテラス」と名づけられた。3階、7階部分に計22棟あり、地権者である旧住民が入居した。
「気心の知れた人たちと再び一緒に住める。本当に夢のようだ」。再開発組合理事長の笹野亨さん(71)は笑顔を見せる。事業費は約650億円にのぼった。
西富久地区はバブル期、「地上げ」で地価がつり上がった。笹野さんが営んでいたそば屋にも、スーツ姿の男が「土地を売ってほしい」と訪れ、店舗兼住宅が建つ31坪に、最後は移転費用を含めて10億円の値がついた。ただ、笹野さんは「別の場所で商売をしてもお客さんがつくとは限らない」と売却には応じなかった。
「あそこは倍の値段で売れたらしい」などのうわさ話に住民たちは疑心暗鬼になった。「売らないよ」と言っていたのに、いつのまにかいなくなった人も。親しかった隣近所の人間関係はズタズタになった。
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朝日新聞社会部
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