「自分が作ったデザインをきちんと保護したい」
これは、デザイナーの方であれば誰しもが共有する切実な想いだと思います。
しかしながら、「どのようにしてデザインを保護するのか?」と聞かれると、意匠法、著作権法、不正競争防止法など、法律の名前自体は聞いたことがあっても、それらの法律をどのように使いこなせばよいか正直なところ良く分からないのが実情ではないかと思います。
デザインの保護を考える際には、これらの法律を横断的に検討し、必要な手続を行う必要があります。
法律をすべて理解しようとするととても大変な作業になりますが、各法律の勘所だけでも押さえることができれば、自分が作り上げたデザインをどの法律により保護できるか、大まかな見通しを立てることは十分に可能です。
本コラムでは、主にデザイナーやクリエイターの方を対象に、物品のデザインを保護するための法律である意匠法について、基本的な事項を解説いたします。
結論から言えば、押さえておくべき意匠法のポイントは、以下の6つです。
- ➊ 意匠法とは、取引の対象とされる物品のデザインを保護する法律である
- ➋ 意匠法上の保護を受けるためには意匠登録を受ける必要がある
- ➌ 意匠登録を受けるためには①工業性、②新規性、③創作非容易性が必要である
- ➍ 登録を受けるためには公の秩序を害するおそれがある意匠など、不登録事由に該当しない必要がある
- ➎ 意匠登録が認められると、意匠権の範囲は登録意匠のみならず類似意匠にも及ぶ
- ➏ 意匠権者には、①行為の差止め、②侵害行為を組成した物の廃棄等、③損害賠償請求等が認められる
以下、順を追って、ポイントとなる事項を解説していきます。
【目次】
- 1 そもそも意匠とは何だろう?
- 2 意匠として保護されるために必要なこと
- 3 保護を受けるためには意匠として登録を受ける必要があること
- 4 意匠法による登録が認められない場合
- 5 意匠法により保護される範囲と期間
- 6 意匠法により認められる権利
- 7 おわりに
1 そもそも意匠とは何だろう?
まずは、そもそも意匠法が保護の対象としている「意匠」とはどのようなものでしょうか。
意匠法では、意匠を「物品…の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であつて、視覚を通じて美感を起こさせるもの」(2条1項)と定義しています。
条文だけを読むと、やはり何が何だか分からないと思ってしまう人が多いと思います。
しかし、端的に言えば、意匠法で保護される「意匠」とは、美しさや独自性のある物品の形状などに関するデザインです。そして、条文の定義も、一つ一つ丁寧に分析していけば、そもそも「意匠」に該当するための要件として、法律が何を要求しているのかを理解することができると思います。
以下、意匠法が定める要件について、見ていくことにしましょう。
2 意匠として保護されるために必要なこと
(1)物品であること
意匠法では、意匠の定義規定からも明らかなとおり、意匠を「物品」のデザインと捉えています。
「物品」とは、有体の動産を指します。そのため、たとえばファイアーアート(花火)や電飾等の光で表現されたデザイン、あるいは文字フォントのような有体物でないデザインは、意匠法における「意匠」には該当せず、意匠法の保護を受けることができません。
また、物品は「動産」を指すことから、土地から分離可能な組み立て式の家屋等を除き、原則として建築物のデザインは「意匠」には該当せず、意匠法の保護を受けることができません。
このように、意匠法の保護を受けるためには、まず「物品」のデザインであること、すなわち有体の動産のデザインであることが求められています。
(2)形態性
次に、意匠法では、意匠が物品、すなわち有体の動産のデザインと捉えられていることから、形状を伴わない意匠は保護されていません。
そのため、模様だけからなる意匠や色彩だけからなる意匠は、意匠登録の対象とはされていません。商標法においては、模様や色彩が商標登録の対象とされていることと大きく異なりますので注意が必要です。
(3)視認性
また、意匠法では、「視覚を通じて美感を起こさせるもの」が要件とされているため、視認性、すなわち視覚を通じて感得できるデザインである必要があります。
そのため、聴覚により美観を感得させる音楽や外部からは把握できない機械の内部構造などは、意匠法上の意匠としては保護されません。
特許法においては、技術的思想(アイデア)が保護の対象とされているのとは異なり、意匠法では視認性が要件とされる結果、視覚によって確認することができる部位のみが意匠の対象となるとされている点に注意が必要です。
(4)取引の対象とされていること
なお、意匠の定義には規定されていませんが、意匠法の目的から導かれる要件として、「取引性」があります。
意匠法は、「産業の発達に寄与する」(意匠法1条)ことを目的としているため、取引の対象となりえないものは「産業の発達に寄与する」ことがないことから、意匠が施されている物品は、独立に取引の対象となり得るものでなければならないと考えられています。
