おはようございます。
柳亭市馬でございます。
いつもご覧頂きましてありがとうございます。
え〜ナビゲーターをまたやってまいりましたが今日が私の一区切りというところでえ〜寄席にふだん我々出ております。
皆様方にも是非この寄席に来て落語のだいご味を味わって頂きたいと。
風情がね寄席って所はありますので。
え〜表にはのぼりがはためいていて寄席文字の看板が出てちょうちんが出て中へ入りますと寄席囃子が聞こえてきてお客さんの笑い声がする。
そこに身を置くだけでもいい気持ちになってきっと皆さん損はないと思いますので。
上席中席下席とひとつきの間を3つに分けて番組が出来ております。
10日間ずつ変わります。
寄席ばかりでなく最近では個人の落語会も多ございますからえ〜インターネットのホームページや何かで見てスッとお出かけ下さいますのも一興かと思います。
え〜寄席をどうぞかわいがって下さいませ。
さて今日の出演者をご紹介致しましょう。
漫才のおぼん・こぼんのご両人でございます。
若々しい漫才をお楽しみ下さい。
そして私柳亭市馬「目黒のさんま」をお聞き頂きます。
(拍手)おはようございますどうも。
おはようございます。
ありがとね。
いや〜本当にね。
ええお客様で。
おかしいですね皆さん。
いやみんなね言うてたん今日の出演者がみんな。
出演者が何て?いいお客様やて。
ありがたいね。
本当に。
ある人が言うてたんや。
何て?「何言うても笑うで」。
それはあかん。
言うてた言うてた言うてたもん。
最高じゃないですか。
誰の漫才か分かりませんですけどね。
でも本当にね僕らもこんなアホな事言い続けて本当に今年で50年目。
50年!すごいやろ?
(拍手)本当に元気だったらいくつでもできる商売やから。
力もそんなにね体力も使いませんからね我々ってね。
体力なんかね舞台の端からここまでたどりつけばええのよ。
たどりついて。
本当に。
あとは筋肉いらん。
筋肉使わないですあんまりね。
筋肉はねここの筋肉だけ。
ここでゴニョゴニョゴニョ言ってたらいくつでもできる商売やからありがたいよね。
いろいろな所旅行かして頂いたりなんかしてね。
本当にいろんな所へ旅行った。
プライベートでもおぼんさんなんか結構旅が好きでございましていろんな所行くんでございますよ。
僕旅好きよ。
大好きなのよね。
こぼんちゃんも旅…外へは?僕は出ない。
もう仕事なかったらほとんど出ないんです表にね。
だから今日はね半年ぶりに出てきました。
(笑い)さみしい事言うな。
世間の人がお前またやと思うやろ。
でもね本当に僕一番好きなのは旅行してて一番好きなのはねやっぱり京都でございます。
いいですよ。
やっぱりね日本の古さっていいますか古都っていいますかねいい雰囲気ではありますもんね。
やっぱりそうでしょ。
テレビご覧の皆様方も京都行った方いらっしゃるでしょ。
日本人ならほとんど行ってるでしょ?観光修学旅行だとか行くじゃないですか。
ちょっと会場の皆さんで今まで京都一回も行った事のないという方いらっしゃいますか?何人ぐらいいらっしゃいます?ほら100%ですよ。
僕ね信ぴょう性がないからいかんから京都の観光協会に電話かけて聞いてみた。
「日本人のみならず外国から一年間にどのぐらい来てるもんや?」。
「年間どのぐらいの方がいらっしゃってますか?」って聞いた。
電話かけてピポパポピピピピピピ。
プルルルプルルル。
カチャッと出たんや。
漫才師のさがや。
ものまねした。
ものまね結構上手なんですよ。
あの〜もしもし?すいません。
それ誰のものまねやってるんですか?誰ってお前…もう自信なくなるやないか。
あのね…。
もう電話いうたら若い方分からんけどある程度僕らの年代の方は分かる。
誰ですか?電話いうたら藤山寛美さん。
ものまねの鉄則というのはまず名前を言って皆様方を洗脳するんですよ。
それでもって藤山寛美に似てるなと思われる。
頑張ってやって。
藤山寛美さん。
あの〜もしもし?あの〜もしもし?お前の方がうまいやんか!朝から本当に腹立つ男やな本当に。
ほんまやね。
ほれでね「一年間にどのぐらい京都に旅人訪れますか?」。
ほしたら旅人…一年間にですよ1,598万3,625人だったそうでございます。
すごいですね。
調べるおぼんさんもすごいですけどそれをペラペラッと言う観光協会もすごいね。
はいはい。
今の数字もう一回お願いできます?
