全国の児童相談所(児相)が2014年度に対応した子どもの虐待は8万8931件で、過去最多を更新した。

 数字はあくまで児相が関わった件数だ。児相が知らないまま、虐待死が刑事事件になるケースなどを考えると、事態はもっと深刻だとみるべきだろう。

 虐待から子どもを救う取り組みを強める必要があることは、論をまたない。加えて、虐待に至る手前で必要な支援をする予防的な取り組みにも、力を入れる必要がある。

 13年度の虐待に伴う死亡・重症事例を分析した厚生労働省専門委員会の報告書は、虐待の発生と重篤化を防ぐために、妊娠から出産、子育てまでの切れ目のない支援が必要だとしている。死亡事例の多くで、地域とのつながりが希薄だったとの実態も浮かび上がっている。

 4月に始まった子育ての新制度では、家庭や子ども支援の実施主体として市町村を位置づけ、子ども・子育て会議を置くことになった。行政のほか有識者や保育、教育の事業者、子育ての当事者やNPOの関係者らがメンバーになり、子育て施策に関する地域の中核としての役割が期待されている。

 この会議で虐待の予防を重要テーマと位置づけ、地元の現状や必要な対策、現状でどこまで対応可能か、何が必要かを話し合ってはどうだろう。

 虐待の背景には、親の孤立がある。子育てに悩む親からの「SOS」を早くつかむために妊娠から子育てまで、一つの窓口で継続的にサポートする取り組みも始まっている。

 厚労省は今年度、そんな拠点を150市町村に設置する。母子手帳を渡す際に「頼る人がいない」「経済的に不安」といった状況がわかれば、利用できるサービスを紹介し、利用を促すことができる。

 親が立ち寄る集いの場を設けるNPO法人も全国にある。集いに出てこられない親向けに、研修を受けた子育て経験者が自宅を訪れ、一緒に食事を作って食べたりおしゃべりをしたりする活動もある。

 こうした取り組みを広げていくことで、親の孤立を防ぐとともに、虐待の芽も摘むことができるのではないか。

 両親の不和や離婚、死別。非正規労働など不安定な雇用。貧困と不十分な教育。親の孤立も子どもへの虐待も、背景には様々な要素が入り組んでいる。

 だからこそ縦割りを排して、官民が協力する取り組みが不可欠だ。その中心に子ども・子育て会議を位置づけたい。