2015年10月11日

新文科相の馳浩と副大臣義家が体罰自慢

生徒を4時間監禁、竹刀が折れるまで…
新文科相の馳浩と副大臣の義家弘介が
教師時代の体罰自慢対談
2015.10.09.LITARA(宮島みつや)

 どうやら、安倍政権による“教育破壊”は当面の間止まらないらしい。
第三次改造内閣の顔ぶれを見て、そう確信した。


 建前上、オリンピック問題の引責で辞任した下村博文氏にかわって、安倍晋三首相が文部科学大臣に抜擢したのは、元プロレスラーの馳浩衆議院議員だった。
そして文科副大臣に起用されたのは安倍チルドレン、ヤンキー先生こと義家弘介参議院議員だ。  

このふたりはともに元高校教師の肩書きをもつが、実は、過去に雑誌の企画で対談しており、そこで軍国主義さながらの“体罰肯定発言”、いや“体罰自慢合戦”をかましていたのである。  

2008年、保守論壇誌「正論」(産経新聞社)6月号所収の対談記事でのこと。
ふたりは教諭時代を振り返りつつ学校教育について語りあっているのだが、

まず義家氏が「生徒指導で大切なこと。これはいったんひいた線は絶対死守することに尽きる」としたうえで、こう語り出す。
「いじめの指導で放課後四時間教室から(生徒を)出さなかった時は他の教職員がハラハラしながら私の教室の外で見守っていて後で散々言われました。
(中略)口で『いじめはダメですよ』と説くのは誰でもできる。
でもこれはそんな次元で済ましてはダメで態度で示す以外ない。
教室の用具はボコボコになり、最後は加害生徒が泣いて詫びながら二度といじめないことを誓ったので終わりにしましたけど、これは仲間内の教職員から散々に言われました」

  他の教職員に批判されるのは当然だろう。
「加害生徒」が泣いて詫びたのは暴力に屈したからとしか思えず、それではただの“暴力の連鎖”だ。
かも大人であり学校内の権力者である教師から子供への暴力。
これでいじめ問題が抜本的に解決するとは到底考えられない。

 一方、この“トンデモ暴力元教師”に対して、馳氏はこう返した。
「私は朝七時前には必ず学校に行き、職員会議が始まるまでの時間を校門に立って口うるさくやりました。
爪、スカートの丈、髪型など。
私の場合は終始怒鳴らなくても済んだんですね。
というのは私が教員になってすぐに五輪の代表に選ばれましたし、私の身体を見れば生徒は『馳は怒らせると怖い』と分かるのです。
生徒は逆らったら怖いとビビっているから、むしろ『怒らせると怖いけれども、そうでなければ普通に話せる』と思わせるよう、授業の始まりにいろいろな話をして気をつかっていましたね」  

いたいた〜こういうコワモテの先生、と、さすがに義家氏と比べると常識の範囲内だったかと胸を撫で下ろしたのも束の間、 「では殴ったことがなかったかと言えば、必ずしもそういうわけでもない。
私は高校のレスリング部の監督を務め、石川県で強化委員会をやってましたけど、私の高校はそう強いチームではなかったのです。
ですから一週間に一本ぐらいは竹刀が折れていましたよ」

 ……馳、お前もか!

 どう見たってコレ、竹刀が折れるまで生徒をぶん殴りりましたってことだろう。
しかも続けて「理由はハッキリしている。
短期間でチームをまとめ、強くするには基礎体力をつける以外にない」なんてしれっと言っているのだが、ようするに“集団に貢献できないものは暴力制裁によって従わせる”という軍隊的発想だ。

 そもそも体罰の多くは、子供にとって肉体的痛みよりも、心理的ないしは精神的痛みの方がはるかに大きい。

仮に、竹刀が折れるまで馳氏が殴ったその生徒が、その後レスリング選手として大成しようとも、
義家氏が四時間も教室に監禁してボコボコにしたいじめ加害生徒が「更生」しようとも、その子たちの心の傷は一生消えないし、教員が暴力行為にでることを目の当たりにした他の生徒たちにも、むしろ「言うこときかないヤツは暴力で締め上げてもいいんだ」という誤った認識を植え付けてしまうのではないか。