(笑い)言えるかそんなもん!いい加減なもんやから。
でも1,000万人超えてる。
本当に。
でも考えてみたらそうですよ。
そういう観光地なんか行くじゃないですか。
バスガイドさんの声っていうのはどこの観光地行っても同じトーン。
ちょっと鼻にかかってね。
皆様本日は当観光バスをご利用頂きましてまことにありがとうございます。
この観光バスは…。
(笑い)お前何か橋幸夫っぽくなってません?いやそうか?どういうふうに言う?観光バスだもうちょっと声のトーン上げて。
皆様当観光バスご利用頂きましてありがとうございます。
皆様方の旅のお供をさせて頂きますガイドのキョウコと申します。
どうぞよろしくお願いします。
お疲れさまでした。
いらっしゃいませ。
ありがとうございます。
そういう感じなそういう感じな。
声のトーン上げて。
さて皆様方本日はご利用頂き…。
でけへんそんな。
橋幸夫や。
普通の人間にはでけへん。
さて皆様方京都の街は桓武天皇の命によりましてこの地に平安京を築かれそれから1,000年もの長い間日本の都として栄えたのがこの京都の街でございます。
さて皆様方あちらにございます大きなお寺をご覧下さい。
あのお寺さんは何ていう…?あれは京都でも有名な清水寺でございます。
しし…。
江戸時代清水次郎長がこの地を訪れもう悪の世界に…。
あれは「清水」と書いて「清水寺」っていうんじゃないですか?あっ清水寺?清水寺じゃないですかね?清水…あっごめんなさい。
あれずっと私今まで清水寺…。
それじゃばか丸出し…。
清水寺でございます。
こちらの大きなお寺さんは?あれは京都でも有名な金隠しでございます。
金…。
大きなトイレですね。
いやごめんなさいごめんなさい。
金隠し?金閣寺でございます。
寺でございますか。
すいませんけどあの金閣寺をちょっと説明して頂けます?あの金閣寺は皆様方もご存じのとおり誰の別荘として建てられたかご存じでございますか?誰でしょうか?あの有名な…。
はいはい。
鎌倉の有名な方でございます。
足利さんですか?足利義満。
ああ義満。
そう。
それが出てこなかっただけでございます。
最近ぼけ老人になってしもうた。
足利義満の別荘として建てられた建物でございまして。
金閣寺がですか?はい。
残念ながら昭和25年に不審火で燃えてしまいました。
それから5年の歳月で現在の形になったのが昭和30年でございます。
誰が建てたお寺なんですか?だから今も忘れたと言いましたが足利義満の別荘と。
だから不審火で燃えましたですよね。
はいはい。
そのあと復興しましたよね。
誰が建てたんですか?大工さんでしょうね。
大工さん!だからよく分かりません。
すいません。
ガイドさん私ガイドさんのねバスの中でご当地ソングというのが私好きでございましてね旅の情緒を盛り上げるじゃありませんかご当地ソングっていうのは。
やはりガイドさんの歌が一番でございます。
それでは最後にバスガイドの歌を歌わせて頂きたいと。
これがまあ旅のだいご味とか楽しみでございますね。
それでは大変恐縮ではございますが1曲3,000円でお願いを致したい…。
ちょっと待って下さいよ。
カラオケだって200円300円とかで3,000円って…。
京都の歌は1曲3,000円になっております。
この3,000円頂かないとこの漫才のオチがなくなってしまいます。
オチがなくなるってどういう事?お恥ずかしいお恥ずかしい。
3,000円頂きます。
分かりました。
3,000円で雰囲気を盛り上げて頂きたいと思います。
それでは京都の歌を1曲3,000円で歌わせて頂きたい。
もうお気付きのお客様どうぞご一緒にご唱和頂きたいと思います。
それでは…。
恥を忍んで歌わせて頂きます。
恥を忍んで歌ってんですか?それでは京都の歌を1曲3,000円で。
まいりますよ。
(2人)・「京都大原三千院
(3,000円)」やめなさい!もうええわ!どうもありがとうございました!
