「政府と話したら負け」という日本の市民運動

 欧米の国際NGOによる社会変革運動と、日本の「市民運動」の大きな違いは、「政府と対話すること」に対する態度の違いだと鈴木さんは分析する。欧米の国際NGOは「何十年もアフリカを支援して貧困が劇的に改善されない状況で、問題を解決するには、先進国政府の政策や国際ルールなどの構造を変えなくてはならないという姿勢に変化してきた」という。

 欧米の国際NGOの姿勢と日本の「市民運動」の違いは、「武器貿易条約」の成立過程によく現れた。1990年代に入り、冷戦後の旧東側諸国から自動小銃や弾薬などが大量にアフリカなどの途上国に流れ、紛争が多発したことを受けて、アムネスティなどの国際NGOは「コントロール・アームズ(武器管理)」というキャンペーンを展開。国際機関・各国政府に対して、武器輸出そのものを否定するのではなく、武器輸出を管理する規制をつくることで、闇市場や人権侵害国への武器流出を阻止するよう働きかけてきた。その20年にわたる運動の結果、2014年「武器貿易条約」が発効した。

 一方で、国際NGOが日本で「コントロール・アームズ」運動を行おうとした際に、日本の国際協力団体・平和活動家と防衛関係者・安全保障研究者の両者間の対話が、当初進まなかったという。武器貿易の規制について防衛関係者と話し合うということに、日本の平和活動家側が抵抗を感じていたことが理由だ。そのため、当事者やNGOが話し合う「場」を作ることから運動を始めなければならなかった。

 なぜここまで、日本の市民活動家は対話を拒むのか。鈴木さんは、日本の市民活動家の多くが政府や政治が嫌いなアナーキスト(無政府主義者)で、政策決定者に働きかけるのではなく、例えば政府が関与しない「寄付運動」などの活動に邁進してしまいがちだと指摘する。「政府の人と話すことすら、悪徳なのではないか、交渉したら負けなのではないか、と思っている。ですが、政府と市民の間に立って双方の利益を調整し、交渉を進めることこそ、社会変革のために必要なことです」

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