 だが、考えてもみれば、安倍政権が「教育改革」を旗印に行ってきたのは、教育基本法改正による「愛国心」の押し付けや、道徳の「特別の教科」化による思想統制。

体罰や暴力支配がこれらと相性がよいのは歴史が証明しているわけで、馳氏や義家氏の「生徒指導」は現政権の意向とぴたりと一致するのかもしれない。

 事実、第一安倍政権の教育職員免許法改正により、教員免許は10年の更新性となったが、前述の対談で馳氏は、個々の教員や教育システムに対するさらなる国家の介入を提言している。

「教職員について国がやるべきこととして免許更新制を充実させないといけない。
こう思ってます。
教員は養成→採用→研修→免許更新という一つ一つの段階をもう一度洗い直す必要があるでしょう。
この四つの段階をバラバラの政策として取り組むのではなく、一体として捉える。
したがって研修の中身や更新制の研修も中身が厳しく問われなければいけないと考えています」  

義家氏がこれに「同感ですね。大学の教育学部なんてスキル指導は皆無に近いし、左翼教師の巣窟みたいになっている」とうなずくように、結局のところ馳氏が主張しているのは、教員を徹底して国家の管理下に置き、あるいは政府の意向に従わない教員を排除することによって、子供たちの思想や人格を都合のよいよう統制したいということではないのか。

 実は、7日に放送された情報バラエティ『バラいろダンディ』(TOKYO MX)でも、新閣僚の顔ぶれが紹介されたとき、プロレスの先輩である蝶野正洋が、馳氏を冗談交じりにこう評す一幕があった。

「いやあ、これ内閣を決めるときにちゃんと下調べ(身体検査)をしてないんですかねえ?」
「2、3カ月で多分ダメになるんじゃないかな」
「(人となりは)素晴らしいけど、彼は表と裏あるからねえ」

 体罰肯定、思想統制推進の馳氏と「戦後左翼教育」批判の急先鋒である義家氏がタッグを組んで文科省トップに君臨するとなれば、これから起きることは火を見るよりも明らかだろう。
彼らを就任させた安倍政権の思惑を、われわれはよくよく警戒せねばならない。
                       (宮島みつや)
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2015年10月10日

「中年フリーター」のあまりにも残酷な現実

「中年フリーター」の
  あまりにも残酷な現実
東洋経済オンライン 10月10日(土)6時0分配信

 アルバイト、パート、派遣、請負など非正規労働者の増加が止まらない。

平成元年(1989年)に817万人で全体の約2割だった非正規労働者は2014年に1962万人まで増加。
全体の37%と4割近くに迫っている。
今や労働者の実に3人に1人が非正規だ。

右肩上がりで増える中年フリーター

 中でもこれから深刻な問題として顕在化してくるのが「中年フリーター」の問題だ。
その中心は1990年代半ばから2000年代半ばに新卒として社会に出た「就職氷河期世代」の非正規労働者だ。
氷河期最初の世代はすでに40代に突入。
年齢的に正社員に就くのが困難であるだけでなく、体力の衰えとともに働けなくなってくる。  

三菱UFJリサーチ&コンサルティングの尾畠未輝研究員の試算によると、35〜54歳の非正規(女性は既婚者を除く)の数は2000年から増加、直近では273万人に上る。

■ 親のためにUターンも派遣社員を転々

 「本当は正社員として働きたかった。
安定した生活が保障された中で、自分の人生を設計したかったです。
振り落とされないように必死になって、社会にしがみついている状態です

 兵庫県に暮らすAさん(42)は就職氷河期世代。
工業高校を卒業後、大手流通企業に正社員として就職したものの、家庭の事情から非正規労働者になり、職を転々。
今はセールなどの掘り出し物を見つけてはネットオークションで売りさばき、生計を立てている。

 Aさんの人生が狂いだしたのは1996年、23歳のとき。
母親の面倒を見るために兵庫に帰郷し、派遣会社社員として大手メーカーの系列会社で働き出した。
 最初の派遣先は半年ごとの更新だったが、わずか1年で雇い止め。
Aさんは実家を離れて近隣県に「出稼ぎ派遣」に行く。
仕事の内容はガラス工場のオペレーターだった。
ただ3カ月で雇い止めに遭い、実家へ出戻り。
近所の食品会社工場の契約社員になった。
それも2年後に過労で辞職。
しばらく休養した後、別の派遣会社に登録し、再び大手メーカー系列の会社で仕事した。