(拍手)まあそういう寄席のね世界で活躍してだんだんだんだん出てきていよいよ女優さんになるっていうそこんとこですよ我々ね。
まあ「ウィークエンダー」のその全国的に顔と名前が売れた事ありますけどそっから女優さんにこう移るっていうのは?私楽屋でしゃべってるのうまかったんですよ見てきて。
楽屋は結構人が集まって「いやそれでさこうでさ」それが「ウィークエンダー」にいったんだと思います。
見てきた事をしゃべってるって。
はあ〜はいはい。
ねえこれでもう全国的にパッと。
全国だかどうだか分かりませんけれどね。
私たちまだね中学生か何かだから…。
見ちゃ駄目だって言われたでしょ?そうなんです。
まあ当時の視聴率で私が出てるところで四十何%いきましたからね。
ねえ。
「ドラマで是非出て下さい」っておっしゃって頂いて。
そのころですか?そのころ?そうです。
隣見たら森光子っていうテレビで見てる人がいるしこっち見れば小沢栄太郎っていう巨匠がいるし前見たら加山さんいるし「ええ〜テレビで見る人いっぱいいて」って。
それの…私がめいの森さんの役だったんでだからやっぱり森さんなんかでもいい事をやっぱり教えて頂いて。
だからあの〜「ピン子ちゃん舞台へね一緒に『雪まろげ』へ出ない?」って言われて。
私レギュラー何本やってたか分かんないんだけどせりふ覚えていかなかったんですよ舞台の。
そしたらいつもは「なあに?そうなの?ん?」とかって言う人が「ちょっといらっしゃい」。
声が違うのよもう。
「あなたがこっちの仕事があろうと2つあろうと3つあろうとあなたが『この舞台へ出る』って『うん』っつったんでしょ。
この3つの仕事は関係ないでしょう」って。
「プロとして覚えてこなかったらあなたが『うん』って言ったんですよ。
自分のためだから覚えてらっしゃい」って言われたの。
そん時「どうしたの?」って言う人と全然違くて「ハッ。
これがプロなのか。
やっぱりちょっと甘えてたな」って思いまして。
やっぱりそういうね厳しい事をパッとこう言って下さる人がそばにいたっていうのが…。
森さんでしょ。
宝ですねそれね。
その次は今度は森繁久彌さんですよ。
森繁久彌山岡久乃杉村春子ですよ。
今ね杉村先生のおかげで本当今ありますね。
奥様の役が杉村先生だったんです。
先生に…先生が「今のせりふの音が違いますあなた」。
音が?「お…お…音ですか?」。
「何であなた来たらね『お母さん』って呼ぶの?汚いでしょう。
『お母さん』でしょ」って今ならできんですよ。
「お母さん」って。
「お母さんの『あ』は入ってないでしょ」。
「ああそうか。
じゃ先生どうしたらいいんですか?」。
「自分のせりふを自分の耳で聞きなさい。
そしたら10年たったら自分で言えるようになりますよ」。
「ねえ母さん?」ってそっち側にもしいたら「ねえ母さん!」って呼ぶじゃないですか。
それができるようになったんですよ市馬師匠。
今できてるでしょ?できてますしもうね本当に…。
10年それを自分の音…普通の友達から電話かかってくると音病だから「あんた今の言い方違うと思う」って素人にそんなさ言っても…。
「先生いつもそんな姿勢がいいんですか?いつもきれいですね」とかって。
「それはそうですよあなた。
人が見て汚いと思う姿は自分が楽。
人が見てきれいだなと思う姿は自分がつらい」って。
「あ〜そうなんだ」。
それはやっぱり学んだ。
いや〜もう私なんかが聞いててね本当にもうためになるお話で。
杉村先生から…。
今度弟子にしようか?いや本当に。
何を言ってんの。
いやいやいや。
付き人で。
いやいや。
でもやっぱり先生の付き人みたいのやってる時随分たたかれましたよ周りに。
