武田肇 上海=金順姫、北京=林望 佐々波幸子
2015年10月11日15時49分
「平和」を設立理念に掲げるユネスコ(国連教育科学文化機関)が、日中の戦争の記憶をめぐる摩擦の舞台となった。南京事件に関する「南京大虐殺の記録」の世界記憶遺産登録について、中国は自らの歴史観を国際社会に認めさせることを狙い、日本は阻止しようと再三働きかけた。今回の登録が、回復基調にある日中関係の新たな火種となる可能性もある。
「無念だ」
「南京」の登録が決まった直後の10日未明、外務省幹部は天を仰いだ。
中国の登録申請が明らかになった昨年6月以降、外務省はユネスコに、南京事件は日中間で様々な見解の違いがあると指摘。申請資料は中国の一方的な主張に基づいており、ユネスコの選考基準である完全性や真正性を満たさないとして懸念を伝えてきた。
日本政府は、日中戦争のさなかに日本軍が起こした南京事件について「(1937年の)日本軍の南京入城後、非戦闘員の殺害や略奪行為等があったことは否定できない」としつつ、犠牲者数については「政府として認定することは困難」との立場だ。中国の国営新華社通信によれば、中国が申請した資料には、犠牲者数を30万人以上と記した南京軍事法廷の判決書が含まれている。登録されれば、中国が、ユネスコのお墨付きを得たとして政治利用すると懸念した。
しかし、記憶遺産の審査制度が「壁」となった。世界遺産の場合、政府代表が参加する公開の場で審査され、関係国が意見表明する機会もある。一方、記憶遺産はユネスコ事務局長が任命した専門家が非公開で審査し、その結果を事務局長が事実上追認し、発表する。日本政府関係者は「そもそもユネスコには政治利用されることの問題意識が希薄だ」と指摘する。
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朝日新聞国際報道部
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