 正社員を募集していた職場では、次々に落とされた。「社員にならないか?」と誘う企業がなかったわけではない。
リフォーム会社の訪問販売で給与は出来高制。
ネットで調べてみると、“ブラック企業”だった。

 結局、阪神大震災の翌年である1996年から約10年間で、派遣や契約社員、嘱託などの非正規待遇で10社ほど渡り歩いた。
時給はだいたい900〜1200円だった。

 さらにAさんを苦しめたのが2006年のライブドアショック。
少ない資産を少しでも増やそうと株式投資をしていたが、裏目に出てしまった。
これを機に残った株をすべて処分。
現在は前述のようにネットオークションで生計を立てるようになった。

 「地元で面接受けられる会社はすべて行ってしまっていたので、事実上、就職できなくなった。車の免許を持っていないので、遠くに行くこともできない」

■ 人手不足でも正社員の求人は少ない

 オークションの1カ月の利益は「生活保護費の少し上くらい」と多くはない。
母親と2人で住む公営住宅の家賃が安いから何とか成り立っているのだ。
「今怖いのは、親が急に死ぬこと。
公営住宅では配偶者であればそのまま住めますが、子どもが単身になると生活保護受給者や障害者以外は退去を求められる。
もしそうなった場合は貯金をすべてはたいて、安い住宅でも買わないとやっていけなくなるかもしれない」

 足元では景気回復に伴って人手不足が叫ばれている。
それに合わせて大きく期待されているのが非正規の正社員化だ。
確かに8月の有効求人倍率(季節調整済み)は1.23倍と23年ぶりの高い水準だ。

 ただし正社員に限ってみると有効求人倍率は0.76倍と1倍を下回る。
回復傾向にあるとはいえ、求人数が求職者数より少ない状況はいまだ変わらない。
ずっと非正規で専門的なスキルも経験もない人になれば、なおさらハードルが高くなる。

. 中年フリーターの「下流化」は今後ますます加速する。

非正規の平均月収は約20万円。
体力のある若いときは低賃金でも仕事の掛け持ちなど量でカバーすることができたかもしれないが、それができなくなってくる。

 貯蓄も少ない。
連合総研「非正規労働者の働き方・意識に関する実態調査」によると、非正規が主たる稼ぎ手となっている世帯のうち「貯蓄なし」が28.2%、「100万円未満」の世帯も26.6%に上る。  

また社会保険の加入率が低いのも特徴だ。
厚生労働省「就業形態の多様化に関する総合実態調査報告」によると、雇用保険の加入率は65.2%(正社員99.5%)、健康保険52.8%(同99.5%)、厚生年金51.0%(同99.5%)と正社員を大きく下回る。

■ 企業のコスト削減が社会の負担に

 病気などで働けなくなり、社会保険などのセーフティネットからもこぼれ落ちると、最後に頼れるセーフティネットは生活保護しかない。

生活保護受給者は7月時点で216万人と過去最多を更新。
それに匹敵する中年フリーター273万人が生活保護予備軍として存在しているといっても過言ではない。

 厚生労働省「就業形態の多様化に関する総合実態調査」によると、非正規を活用する理由について「賃金の節約のため」と回答した企業が4割超と最多。
企業が非正規を活用してコスト削減した分が、将来的に行政の負担として跳ね返ってくるようにも映る。

 Aさんのように親元で暮らしているから生計を維持できている人も少なくないだろう。
親の高齢化するとそれが難しくなるのは必至。
それどころか親の介護が必要になってくる。
また自らの老後にも不安を残す。
国民年金のみの場合、満額で6.5万円。
保険料未納の期間があると受け取る額は減る。
老後は今以上に厳しい生活になってしまうのだ。

 低い賃金、不安定な雇用、教育訓練機会の乏しさ……。
非正規をめぐる問題は以前から指摘されてきたことだ。
これまでにも氷河期世代をはじめとした若いフリーター層に対する就労支援も行われてきた。
だが目立った成果が上がらないまま、中年フリーターたちは年齢を重ねてきた。
これからますます苦しい立場に追い込まれていく中年フリーターをどうサポートするのか。
手を打たなければ事態が悪化していくことだけは確かだ。

. ジャーナリスト:
  池上正樹、週刊東洋経済編集部
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「すぐ態度を変える人と深く関わると信用を失う」と心理学者

