「1億さん」は大変だ…
「1億さん」は大変だ。かつては「一心」「火の玉」となって戦場に駆り立てられ、敗色濃厚になると「総特攻」「総玉砕」。愚かな指導者に無理心中させられそうになった
▼国破れて「総懺悔(ざんげ)」あり。戦争責任は曖昧に。混乱と貧窮の時代の中で、勤勉な1億さんは一生懸命働いた。焦土から経済大国へ奇跡の復興。1億さんの暮らしにも多少余裕が生まれ、「総中流」を感じることができた
▼テレビが娯楽の中心だったころ。低俗な番組ばかり見ていると、想像力や思考力が低下し「総白痴(はくち)化」すると叱られた。1億さんの財布の中身まで国が管理できるよう「総背番号」を付けろ、とも言われた。片仮名の名前に変わって、個人への番号通知作業が始まった
▼今度は「総活躍」である。第3次安倍改造内閣が発足した。スローガンは「1億総活躍社会の実現」。あらためて「活躍せよ」とハッパを掛けられても、別にサボっているわけではないのに、と戸惑う1億さんだ
▼そもそも活躍しているのか否かを誰が判断するのか。国や政権に貢献することが活躍なのか。高齢者も子どもも主婦もみんな働かなければ日本が立ちゆかないと言うのなら、正直に「総動員」とすればいい
▼もちろん1億さんが「数千万さん」に減っては困る。だが、失政のつけを国民に押し付け、上からの号令で意のままにしようという前時代的なやり方なら、1億さんには響くまい。
=2015/10/09付 西日本新聞朝刊=