そのため、たとえば、椅子の足のような物品の一部は、椅子本体と分離できず、独立に取引の対象となるものではないため、「意匠」には該当しません(なお、意匠法上、部分意匠として登録を受けることができる場合があります)。
(5)小括
このように「意匠」とは何かについて、定義に書かれた言葉を一つ一つ分解して考えることにより、意匠法が取引の対象とされる物品のデザインを保護する法律であることが理解できたと思います。
3 保護を受けるためには意匠として登録を受ける必要があること
ところで、意匠法では、意匠権は意匠登録出願を行った上で設定登録を受けることにより発生すると規定されています(意匠法20条1項)。
それでは、どのような場合に意匠登録をすることができるのでしょうか。
(1)工業性
意匠法上、工業上利用することができる意匠の創作をした者は、意匠登録を受けることができるとされています(意匠法3条1項)。このため、意匠登録をするためには、工業性、すなわち「工業上利用することができること」が必要とされています。
工業性とは、具体的には、工業的生産過程により製造されるものであること、および、同一物の量産が可能であること(量産性)を意味するとされています。
そのため、たとえば農業、漁業により生産されたものは、工業的生産性を欠くため、意匠登録の対象とはならず、また、量産性の要件があることから、純粋美術や量産不能な美術工芸品も登録の対象から除外されています。
(2)新規性
次に、意匠法3条1項は、以下の意匠を除き、意匠登録を受けることができると規定しています。
- ・意匠登録出願前に日本国内又は外国において公然知られた意匠
- ・意匠登録出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた意匠
- ・前二号に掲げる意匠に類似する意匠
このため、意匠登録を受けるためには、上記事由に該当しないこと、すなわち公衆に知られておらず、かつ公衆に利用可能となった意匠でないこと(厳密には、これらに類似する意匠ではないこと)が必要とされており、一般的に「新規性」が必要であると説明されています。
創作者にとっては新しい創作であっても、客観的に新規の創作といえるものでなければ、社会に新たな価値を提供するものではなく、意匠法による保護を与える必要がないと考えられているためです。
意匠登録の要件として新規性が必要とされる結果、意匠法による保護を受けるためには、商品(物品)が市場に流通する前に意匠登録出願を行う点に注意が必要です(もっとも、新しいデザインの商品を作成する際には、展示会に出品したりすることが少なくないことから、意匠法においては、新規性喪失の例外が規定されています(意匠法4条))。
(3)創作非容易性
また、意匠法3条2項は、新規性を有する意匠であっても、「通常の知識を有する者」(当業者)が「日本国内又は外国において公然知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができる意匠は、意匠登録を受けることはできない」と規定しています(創作非容易性)。
そのため、意匠法による登録を受けるためには、新規性を有する意匠であり、かつ、創作が非容易であることが必要とされています。
それでは逆に、どのような場合が創作が容易であると考えられているのでしょうか。
特許庁の意匠審査基準においては、創作容易な意匠の例として、以下の意匠が例示されています。
- ①意匠の構成要素の一部をありふれた手法で他の意匠に置き換えたもの(置換の意匠)
- ②複数の公然知られた意匠を当業者にとってありふれた手法により寄せ集めたに過ぎない意匠(寄せ集めの意匠)
- ③公然知られた意匠の構成要素の配置を当業者にとってありふれた手法により変更したにすぎない意匠(配置の変更による意匠)
- ④構成比率の変更または連続する単位の数の増減による意匠
このように既存の意匠の置換や寄せ集めに過ぎない場合には、意匠登録は認められていないことに注意が必要です。
4 意匠法による登録が認められない場合
新規性および創作非容易性を有する意匠であっても、意匠法上、公益的な理由から以下の意匠については、登録を受けることができないとされています(意匠法5条)
- ①公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある意匠
- ②他人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがある意匠
- ③物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなる意匠
まず、①公の秩序を害するおそれがある例としては、国旗等を表した意匠、公共的生活を有するものとして個人の独占に適さないマークを表した意匠等が、善良の風俗を害するおそれがある意匠としては、わいせつ物等が挙げられます。