すぐ態度を変える人と
深く関わると信用を失う」と心理学者
2015.10.09 16:00 NEWSポストセブン

 フジテレビ系『全力!脱力タイムズ』でもおなじみの、東京未来大学・こども心理学部長の出口保行さんが同僚に困っているという女性の相談にお答えします。

【相談】
 同僚の美奈子は自分にとって有利な先輩を見つけると、すぐにその人になびいていきます。
それまで慕っていた人のことなどなかったかのような変わり身の早さに、こっちが恥ずかしくなるくらい。
そんなアンテナより仕事のアンテナ張ってくれるかな! (神奈川・佳苗・32才)

【回答】
 同僚の美奈子さんはつねに社内の形勢を見て、自分に有利な人につくという考え方であること。
そして、その手のひら返し具合があまりにもあからさまで、佳苗さんやほかの同僚の目に余るのですね。
 その場の状況で、有利なほうに流れたり、他人の意向を気にし、それに左右される人を、世間では日和見主義とか風見鶏などと呼び、あまりいい印象がないようです。

 ずいぶん前ですが、総理大臣まで務めた日本のある大物政治家が、党内でのポジションを情勢によってクルクル変え、その様子を風見鶏にたとえられたのは有名な話です。

 しかし、美奈子さんのようなタイプは、どの会社にも多かれ少なかれいるのではないでしょうか。
 このタイプは長いものに巻かれる人、調子のいい人など、ネガティブなイメージがありますが、この立ち居振る舞いは生きていく上で必要なことでもあるのです。

 自分の持っている能力ではなく、人の能力を借りて何とかしようとするわけですが、それには状況判断能力や先を見とおす能力が高くなければできません。

 となれば、社会の中ではこの能力は必要ですし、その能力がある人は、成り上がっていけるのです。
もちろん、それがあまりにもあからさまだと、いやらしく見えて、周りの人から嫌われますから、程度問題というのはあるでしょうが…。

【対策】
 どんなに仲よくしている相手でも、不要になるとバッサリ切ってくるのがこのタイプ。
その変わり身といったら、あっぱれといいたくなるくらい、後をひきません。

 つきあうなら、「いつ裏切られるかわからない」と肝に銘じ、距離をとりながらかかわることです。
短期間に利益を得ようとする場合、このタイプの人はうまくことが運ぶかもしれませんが、コロコロと態度が変わるため、最終的に信用を失う可能性も高い。

 深くかかわると、あなたまで周りから信用を失いかねません。
距離をとってつきあうことは、裏切られた時の屈辱を味わわないための自衛策でもあるのです。とはいっても、苦々しく思うことばかりではないのです。

 人の意見に左右されない堅く強い意志を持っている“志操堅固”がいいとされる、日本人の文化があるから、日和見主義や風見鶏のようなタイプはよしとされにくいのですが、下手に意地や義理をとおして失敗する人が多いことも事実です。

 つまり、美奈子さんのようなタイプで、出世はするけど、周りから信用されないケースもあれば、その真逆のタイプだからこそ失敗し、周りの人が去っていくケースもある。

 どちらも極端な例だから、いい悪いは一概にはいえませんが、美奈子さんほどではないにしろ、佳苗さん自身も、状況判断能力や、時間的な展望などを俯瞰する能力を身につけることは、社会で生きていくためには必要だということを理解しておきましょう。

   ※女性セブン2015年10月22・29日号
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2015年10月09日

貧困と生活保護、丸裸になってからの保護でよいのか

原記者の「医療・福祉のツボ
貧困と生活保護
丸裸になってからの保護でよいのか
2015年10月9日 読売新聞

生活保護を受けるときの要件のひとつは、その世帯が持っている資産の活用です。

 現金、預貯金、不動産、自動車、家財道具、掛け捨てでない保険などの保有が、どれぐらい認められるのかが問題になります。

 簡単に言うと、現金・預貯金の保有限度額については、非常に厳しいのが現状です。
自動車の所有も、かなり厳しくなっています。

 一方、住んでいる持ち家や耕作中の田畑は、所有したまま保護を受けられるのが原則です。
いま持っている家財道具や電化製品も、一般的なものなら、手放さなくて大丈夫です。

