経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の教え

穏健財政による次世代投資

2015年10月11日 | 経済
 「一億総活躍」なんて、権力者臭さを漂わせてどうするのかね。かつての「所得倍増」は、所得を倍増させるという意味だった。今度は、一億を活躍「させる」つもりなのか。言われなくても、多くの国民は活躍したいのであって、それを阻む「壁」があるゆえに、困っているのだ。取り組む「壁」を示さないのでは、政治目標とはなり得ない。もっとも、10/9の日経によれば、スローガンを思いついただけで、中身はこれからのようだ。

………
 アベノミクスを総括すると、大胆な金融緩和で円安・株高を実現し、財政出動で景気に勢いをつけたものの、一気の消費増税で成長を失わせ、国民生活を低下させてしまい、今年度も追加増税を取りやめたのみで、8兆円の緊縮財政を敷いたために、原油安の天恵にもかかわらず、経済を低迷させたとなる。第三の矢の法人減税は、財政に穴をあけても、投資や雇用の促進には目立った効果がなく、企業の滞留資金を更に増やすに終わった。

 したがって、アベノミクス第二ステージにおいては、名目GDP600兆円達成を掲げることにより、度が過ぎた緊縮財政を否定することにしたと思われる。すなわち、「穏健財政」への転換である。これは、1997年のハシモトデフレ以来の政策転換であり、財政再建が最優先目標から下ろされたことは、歴史的変化と言えよう。立案者に、そうした意識は、あまりないにしても。

 「穏健財政」を具体化すれば、2012,13年の成長率が1.6〜1.7%であったことを踏まえれば、緊縮は0.5%程度にとどめるというものになろう。したがって、今年度は5兆円の補正予算を組み、締め過ぎを戻す必要がある。そして、2016年度は2.5兆円の補正予算を予定し、2017年度は1%の消費増税と2.5兆円の補正予算の維持とする。2018年度は消費税の悪影響が続くので、補正予算は継続せざるを得まい。そして、2019年度に再び1%の消費増税と補正予算の維持、2020年度も補正予算の継続である。むろん、経済は生きものなので、状況に応じて調整する必要がある。

 2014年度の一気増税の結果を踏まえれば、理性ある人なら、「今後は刻むしかない」となるはずだ。また、こうすれば、軽減税率の問題は、2020年度まで先送りできる。補正予算も、「来年はやめられる」と考えるのは幻想でしかなく、続けざるを得ない以上、そのとき限りのバラマキに使うのはもったいない。2.5兆円は、ほぼ恒久財源なのだから、再分配に充てられるし、貧困化を踏まえれば、そうすべきでである。

 他方、成長の復活による金利上昇への備えとして、利子・配当課税の税率を25%にしたり、株や土地にバブルが発生した場合に、臨時に法人増税ができるよう準備したりする必要がある。国債金利が上昇しても、自動的に税収も増えるようにして、利払費増加の不安を払拭するわけである。また、異次元緩和の後始末を終えるまでは、副作用の勃発に備えることも大切だ。(参照:均衡管理)

………
 以上のような現実的な財政計画を立てれば、新第二の矢で実施する少子化対策の財源が2.5兆円も出てくる。その使い途だが、「ニッポンの理想」で示したとおり、若者・女性が中心の低所得層に対する社会保険料の軽減をお薦めする。これにより、130万円の壁も解消され、非正規から正社員への移行も容易となる。非正規から脱する道を作らずに、「活躍せよ」とは虚しい。これは、労働供給の面で、成長力を高めることにもなる。

 少子化の最大の要因は、「働けない」ことにある。非正規に押し込められ、低所得に喘いでいては、結婚できるわけがない。夫婦で稼いで賄おうとしても、保育所が不足している。不足は、保育士は非正規だらけで賃金が低く、人手が集まらないのが理由だ。「ニッポンの理想」のように、低所得層に財源を集中すれば、たった1.6兆円で、最大16.8〜22.9万円もの負担軽減が可能であり、諸所の問題を一つの手段で好転できると考える。

 しかも、社会保険料の軽減は、経済が順調に成長し、名目賃金が上昇していけば、必要な財源は急速に減っていく。財政の負担は、一時的なものだ。労働供給を高め、少子化の緩和で長期的に国力を強くし、財政の重荷にもならない。こうなるのは、社会保険料の軽減が「次世代への投資」だからである。これまで、目先の財政収支の改善に苦闘し、国の将来を捨ててきた。我々が戦うべき場所は別にある。

 残る新第三の矢の介護離職は、どう解決するのか。実は、130万円の壁の解消は、これにも役立つ。壁がなくなると、労働時間がフレキシブルになるからだ。企業にとっては、社会保険料がかかるのに、6〜8時間しか働かないのが最も効率が悪い。だから、労働者が介護と仕事を両立させようとしても、辞めてくれとなる。それでパートに落ちれば、生活苦に陥る。こういうジレンマは除かれるのである。

 「穏健財政による次世代投資」は、安定的な財政運営を行い、社会の再生産に支出を充てるという、先進国では、ごく当たり前の、平凡な政策の考え方である。むしろ、成長力を無視し、度外れた緊縮財政を繰り返し試みるという、日本の財政当局の行動は、常軌を逸している。アベノミクス第二ステージは、マイナス成長への転落という惨敗を経験し、ようやく、官僚組織の狂気から、政治が脱しようとする試みと位置づけられる。

………
 かつての「所得倍増」は、単なるスローガンではなく、「健全なる積極財政」によって成長を促進すれば、十分に達成が可能なマクロの計画に基づいていた。これを主導したのは、お役所ではなく、首相となる池田勇人のブレーンとしての下村治博士である。今の財政当局は、「緊縮職人」でしかなく、「一億総活躍プラン」を作れと言われても、来年夏まで延々と「国民会議」を開き、有象無象の施策を羅列した分厚い報告書を出してくるだけだろう。

 もっとも、野党が公務員人件費の2割カットと消費増税の組み合わせという対案しか出せないのなら、その程度で十分かもしれない。しかし、それでは、困窮にある国民は救われまい。日本のリーダーが、総括が必要とか、手段が示されてないとか、批判するだけでは情けない。老骨でも、このくらいは書ける。下村博士は、当時40代だった。日本の未来図を描くのは、そこに生きる若い君たちの仕事である。


(今日の日経)
 法人税17年度に20%台、減税で国際競争力。

 ※現実に学んでほしい。円安でも輸出を増やさないのに、つける競争力とは何だろう。
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経済
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