次に、物品に施された模様あるいは色彩、これらの結合が他人の出所表示と類似する場合、②他人の業務に係る物品と混同するおそれがある意匠に該当するとされ、意匠の出願は拒絶されることになります。
なお、③物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなる意匠とは、当該機能を実現する技術にほかならず、これを認めると特許法の要件を満たさない技術を意匠法で保護することになり兼ねないことから、登録の対象から除外されています。
5 意匠法により保護される範囲と期間
それでは、意匠法による意匠登録を受けた場合、どのような範囲で保護されるのでしょうか。
意匠法では、意匠権者は、業として登録意匠およびこれに類似する意匠の実施をする権利を専有すると規定されています(意匠法23条本文)。
このため、意匠権の範囲は、①登録意匠と②登録意匠に類似する意匠に及び、独占的排他的な権利が認められます。
それでは、具体的にどのような行為について意匠権が及ぶのでしょうか。
意匠法上、「実施」とは、「意匠に係る物品を製造し、使用し、譲渡し、貸し渡し、輸出し、若しくは輸入し、又はその譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含む。以下同じ。)をする行為」をいうとされており(意匠法2条3項)、意匠権はまずこれらの行為に及ぶことになります。
また、意匠法上、
- ・業として、登録意匠又はこれに類似する意匠に係る物品の製造にのみ用いる物の生産、譲渡等…若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。…)をする行為
- ・登録意匠又はこれに類似する意匠に係る物品を業としての譲渡、貸渡し又は輸出のために所持する行為
についても、意匠権を侵害する行為とみなす旨規定しているため(意匠法38条1号・2号)、意匠権の範囲に含まれることになります。
意匠権の範囲は、願書の記載および願書に添付された図面、写真、ひな形もしくは見本に基づいて判断するとされているところ(意匠法24条1項)、意匠の類否の判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとされています(意匠法24条2項)。
なお、意匠法では意匠権の存続期間は、設定の登録の日から20年とされています(意匠法21条)。そのため、いったん設定の登録を受ければ、20年間、当該意匠権は意匠法により保護されることになります。
6 意匠法により認められる権利
それでは、他人により意匠権を侵害された場合、意匠権者は侵害者に対して、どのような請求をすることができるのでしょうか。
意匠権者の取り得る手段としては、
- ・侵害行為の差止め
・侵害行為を組成した物の廃棄等の請求
・損害賠償請求 - ・信用回復措置
- ・刑事罰
が挙げられます。
意匠法37条は、意匠権者は、自己の意匠権を侵害する者または侵害するおそれがある者に対し、侵害行為の差止め、侵害行為を組成した物の廃棄等侵害の予防に必要な行為を請求することができるとしています(1項・2項)。
また、意匠法に基づく権利行使とは別に、意匠権者は自己の意匠権を侵害する者に対して損害賠償を求めることも認められています(民法709条)。
通常、損害賠償請求をするためには、侵害者の故意または過失、それから損害額を立証する必要がありますが、意匠法では、秘密意匠(14条)の場合を除き、侵害者の過失が推定されるため(意匠法40条)、損害賠償請求において、過失を立証する必要はありません。また、損害額の立証についても、損害額の推定規定が存在するため(意匠法39条)、当該規定に基づき損害額を算定して請求すれば足りることとされ、権利者が厚く保護されています。
その他、医療法41条が特許法106条を準用しているため、事案によっては新聞紙上に謝罪広告の掲載を求めることができ、また、意匠権を侵害した者に対しては刑事罰が科されます(意匠法69条)。
7 意匠法を上手に使いましょう
以上が「押さえておきたい意匠法のポイント」となります。意匠法上の「意匠」として認められ、意匠登録を受けるためには、相応の要件を満たす必要がありますが、いったん意匠権として登録されると、過失や損害額の推定など権利者を保護するため規定を利用することができます。
あなたが作ったデザインが意匠法による保護を受けるものである場合には、労を惜しまず意匠登録をしておくことで、権利侵害に対し、適切な権利行使が可能となります。
当事務所では、デザイナーやクリエイターの方からの相談も随時受け付けております。
本コラムに記載した内容に限らず、意匠法に関するご相談、さらにはデザインの保護に関してご相談のある方は、下記お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。