申請時の手持ち金の目安は、保護基準の1か月分

 生活保護の対象になるかどうかは、その世帯の1か月あたりの収入と、必要な最低生活費=生活保護基準額(家賃・医療費・介護費を含む)を比べて判断します。

収入や医療費は月によって変動するので、過去3か月平均で見ますが、大きく変わる事情があれば、実情にあわせて判断します。

 そのとき、手持ちの現金や預貯金の扱いは、どうなるのでしょうか。

 結論から言うと、現金・預貯金があるとき、生活保護を申請して認められる実際上の目安は、保護基準額の1か月分です。
それを上回る現金・預貯金があると、申請しても却下されます。
先に手持ち金を使って生活しなさい、ということです。

 実は、厚生労働省は、資産による保護の要否判定の線引きをはっきり示していません。
明示しているのは、保護を開始するとき、保護基準額の5割を超える手持ち金があれば、超えた部分を収入として認定し、最初に支給する保護費を減らすということです。

保護開始時の手持ち金は、保護基準の半月分だけ

 申請する段階で持っていた手持ち金のうち、保護基準額の5割を超えている分は、あとから保護費の減額という形で“没収”されることになります。

 結局、保護を受ける時に保有が認められるのは、保護基準額の0.5か月分にとどまります。

保護基準額は、地域、年齢、障害の有無、医療費の額などによって違ってきますが、0.5か月分は単身の場合だと5万〜8万円程度でしょう。
 それを考えると、手持ち金が保護基準額の半分に減るまでは、家財道具や電化製品で足りない物を買ったり、買い替え・修理したりしておくほうが得策です。

家財道具や電化製品の購入費用は、本当に最低限の物がないときや、新しい住居に住むときに一定額が出るのを除いて、生活保護で支給されないからです。

いろいろな物が壊れたり傷んだりしても、修理や買い替えの費用の別途支給はなく、保護費の中からをやりくりするしかありません。
実際に生活に困っている人は、そんなことを考える余裕のない場合が大半でしょうが……。

生活再建をかえって妨げないか

 手持ち金の実務上の線引きに対しては、ほとんど丸裸にならないと保護を受けられず、厳しすぎるという意見があります。

保護を受けていない段階では、公的な保険料や医療費、水道代などの負担がかかります。
生活費以外のお金が乏しいと、就職活動のための交通費や衣服代を出せない、医療にかかりにくいといった状況が続き、生活力が弱って精神的も追い込まれがちです。
弱ってから保護するのでは、生活再建がむずかしくなるのではないか、ということです。

 保護を受け始めてからも、手持ち金が乏しいと、生活の向上や自立に向けた活動の余裕がなく、かえって保護からの脱却を妨げるのではないか、という指摘があります。

 2004年12月に出された「生活保護制度の在り方に関する専門委員会報告書」は、破産法の規定を参考に、手持ち金の保有限度額を3か月程度まで認めるべきだという多数意見を示しました。

しかし、一般世帯とのバランス、国民感情、財政負担などを理由に反対する意見もあったことから、厚労省は保有限度額を拡大していません(むしろ反対に、保護基準を下げています)。

 他の先進国の公的扶助制度では、これほど厳しい資産基準は設定されていないようです。
手持ち金がほぼ完全になくなってから保護するという考え方は、見直すべきだと筆者は思います。

保護費のやりくりで貯蓄するのは問題ない
保護を受けてから、保護費をやりくりして貯蓄するのは、認められるのでしょうか。

 保護費の使い道は基本的に自由です。
生活の維持向上や自立に向けた貯蓄は問題ありません。

 かつては、保護費を切りつめた貯蓄でも、資産と解釈して高額なら収入認定するという運用があったのですが、加藤訴訟秋田地裁判決(1993年4月23日、高齢の障害者が将来の介護費用として約80万円をためていた)、中嶋訴訟最高裁判決(2004年3月16日、子どもの高校進学のため満期保険金50万円の学資保険に加入していた)――を経て、運用が変わりました。

 中嶋訴訟で最高裁は「生活保護法の趣旨目的にかなった目的と態様で保護金品等を原資としてされた貯蓄等は,収入認定の対象とすべき資産には当たらない」と判断したのです。

 この裁判の影響もあって、高校・高専レベルの学校の就学費用は、2005年度から生業扶助として生活保護から出るようになりました。

 しかし、子どもの塾代や大学の進学費用は出ません。
家財道具や電化製品の修理・買い替え費用、結婚費用も出ないのが現状です。あまりにも切りつめた生活をするのは問題ですが、やりくりによる貯蓄を認めるのは当然でしょう。