ゴマすってるとかさ違うのよね。
ついてたいのよね小さん師匠に。
それをさ出過ぎたってやっぱり…だってそばにいるだけで勉強になるんだもん。
そのついてる事が例えばごはん食べに行ったって水谷八重子先生とか花柳章太郎先生の話をする訳。
私分かんないけど「はあ〜」って全部聞けるじゃない。
これ財産でしょう。
ねえ。
もったいないからもっと若い人聞いて。
本当に分かってる事何でも教えるよね?本当にそうですね。
それで継承していかなかったらこの世界やっぱり駄目になりますよ。
ねえ。
でもまあそうやってねこれからもいろいろ役がいろいろ来て。
でも本当にもうNHKで「おしん」なんかもそうだし「おしん」もやらせて頂いてね。
「おしん」はもう何と言ったって代表作の…。
でも私「おしん」がそんなにすごかったって全然分かんなかったですね。
その時はもう掛かりきりなんですか?もう掛かりきりですしNHKと自宅の行ったり来たりでうちへ帰ったら山形弁ですから。
でもう当時は同録ですよ。
同時録画。
音と?音と。
だから「おしん」の最後は・「チャンチャラランチャチャンチャチャン」でせりふ終わんなきゃいけないの。
え〜そんな事があったんですか!・「チャチャンチャチャンチャンチャン」で「続く」だから。
・「チャンチャラランチャチャンチャチャン」「ここまでです」ってのせりふと芝居は。
であとは・「チャチャンチャチャン」っつったら「続く」だから。
え〜!それで伊東四朗さんにその位はいをこうやって渡して「おしんの位はいをせめて米1俵で位はいをもらってきた」って言ったら「てめえは米1俵のが大事だべ」つってパ〜ンってたたかれる。
それがさ「あっ惜しかったな」って上から言うの。
「ちょっとこぼれましたせりふが」って言うの。
このぐらいどうにかなんないのと思ったけどまた「おめえはそだなごとをして!」ガチャン!「おしんのためでねえか!」とかって言うんだけど5回目になるとねパシャンってたたかれた時キッと見たのがいい顔してんのよ。
それがOKになって。
ただあれは本当に恨んでる顔です。
あの…本当にね痛かったの。
これから何かやってみたい事ってあります?やってみたい事っていうのはまあそうね…ラジオドラマやってみたい。
ほうほう。
ラジオドラマは今までないですか?1回だけ。
あっ1回だけ。
1回ね「いのち」っていう「大河ドラマ」と掛け持ちだったの上のラジオと。
ね。
「いのち」っていう「大河」。
その時に掛け持ちで。
ほとんど読んでないんですよ。
台本を?ラジオドラマ。
大体概略は読みましたけど。
下の橋田先生の長いせりふの方が長いからラジオドラマちょっとなめてた。
行ったら宇野重吉先生がいたの。
「誰だ!こんな下手くそなの呼んできたの!」って。
「なってないよ君はちゃんと読んでんのか?」。
先進みやしない。
「今日は取りやめ」。
はあ〜。
私は早く下巻いてるから行きたいのよ。
でも怒られて…。
でそれがやっぱり今となっては「下手くそ」って言われてこれはもうしょうがない。
じゃあラジオドラマはねえ。
いやいや。
やってみたけど難しいからやってみたいんですよやった事ない事にナレーションとか。
やっぱりやってみた事ないのはそのぐらいかな。
まあ本当にいろいろ楽しい話そして我々の知らない世界の話も今日はありがとうございましたもう。
みんなおごってくれる人が亡くなっちゃってこっちがおごる番になっちゃって本当に…。
ねえじゃあ師匠また呼んで下さい。
(2人)ありがとうございました。
(拍手)え〜おなじみのお笑いでございますがまあ昔は今と違いまして士農工商なんて事を言いましてな身分の差がいろいろありますけれども一番上でお侍がえばってるんですが。
