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【社説】

児童虐待最多 出生率向上を言う前に

 全国の児童相談所が二〇一四年度に対応した児童虐待の件数が過去最悪の八万九千件に上った。前年度比20%増。痛ましい児童虐待は後を絶たない。子どもの命を救う体制の強化が急がれる。

 厚生労働省によると、児童虐待件数の統計を取り始めた一九九〇年度以降、過去最多を更新し続けている。ここ五年間で倍増した。

 背景には、経済的な格差が広がり、貧困の家庭に育つ子どもが増えていることが指摘される。また、都市部の件数が増えており、家庭が地域で孤立化していることも一因とみられ、心配だ。

 神奈川県厚木市のアパートの一室で昨春、死後七年以上たった斎藤理玖(りく)ちゃん=当時(5つ)=の白骨化した遺体が見つかった事件は、社会に衝撃を与えた。理玖ちゃんは父親に置き去りにされ、衰弱死したとされる。児童相談所(児相)は二〇〇四年秋に理玖ちゃんを一時保護したことがあったが家庭訪問は行わず、〇七年ごろに死亡。児相が関わっていながら悲劇を防げなかったケースは多いが、児相だけの問題ではない。

 児童虐待を見つけた場合、児相への通報を国民に義務付ける児童虐待防止法が〇〇年に施行された。通報は増えたが、児相の体制が追いついていない。

 厚労省の専門委員会は八月に取りまとめた報告で、一三年度の児相の虐待対応件数は十四年前と比べて六倍になっているのに、対応の中心となる児童福祉司の数は二倍にとどまると指摘。増員や人員配置の見直しを提言した。

 一三年度に虐待死した子どもを担当した職員の平均受け持ち件数は年間百件余。これでは丁寧にフォローすることなど不可能だ。

 児童福祉司の配置基準は現在、人口四万〜七万人に一人となっているが、国際的な水準から見ても低い。配置基準を見直し、職員を増員することが喫緊の課題だ。

 職員の質の向上も求められる。児童福祉司は自治体の一般職員として短期間で異動になるケースも多いが、それでは知識や専門性は身につかない。虐待対応には専門知識が不可欠だ。専門委員会の報告は、児童福祉司の国家資格化を検討すべきだとした。

 安倍晋三首相は、出生率を一・八に上げるという目標を掲げた。しかし、今、この社会に生き、生命の危機にさらされている子どもを救うことが先ではないか。安心して子どもを産み育てられる環境が整えられれば、自然に出生率も上がってくるはずだ。

 

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