 なお、住宅が傷んだときの修理費、資格や技能の習得費、就労活動費、就職支度費、出産費、葬祭費は、一定の範囲で生活保護から支給されます。

生命保険、学資保険の扱い  保護を申請したときに、解約返戻金のある生命保険に加入していると、資産として解約を求められるのが原則です。

ただし返戻金が少額で、保険料も高くないときは、保険金や返戻金を受け取ったときに保護費を返還するという条件つきで、保護を受ける方法が認められています。

目安としては、返戻金の額が、医療扶助を除いた保護基準額の3か月分程度、保険料が、医療扶助を除いた保護基準額の1割程度以下とされています。

 このほか、厚労省の見解は示されていないのですが、近いうちに亡くなるか重い障害になる病人がいて、やがて保険金が出る見込みのとき、入院特約があって入院の見込みがあるとき、年金特約があって年金給付が近く始まるときなどは、加入の継続を認めるべきではないでしょうか。

福祉事務所が認めない場合は、法律家に相談して交渉してみるとよいでしょう。

 学資保険は、保護を申請する時点で加入している場合、解約返戻金が50万円以下なら、保有したたま保護を開始してよいという解釈を厚労省は示しています。

先に述べた中嶋訴訟の事例にぴったり合わせた金額です。
 ただし保護を受けてから加入した場合と違い、満期でお金を受け取ったら原則として、申請時の解約返戻金に相当する額を返還するよう求められます。

学費がどんどん高くなった中、大学などに進学するために入った学資保険でも、もともと保有していた分を没収されるとしたら、自立を助長するという生活保護の目的に反する気がするのですが、どうでしょうか。

◆ 原昌平(はら・しょうへい)
           読売新聞大阪本社編集委員。
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「介護離職ゼロ」 説得力欠く首相の方針

「介護離職ゼロ」 
説得力欠く首相の方針
2015年10月8日 東京新聞「社説」

 これまでやってきたことと、新方針が、あまりにちぐはぐではないか。
安倍晋三首相が打ち出した「介護離職ゼロ」のことだ。
具体的な工程を示してもらわなければ、首相の言葉に説得力はない。

 親などの介護を理由に退職する人は年間十万人前後に上る。
働き盛りの四十代、五十代が多い。

 介護離職の問題は深刻だ。
退職で収入が途絶え、生活が立ち行かなくなるケースも少なくない。
待ったなしで取り組むべき課題であり、方向性には賛同する。

 だが、本当にやる気があるのかと首をかしげざるを得ない。
というのも、首相は就任以来、一貫して介護保険サービスの縮小を進めてきたからだ。

 四月から特別養護老人ホーム(特養)の新規入所者は原則、中重度の要介護者に限定した。
八月からは、一定の所得がある人の利用者負担を従来の一割から二割に引き上げた。
これにより、介護サービスの利用を手控える家族が増えることが危惧される。

 加えて、四月には保険から個々のサービスに対して事業者に支払われる介護報酬を、全体で過去最大に近い2・27%引き下げた。
この影響は出ている。
東京商工リサーチによると、今年一月から八月の介護事業者の倒産が五十五件となり、過去最多だった昨年の年間倒産件数を上回った。

 一連の施策をふり返ると、首相の発言はにわかには信じ難い。

 特養の入所を待つ待機者数は、二〇一三年度で五十二万人に上っている。
要介護者数は二五年度には約八百三十万人と、一四年度と比べ四割増えると推計される。

 首相は介護施設の整備を進める方針を示した。
介護保険は〇〇年度のスタート時から費用抑制のため「施設から在宅へ」という大方針があった。
首相の新たな方針は、それを覆すものともとれる。

 私たちは特養など施設を増やすべきだと主張してきた。
介護離職や「介護難民」を減らすためだが、それには財源が必要だ。
投入する財源額を示すべきだ。

 と同時に、介護報酬引き上げを検討すべきだ。
事業者の倒産を防ぎ、人手不足が深刻な介護職員の待遇を改善するためだ。

 加えて、介護と仕事を両立させるための制度充実を求める。
介護休業は現在、最長九十三日間取得できるとされているが、あまりに短いのではないか。

 首相は「介護離職ゼロ」達成を二〇年代初頭としたが、実現までの具体的な方策を語ってほしい。
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