お侍ったってピンからキリまであって一番上の方はお大名という。
大名なんてものはぜいたくな暮らしができて楽だったんだろうと思うんですがそれがやっぱりそうじゃありませんでね。
下々には分からない苦労があったようで。
食べるもんでも自分の好きなものなんてえのは食えない訳で。
あてがいぶちですな。
自分の前へ出てくる時にはお毒味役の前を何人も通ってますから。
温かいのが出てくりゃいいんですけどねえ。
もう干からびた鯛なんかが毎日出てくる。
でこれも塩加減のいいやつなら毎日でも飽きないんですけれどもな。
そうやってそっくり返ったようなのが出てくるともうしょうがないけれどもしかたがありません。
これも食べるんですが大名食いというのがあって一箸だけおつけになる。
これが大名の見識ですな。
一箸おつけになってお気に召すと「美味である。
代わりを持て」ってな事を言って。
これはぜいたくです。
一口食べておいしいとまた次の鯛が出てくるんですが。
その日に限って鯛の仕入れが1匹しかなかった。
これはご家来困るんですけれども機転が利きますからな「代わりを持て」ときた時に「殿恐れながら築山のモミジをご覧下さいまし。
まことに見事に紅葉致しております」。
「何?モミジか?」ってんで殿様が庭の方へス〜ッと目を移してる間に魚の頭と尻尾を持ってクルッとひっくり返して「殿代わりを持参致しました」。
「おお早いのう」。
また一箸おつけになって「美味じゃ。
代わりを持て」ってんでね今度は困りましたよこれは。
ひっくり返すと元の穴が出てくるんでね。
まごまごしてると「何を致しておる?早う致せよ。
ああ何なら余がもう一度庭のモミジを見ようか?」なんてね。
粋な殿様があるもんでございますがな。
「金弥金弥はおらんか?」。
「ハッ。
殿お召しにござりまするか?」。
「う〜ん。
かような秋晴れの上天気の折に屋敷内におってはまことに不粋である。
遠乗りを致したいと心得るが」。
「ハッ。
武術鍛錬のためにもよろしい事かと心得ます」。
「いずれへ参ろうかな?」。
「下屋敷から程遠からぬ目黒辺りはいかがかと思いますが」。
「おお。
一度参った事がある。
しからば馬引け!」。
ひらり馬上の人になりますとこれから目黒を目がけてああご家来衆が戦国時代ですともしもの事があってはいけないというんで常に次の間で刀に手をかけて殿様の身を守っているんですが天下太平ですからもうみんなだらけきっちゃってね次の間でもうひっくり返ったりね勝手な事をしている。
殿様が馬でお出かけになったってえのを聞きましてもしも馬から落っこってけがしたら家来たちの落ち度でございますからこれはいけない。
もう馬引いてる暇がないってんで足袋はだしでもって家来たちは追っかけてった。
あ〜目黒へ着いた時はもうヘトヘトでございましてな。
「ハァハァ。
殿遅うなりましてまことに相すいません」。
「うん。
その方たちは足が遅いの」。
「恐れながら殿は馬にて四本の足でございまして我らかちにて二本の足。
かなう道理がございません」。
「いや〜負け惜しみを申すな。
うん。
ではあれなる小高き丘に一本松がある。
あれまで駆け比べを致そう」。
「望むところでございます」ってんで主従でかけっこが始まったんですが本当に駆けりゃあ家来が早いに決まってるんでねそこは家来たちは気を遣いますから決して殿様を追い越さないんですけれども中には物の分からねえ血気にはやった若侍が殿様の脇をピュ〜ッ!「これっ!その方いずれに参る?」。
「は?いや駆け比でございますので先を急いでおりますので」。
「余の前へ出る無礼者があるか。
後へ下がれ。
