小濱氏は「マグネシウム循環型社会構想」を打ち出している。単にマグネシウム電池を開発し、普及させるだけでなく、マグネシウムをエネルギーキャリア(輸送媒体)として大量に利用するインフラを作り上げようという発想だ。
電池で使用した後のマグネシウム化合物をオーストラリアなど日射量の豊富な国に送り、金属に還元。金属マグネシウムを日本に再び送ることで、マグネシウムのサイクルを作る。オーストラリアは太陽光発電や太陽熱発電に向いているものの、電力の形で日本まで送電することは難しい。マグネシウムであれば、輸送可能だ。約1.7というマグネシウムの比重の小ささが生きる。
小濱氏は太陽熱を利用したマグネシウムの還元を狙っている*1)。ニコンは2013年春から、小濱氏と共同で実証実験を繰り返してきた。東北大学が所有する直径1.5mの太陽炉を利用して1200度の高温を発生、マグネシウムを還元するというものだ。
ニコンは2014年3月から、小濱氏と共同で新たな実証実験に取り組む。同社が設計した直径3mの鏡を利用した実験だ(図3)。JRグループの公益財団法人である鉄道総合技術研究所の旧リニア実験施設(宮崎県日向市美々津町)を利用する。
「前回の実証実験で太陽炉を使う技術に問題がないことが確認できた。今回は実用性を考え、製造コストや製造時間を改善したい。当社が自ら電池ビジネス自体に取り組むことはないが、太陽炉の設計などでは今後も協力したい」(ニコン)。
*1) 金属マグネシウムを鉱石などから精錬する工業的な手法は2つある。1つは炭酸カルシウムと炭酸マグネシウムの複塩である苦灰石から酸化マグネシウムを取り出し、その後、炭素やケイ素などの還元剤を加えて真空中で加熱し、マグネシウム蒸気を得る熱還元法。もう1つは海水から塩化マグネシウムを得て、これを電気分解する電解法だ。製造コストは熱還元法の方が低い。
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