池内恵(いけうちさとし 東京大学准教授)が、中東情勢とイスラーム教やその思想について日々少しずつ解説します。
ロシアのシリア介入は弱さの表れ:オバマの基本姿勢
2015年10月11日 02:34米・オバマ大統領は、CBSテレビの番組「60ミニッツ」への録画インタビューを行い、シリア問題について触れた。10月11日(日)に放映の予定だが一部がインターネットで公開されている。
Putin’s move in Syria a sign of weakness: Obama, CBS News, October 9, 2015.
抜粋部分では、ロシアのプーチン大統領の隠密裏に準備したシリア介入で「出し抜かれた」という批判に対して、プーチンのシリア介入はロシアの強さではなく、弱さを示すものだ、と反論している。
President Vladimir Putin's military mission in Syria is a sign of Russia's weakness, not a show of its leadership, says President Obama.
この欄でも以前に簡単に記したが、米国や英国など欧米圏の主導的な議論の場では、シリア問題をめぐって概略三つの立場があると筆者は見ている。
(1)ロシアの中東での軍事的台頭を危惧し、米国の軍事的対峙・中東への積極介入を主張する、保守派や、選挙運動中のヒラリー・クリントンなど民主党のリベラル・タカ派。オバマ政権の「弱腰」を批判する。これを「新冷戦」的思考と呼んでもいいかもしれない。実際に旧冷戦を体験した論客たちが続々と、「昔取った杵柄」のごとく議論に参入している。
(2)ロシアと協調しアサド政権を支援して、より大きな敵「イスラーム国」と戦うべきだ、とする「リアリスト」派。オバマ政権に政策転換を要請する。試みに「新デタント派」と呼んでもいいかもしれない。これも基本は冷戦思考と言ってもいい。
これらの批判や要請を受け止めつつ、オバマ大統領自身の姿勢・政策は次のような認識に基づいているようだ。
(3)ロシアのシリア介入は同盟者アサド政権を支えるための苦肉の策であり、ロシアは介入することでむしろ不利になる、とする立場。ロシアの介入策を批判しつつ、シリアの泥沼に足を取られて苦しみ、交渉による妥結を求めてくるのを待つべきと考える。この立場からは、端的には「プーチンにやらせておけ」という議論になる。これはアフガニスタンへの介入で墓穴を掘ったソ連の崩壊が冷戦の終結をもたらしたという「成功体験」を背景にしていることから「ポスト冷戦派」と呼んでもいいかもしれない。
インタビューの公開された部分は、インタビュアーに(1)の立場から、国際社会の中での指導力の低下を問い質されたのに対して、(3)の論理で答えたと言える。
ロシアの地政学的な台頭が、見かけ上のもので、支えに欠ける、実際のロシアの能力を超えた虚勢を張ったものであると米国が見抜いているのか、あるいは実際には米国が衰退していてロシアの台頭を黙認するしかなく、「負け惜しみ」を言っているのかは、時間が経たないと判定できない。
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