下がったら余の尻を押せ」なんてね。
(笑い)その家来が殿様の尻を押しますから体半身の差で殿様1着ゴールインで。
「うん。
やはり余が速かったの」。
「ハッ。
臣下一同殿にはかなう者にはございませんので」。
「うん。
分かればよいのであるが。
空腹を覚えた。
弁当をこれへ持て」。
「殿恐れながらあまり火急の事ゆえ弁当は持参致しておりません」。
「何?弁当ないの?」。
(笑い)「ないか。
余は死ぬ」なんてねだらしのねえやつがあるもんでね。
「なぜ弁当を持参致さなかったのじゃ!」か何かひと言言えばまた家来が責め負わなきゃならない人が出てくる。
ですからそういう事はむやみに言っちゃいけないというのは子どもん時から教育されておりますから我慢するんですが腹が減ってる時は殿様だってはなし家だっておんなしでもうどうにもしょうがない。
周りは何にもありません。
今の目黒とは違いましてな田んぼと畑と山と川だけという所で。
おなかがすいてどうにもしかたがない。
そのうちに殿様の鼻先に嗅いだ事のない不思議な匂いがしてまいりまして。
「クンクンクン。
金弥この異なる匂いは何じゃ?」。
「ハッ。
これは近所の百姓家におきましてさんまを焼く匂いかと心得まするが」。
「さんま?さんまとは何じゃ?」。
「魚の名前にござりまする」。
「魚?魚であるか?では構わん。
これへ持ってまいれ」。
「殿。
さんまいわしと申さば下魚にございますので高貴な殿のお口には入りませんもの」。
「黙れ黙れ黙れ。
武士たる者が戦場においてあれが食えるこれが食えんで戦になると思うてか。
構わん。
下魚であろうとさんま。
目通り許す。
これへと申せ」。
「ハハア」ってんでさあこれからご家来衆が匂いと煙を頼りにお百姓のうちにやって参りますとしちりんで炭火でじかにさんまを焼いております。
その煙のすごいの何の。
「これは大変じゃ。
許せよ」。
「ああお武家様いらっしゃいまし」。
「さんまを焼いておるな?」。
「いや〜申し訳ございません。
すぐに消しますので」。
「いや消すには及ばんが子細があってそのさんまを少しこちらに譲ってもらいたいと思うが?」。
「さようでございますか。
今日町に出ましたらな1山いくらでいいさんまが安く出ておりましたんで買ってまいりました。
12〜13本もございますが」。
「おおすまんな。
ではこれはさんまの礼じゃ」。
「小判を出されましてもお釣りがないんですが。
ええ。
みんな下さる?あら〜これはまた。
じゃあ何なら今から町行ってさんまをあと50〜60本」。
「いやそんなには要らん。
すまんな」ってんで縁の欠けた皿に焼きたてのさんまを載せまして大根おろしおしょうゆをかけまして殿様の前へ。
殿様今魚が出てくるってえから魚はあの干からびた冷たいやつあれよりほかに知らないんだ。
それが今焼きたてのまだ横っ腹に消し炭がついててチュ〜プ〜チュ〜プ〜燃えてる真っ黒なさんまが出てきた。
「金弥爆弾か?」。
(笑い)「いやいや。
見た目は悪しゅうございまするがな食さば至って美味な魚にござります」。
「まことか?食しても大事ないか?」。
心配しいしい一箸つけたらこれはうまいの何の。
そらあそうでしょう。
生まれて初めて青天井の下で旬のさんまをしかも運動しない人が馬に乗って腹がすき放題にすいてるとこへ食べたんですから。
「うん。
美味である!」ってんで自分で頭と尻尾を持ってクルッとひっくり返して。
(笑い)食べた食べた12〜13匹のさんまを1人で。
「いや〜うまかったのう。
骨はそちにやろう」。
「ハハッ。
ありがたき幸せにござりまする」。
「世にかほどうまい魚のある事を今まで知らなんだ。
これから屋敷へ戻って三度三度さんまを食そう」。
