開催中のラグビー・ワールドカップ(W杯)イングランド大会での日本代表の活躍にスポーツの素晴らしさを感じている。アスリートの誇りとか魂を感じさせてくれる真率な選手たちに魂を揺さぶられてもいる。力を出し切るから見えてくる、人間のエネルギーがあることを教えてくれる選手たちに心からの拍手を送りたい。
■南ア戦勝利は「準備力」のたまもの
大会が始まる1カ月半ほど前、ラグビーの元日本代表監督で神戸製鋼の黄金時代を築いた平尾誠二さんと対談する機会があった。そこで現在の日本代表の裏話をあれこれ伺い、今までにないチームに仕上がっているのだなという印象は持っていた。
それでも、9月19日の1次リーグ最初の試合で、W杯2度の優勝を誇る世界ランキング3位の南アフリカに34―32で勝った時は本当に驚いた。それこそ、私がサッカーのW杯でも常にその重要性を説いてきた「準備力」のたまものだったように思う。1戦目にすべてを懸けるような緻密な準備ができていて、それを実践したなと感じたのだ。
サッカー人の私がラグビーを語るのも僭越(せんえつ)だが、日本の戦いぶりを見ながら、南アフリカの弱点をしっかりつかんでいるなと思った。ボールがあるところへの集散の速さで完全に南アを上回っていた。フィットネスの部分を相当鍛えたのだろう。南アのような巨漢選手はスピーディーに攻められて振り回され続けると疲労の回復が遅くなる傾向がある。乳酸がたまる一方になってどんどん動きが落ちていく。そういう状態に追い込むだけの攻守を日本は貫徹した。
サッカーは選手が所属するクラブが力を持っていて、代表チームはクラブの日程の合間を縫って強化するしかない。が、ラグビーは代表にたっぷりと準備の時間を与えることができる。そのメリットを十分に生かしたようだ。
サッカーのW杯はシーズンの疲れを引きずったまま戦う選手が多いけれど、ラグビーのように準備時間がたっぷり取れれば、フィジカル的なピークをどこにでも持っていきやすい。日本はそれを初戦に持ってきたと感じた。選手を長期間拘束してフィジカルトレーニングを課し、弱点とされたスクラムとラインアウトなどにも磨きをかけた。本番に至るまでのマッチメークもいろいろなタイプの相手と組んで強化の役に立てたように思う。
■選手のみ感じとれる何かが背中押す
南アを破る快挙を見て、どうしても私の頭をよぎったのは、1996年アトランタ五輪の初戦で西野監督率いるサッカーの五輪代表がブラジル代表を下した一戦だった。当時のブラジルも「世界クラブ選抜」と呼びたくなる豪華な陣容で、それをどう倒すのか、コーチだった私は西野さんと日夜、頭を悩ませたものだった。
あの時も初戦に懸ける思いは強かった。勝つのは無理でも引き分けて勝ち点1を取れるだけでも大きいと思っていた。W杯とか五輪のようなビッグイベントでは最初の試合で得られる勝ち点はそれが1でもチームのムードを盛り上げてくれる。なぜなら最初の試合で勝ち点1でも取れたら、とにかく1次リーグ最後の3試合目まで決勝トーナメント進出の可能性をつなげられるからである。1次リーグの3試合とも緊張感のある戦いが持続しやすくなるし、仮に2戦目を落としても失意のどん底に落ちなくてすむ。
ラグビーとサッカーのW杯では1次リーグの試合数に違いがあって単純に比較はできないが、チームの士気を高める意味で初戦の重要性は変わらないと思う。そして、ラグビーの日本代表で驚いたのは、勝ち点2(引き分け)ではなく、勝ち点4を南ア相手に求めていったことだ。試合終了間際の反則で得た場面でペナルティーゴール(PG)ではなく、トライを狙ってスクラムを選択した場面のことである。
報道などによると、エディー・ジョーンズ・ヘッドコーチはPGを狙って3点を奪い、29―32のスコアを同点にすることを指示したところ、リーチ・マイケル主将ら選手の決断で5点を奪って試合をひっくり返せるスクラムをチョイスしたという。相手が退場者を出していたこともあるが、やはりグラウンドの中で体を張って戦っている選手だけが感じとれる何かが背中を押したのだろう。そこで選手が一丸になって決断できるまとまりと揺るぎないメンタルが素晴らしい。
エディー・ジョーンズ
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