アニメ見ながらごろごろしたい

2015-10-11

小説家になろうはライトノベルに何をもたらすのか

オーバーロード1 不死者の王

オーバーロード1 不死者の王

小説投稿サイトの小説家になろうはライトノベル業界大手の電撃文庫が「魔法科高校の劣等生」を書籍化、エンターブレインが「ログホライズン」の書籍化をした事により、その存在が広範に知られるようになりました。最近は「オーバーロード」に「Reゼロから始める異世界生活」と小説家になろうに掲載されている作品が次々にアニメ化され、「ナイツ&マジック」や「賢者の孫」と売れている作品も小説家になろうのものが増えてきましたね。ヒーロー文庫とオーバーラップ文庫はそれを主力としています。ファミ通文庫と富士見ファンタジア文庫とスニーカー文庫はそうなりつつあると思います。

小説家になろうに頼らないプロは辛い
こうした小説家になろうから書籍化される作品が大量に生まれる状況は良い面もあれば悪い面もあります。
小説家になろう作品は書籍化前からそれなりにファンがついているので売れやすい、書籍化前に数巻分書いていれば締め切りが破られる事は少ない、書籍化前に書かれた部分に関しては編集者から余計な口出しをされづらい、作品が小説家になろうから削除されていなければ購入するかどうか読んでから決められる。ご覧の通り小説家になろう作品の書籍化は作家、編集者、読者と様々な立場から見ても利点があるのですが、これらは小説家になろうとは無関係の作家を厳しい状況に追いやります。

小説家になろう作家は誰にも口出しされずに書いてきた作品をほぼそのまま出版するのに対して、普通のライトノベル作家は企画を没にされたり編集者の意見を聞きながら改稿をするそうですが、これをしたからといって売れるという保証はありません。作家が自由に書けず売れもしないのであれば精神的負担は増加、編集者から何度も書き直しを要求されると刊行速度が低下する恐れもあり、そんなこんなで脱稿するのが遅れて半年おきにしか出せないとなると、待たされた読者の熱は冷めて作品は忘れられてしまいます。

よほど他作品との差別化されていて熱狂的なファンがついている作品でもなければ、数巻分の書き溜めがあり刊行速度を早めやすい小説家になろう作品に客を奪われてしまうと思います。さらに厳しい事に何割かの小説家になろう作品は書籍化された後も変わらずネットで全部無料で読めるのに対して、普通のライトノベルはレーベルにもよりますが試し読みの大半は30ページ程度しか出来ない場合が多いですね。「いづれ神話の放課後戦争」みたいに半分程度は読めるようにしてある作品もあるけど少ないです。

小説家になろう作品は購入するかどうか読んでから決められますし、無料で読めるおかげで読者も多いのでレビュー数も増えて、作品の評判がどうなのかも目に入りやすいですが、普通の作品はそれらが殆んど無いので購入して読まないと面白いかどうか判断出来ません。そうした面白さが未知数の作品を買おうと思うのは懐や時間に余裕があるか、ライトノベルがよほど好きでもなければ難しいと思います。

アニメのみならず漫画までもが無料で読める時代を生きるには、期間限定でもいいから無料で読めるようにして、口コミで作品の面白さが伝わる仕組みを作らないのではないでしょうか。そうしなければ「無職転生」「金色の文字使い」「オーバーロード」等の小説家になろう作品や「Fate/strange Fake」「妹さえいればいい。」「エロマンガ先生」「絶対ナル孤独者」等の大人気作家の新作ばかりに客が集まる傾向は強まります。その方が自分に合いそうな作品に出会える確率は高いですからね。

さて小説家になろう作品ばかりが売れるようになり、それ以外の作品が次々に打ち切られると何が起きるかといえば、新人賞の価値が低下する事が考えられます。小説家になろうを通してプロになる方が成功しやすいし、自分の好きに書けると考える人達が増加すると、新人賞の応募総数は減ってしまい質の高い作品の数もまた減ります。小説家になろうに投稿していた方が成功すると考えるのはプロも同じらしく、小説家になろうに擦り寄る作家もじわじわ増えてきていますね。酷いものだと小説家になろう作品を紹介しているブロガーにそれまで関心を抱いていない癖に、自分が小説家になろうに投稿開始した途端にフォローする作家もいました。

話を戻しますが新人賞に受賞した作品の質が下がり予想よりも売れないとなると、割に合わないと判断されて今以上に小説家になろうに頼ろうとするレーベルも出ると思います。オーバーラップ文庫のように小説家になろうに依存していると、小説家になろう受けしない異世界召喚転生以外を書きたい作家は、そうしたレーベルよりも小説家になろうに頼らないガガガ文庫や電撃文庫を選ぶはずですが、それが将来的にレーベルに何をもたらすのか注目しています。

短期的には小説家になろうを利用するレーベルが儲かると思いますが、それをやるレーベルが落ち目のところだったりするので、長期的には失敗しそうな気がするんですよね。甘い汁を吸えそうなところに儲けようとする連中が集まり、壮絶な奪い合いが起きて旨みが消えるなんてのは至るところで起きていますから。先行者利益を得られるのはヒーロー文庫あたりかなという気がします。

理想としては小説家になろう作品が次から次へとアニメ化、普段はアニメや漫画しか見ない視聴者がそこから作品に興味を持ち、小説家になろうで無料公開されているそれらを読み始め、ラノベを読む癖が身に付き購買層にまで成長して、ラノベ市場が拡大して小説家になろう以外の作品にも興味を持つといいのですが、さすがにそんな都合のいい事はそうそう起きないですよね。

という事を書いてる間に小説投稿サイトを角川が立ち上げると発表されたわけですが、これは小説家になろうやラノベにどの位の影響を与えるのか気になります。個人的には小説家になろうには変化は生まれないのではないかなと思います。こういう投稿サイトは利便性よりも利用者がどれだけいるかで価値が大体決まりますから、五年前ならまだしも巨大になり過ぎた現在の小説家になろうの地位を脅かす可能性は低そう。

角川は散々小説家になろうのお世話になっていますし、積極的に競合して利用者を奪おうとする理由があるとは思えないので、小説家になろうでは評価されない作品を生み出す場を作るのが主目的な気がします。小説家になろうの異世界召喚転生チートハーレムが売れているとはいえ、それだけしかないとそれらに興味のない読者は次第に離れてしまいますから、長期的に産業を育てる為にも様々なジャンルの傑作が発掘される場は必要だと思います。

その小説投稿サイトでは「涼宮ハルヒの憂鬱」「フルメタルパニック」「オーバーロード」「バカとテストと召喚獣」等の作品の二次創作が公式に認められるそうなので、どうやらそこが小説家になろうとの差別化要素になるみたいですね。将来的には二次創作を書籍化して「ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン」みたいに大人気作品の派生作品を増やして儲ける作戦なのかもしれません。

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