「殿恐れながら目黒におきましてさんまを召し上がりましたる事ご口外ご無用に皆我々の落ち度になれますれば」。
「うん。
さようか。
その方たちの迷惑になる事であれば余はこの事は口外は致さん。
屋敷へ戻ろう」。
ご機嫌麗しくお屋敷にお戻りになりました。
さあそれからまた日常が始まるんですが三度三度冷た〜い魚が出てくる。
え〜これを見る度にあのうまかったさんまの事を思い出す。
「金弥目黒はよい所であったのう」。
「ハッ。
風光明美に致しまして」。
(笑い)「風光なぞどうでもよい。
目黒といえばそれあの折食したの…黒き長やかなる…」。
「殿その事は…ご口外ご無用」。
「分かっておる。
分かっておるから目黒とは申した。
しかしさんまとは言わん」。
「いやそれがいけないんでございます」なんてねもうご家来もひやひやしてる。
そのうちにご親類筋にあたりますお殿様から招待を受けます。
こういう時の吉例はお料理は何でもお望みの品をご用意致します。
つまりリクエストにお応えするという訳で。
殿様これは心得ておりますから得たりというんで「余はさんまが所望であるぞ」ってんで。
これを聞きましてお料理係が考えちゃった。
さんまなんか仕入れてませんからな。
早速早馬を飛ばせましてそのころ魚河岸が日本橋にございました。
房州沖で取れましたもう切れる刀のような新鮮なさんまを仕入れてまいりましてお料理係が考えた。
こんな脂のきついものを殿様に食べさしてもしも腹に障ったら切腹もんだってんで脂を抜いちゃおうってんで。
(観客)え〜!さんまを蒸し器に入れて全部脂抜いちゃってねえ。
はらわたなんかとんでもない。
きれいにはらわたを取り小骨も全部毛抜きを持ってきて抜いちゃった。
あ〜さんまは見る影もない。
脂は抜かれはらわたは取られ骨は抜かれってんでね。
これ焼く訳にいきませんのでつみれに致しましておわんに入れておつゆを張って殿様の前へ出した。
さあ殿様今さんまが出てくるってえから例の黒い焼きたてが出てくるかと思ったらおわんが1つ。
「これがさんまであるか?さんまというものはの縁の欠けた皿に載って出てまいるものであるが。
うん。
しかし一応中身を取り調べよう」ってんで蓋を取ってこう鼻の近くへ持ってきたらかすかにするさんまの匂い。
「ほう!さんまじゃ!変わり果てた姿になったのう。
余はそちに会いたかったぞ」なんてんで一箸口へ入れたんですがこりゃさんまの味は致しませんで「もうよい。
このさんまはいずれにて求めた?」。
「ハッ。
日本橋魚河岸にて房州より取りたてのさんまにございます」。
「何?房州か。
あ〜それでいかん。
さんまは目黒に限るぞ」。
(笑い)
(拍手)
(拍手)2015/10/11(日) 05:15〜05:45
NHK総合1・神戸
柳亭市馬の演芸図鑑「おぼん・こぼん、泉ピン子」[字]
落語家・柳亭市馬が、演芸界のよりすぐりの至芸をナビゲートする。演芸は、おぼん・こぼんの漫才、柳亭市馬の落語「目黒のさんま」。対談のゲストは泉ピン子
詳細情報
番組内容
落語家・柳亭市馬が、演芸界のよりすぐりの至芸をナビゲートする。演芸は、おぼん・こぼんの漫才、柳亭市馬の落語「目黒のさんま」。対談のゲストは泉ピン子
出演者
【出演】おぼん・こぼん,泉ピン子,【ナビゲーター】柳亭市馬
ジャンル :
バラエティ – お笑い・コメディ
劇場/公演 – 落語・演芸
バラエティ – その他
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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