アジア・中東班の増保です。
現在発売中のクーリエ・ジャポン11月号では、今年の4月に突然、建国宣言を出した新国家を紹介した「理想の国か、それとも妄想か? 世界でいちばん新しい“国家”『リベルランド』へようこそ」という記事を担当しました。
「リベルランド自由共和国」は、31歳のヴィト・イエドリッチュカというチェコ人の政治家によって建国されました。場所は、セルビアとクロアチアの国境地帯でたまたま見過ごされていた約7k㎡の無主地です。
初代大統領も務める彼は、所得税率が高い自国チェコの経済政策に嫌気がさし、自分で無税の独立国を建国することを思いつきました。建国宣言と同時に移住希望者をウェブサイト上で募ったところ、なんとわずか数週間で約33万人もの応募が殺到。リベルランドは、「お互いに干渉せずに生きる」という徹底した自由主義を建国理念に掲げていて、「人種や民族、性的嗜好や宗教的信仰を問題視しない」「言論の自由を尊重する」「ナチズムなど、過激な政治運動に関わりがない」といったことを住民の条件として挙げていることが多くの人々を魅了したのでしょう。
こちらから、イエドリッチュカが建国の経緯について語った動画がご覧になれます。
このように、住民は独立国家として主張しているけれど、国際的には認められていない小さなコミュニティは一般に「ミクロネーション」と呼ばれ、実は世界中に存在しています。世界で最初のミクロネーションは1851年にケンブリッジ大学の学生によって建国宣言された「アップウェア共和国」だとされていて、いま現在その数は300にのぼると言われています。
では、その個性豊かな国々をいくつかご紹介しましょう。
モロッシア共和国
1999年に米国人のケビン・ボーが米ネバダ州に建国。面積は0.0255 ㎢。自国の通貨を持ち、機能していないが郵便局もある。宇宙開発計画も進行中だとか。
セボルガ公国
イタリア北西部にある。1963年イタリアからの独立を宣言したが、両国間に特に緊張はなく、国民はイタリアの公共サービスを享受している。人口は約300人。
ソジェー共和国
1947年、フランス東部に建国されたミクロネーションの古株。現在は建国者のジョルジュ・プーシェの娘が大統領を務める。観光地としても知られていて、自国で発行している切手はおみやげとして人気。
オブシディア自由国
「現存する国家のほとんどが男性優位の社会構造」だと感じた米オークランド出身の芸術家が、「女性が活躍できる国家」を建国。男性の居住ももちろん可能だが、政府組織は女性メインで構成する予定。
また、近年ミクロネーション間の交流も活発になっていて、その代表たちが一同に会する「ミクロコン」という国際的(?)な会議も行われています。米「ブルームバーグ」誌などが、今年の春に前出のモロッシア共和国が主催した「ミクロコン2015」の様子を報じていました。この会議には50以上のミクロネーションの代表が参加し、政策の成功例や自国の抱える問題などについての情報交換をしたそうです。
こうした国家のなかには英国にある「シーランド公国」のように自国のサッカーチームを持つ国もあり、近々ロンドンで「ミクロネーション・ワールドカップ」の開催も予定されているのだとか。
さて、本誌の記事では、実際にリベルランドの地を訪れた記者によって、周囲の嘲笑や隣国からの妨害にもめげず建国に奮闘するイエドリッチュカとその仲間たちの様子が描かれています。冗談なのか本気なのか判断に迷う部分もあるのですが、記事からは世の常識に囚われず「自分らしい生きかた」を模索している彼らの様子が伝わってきて、私は思わず応援したくなってしまいました。皆さんもご興味があれば、ぜひご覧になってみてください。
◆過去のエントリー◆
・核戦争が起きても全国民が助かる国って?
・デンマークの未来型サファリパーク
・海の上に「独立国家」を作ろうとしている男