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【寄稿】気軽に精神科に行くアメリカ人、我慢する日本人 - 表西恵

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10月10日は世界メンタルヘルスデーだ。2000年代に入り、日本ではうつ病の患者数が増加傾向にある。うつ病などの精神疾患には、どのようにつきあっていくべきなのだろうか。アメリカでサイコロジストとして精神科医療に携わり、「アメリカ人は気軽に精神科医に行く 」(ワニブックス刊)を上梓した表西恵氏に解説してもらった。

「心の病気」は“精神力”とは無関係


心の病気を専門的に説明すると、脳内で器質的、機能的なトラブルが起こっていると表現できます。脳内の神経伝達物質の分泌量のバランスが崩れているという状態です。その影響で学校や仕事に行きたくない、今まで楽しんで行っていた活動に興味がもてなくなった、やる気がしない、何をしても楽しい気持ちが起こらない、倦怠感、不眠(や過眠)という症状がおきます。

適応障害など一時的に起こる強いストレッサー(ストレスをもたらす要因になるものや事象)によるものであれば、時間の経過とともに症状は改善するでしょう。しかし慢性的な問題を抱えている場合、治療をせずに放置しておいても自然に改善することは極めてまれです。

精神力を持って耐えても隠しても、崩れてしまった脳内バランスは自然にはなかなか治りません。むしろ悪化させる可能性が高くなります。放置したままにせずに、まず脳の機能を正常化することが大切です。心の病気になったとしても、それは心や精神の強さや弱さなどとは関係ないのです。

米国の精神科医療で重要な役割を果たすサイコロジスト


アメリカにおいて精神科の治療は二本柱で行うことになっています。一つは投薬でもう一つはカウンセリングです。精神疾患の種類やその症状の軽重によって、カウンセリングだけで、投薬だけで、もしくは二つを合わせて、とアプローチを変えていきますが、基本的にこれらのまったく性質の異なる、独立した治療方法が精神疾患の治療には必要と考えられています。

特にカウンセリングにおいては時間をかけ、患者さんの状態を把握し、よりよい生活環境で過ごせるよう問題点や改善点を患者さんと共に探っていきます。ここで医者と同等で並列的立場で協力しながら治療をすすめる私のような心理職、サイコロジストの出番となります。

残念ながら、現在日本には「医者と同等の立場で」働く心理職は存在しません。最近可決された、公認心理師は日本で初めて作られた心理専門家のための国家資格ですが、依然彼らは医師の指示を受けて働くことになるようです。サイコロジストとは、精神科医による薬を主とした化学的治療方法とは違ったアプローチをするため、あくまでも並列的な立場で精神疾患に臨みます。ゆえにお互いの活動に刺激を受け合いながら患者さんにとってより良い治療方法を模索しようというのもので、日本のアプローチとは大きく異なります。

また長年使われてきた「心の病気」「心の病」をいう呼称にも問題があると思います。心の病気というとなんだか「本人の頑張りがないからかかる」「本人の心が弱いからかかる」などというような、精神論よりのイメージが付きまといます。実際、私が診た日本人患者さんで「心の病気だから私の頑張り次第でどうにかなる」と頑なにカウンセリングを受けることを拒み、薬も飲まなかった受動的自殺願望をもつ重症のうつ病患者さんがいました。

「うつは心の風邪」というのはおそらく「誰にでもかかる症状で決して特別なものではない」というニュアンスを強調するために風邪に例えられたものかもしれません。そして、誰にでもかかる可能性があるということを強調し、精神科受診への心理的ハードルを下げる効果を狙ったものであろうと推察できます。

しかし、うつ病が寝ていれば治る、やり過ごせるなどと曲解されてはいけません。うつ病は軽度、中度、重度と症状によって分類されており、進行を防ぐための早期治療が勧められてます。特に軽度のうつ病であれば薬を使わずともカウンセリングだけでの治療で十分です。

中度から特に重度になるとカウンセリングと薬の二本柱を用いた治療が効果的です。2週間以上調子が悪く、「うつっぽいかな?」と思ったら、すぐに専門家に尋ねてください。精神科にいきなり行くのは、ハードルが高いと感じるならば、かかりつけの内科医、企業の医務室などでまず相談してみましょう。自分で判断せず、まず信頼できる医者に相談することが重要です。

精神科への“偏見や誤解”が日本人を治療から遠ざける


私はアメリカでの臨床経験しかないので、日本の現場での様子はわかりません。ただアメリカで私が働いた日本人クリニックでの経験をお話しますと、一般的に日本人は症状が重症化するまで、頑なに精神科医やサイコロジストに足を向けません。そして中には自殺を考えるようなギリギリの限界状況まで、精神科の専門家を訪れない方もおられました。

日本では精神科への偏見が未だ強くあり、そのため日本人の患者さんは心の病気を隠し、受診を拒み、症状を放置する人も多くいます。もちろんアメリカ社会でも精神科への偏見は少なからずありまずが、日本に比べてかなり少ないようです。私の本のタイトルどおり、アメリカ人は気軽に精神科医やサイコロジストに行きます。まず、自分の症状と診断を知り、それから治療方針を医師かサイコロジスト、もしくは両方と決めていくのです。アメリカ人は一般的に自分の病気の治療方針に積極的にかかわっていきます。

日本人の患者さんによく見られた誤解は、「カウンセリングを受けること=気が弱い人、心が弱い人、精神力が弱い人」という考えです。また精神科の治療を受けるとなると、薬漬けにされるという心配をする方も多くおられました。確かに日本では特に精神科での多剤大量処方が問題視されていますし、そういった薬の出し方をする精神科医も存在するのでしょう。だからこそ、患者側の治療への積極的なかかわりと患者が医者を選ぶ姿勢が必要とされていると思います。

さきほど説明した精神科治療の「二本柱」ですが、症状の種類、軽重によってはどうしても薬が必要なケースがあります。しかし、日本人の多くの患者さんにとって、カウンセリングはどうにか受けたとしても、精神系の薬の服用はもっと敷居が高くなるようです。

そして薬を飲むことによって、「本当に病人になってしまう、されてしまう」と本人が考えてしまうようです。また心の病気、心の風邪といって、日本では精神疾患全部ひっくるめて「心」の問題、つまり「心の持ちよう」のような印象を受ける表現が多々あり、「それだったら精神力で乗り切れるんだ」ともっと耐えてしまう患者さんもおられました。「風邪だから寝てれば治るんだ」という誤解を生んだ感さえあります。そういった誤解をまず解くことから面談を始めることもしばしばあります。

冒頭で説明した、心の病気=脳内で器質的、機能的なトラブルが起こっているという定義がもっと世間で知られる必要があると感じます。実際うつ病の治療において、患者さんにまずお願いするのは健康的な生活習慣を実行してもらうことです。もちろん、適度な運動も強くお勧めします。生活環境を整える、考え方や受け止め方を変えていく、良い人間関係を築くこともカウンセリングで進めていきます。つまり寝てるだけではうつは治らないのです。

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