8NHKスペシャル 巨大災害 第3集「火山列島 地下に潜むリスク」 2015.10.04


先月噴火した熊本県の阿蘇山。
噴煙が2,000メートルの高さまで上がり小規模な火砕流も発生しました。
全国で相次ぐ火山の噴火。
日本は火山活動が活発な時代に突入したのか。
去年9月。
御嶽山では突然の噴火に登山者が巻き込まれました。
戦後最悪の火山災害となりました。
火山の猛威に私たちは直面しています。
大気と水そして大地が絶えず循環している星地球。
秘められたエネルギーは時として暴走し私たちに襲いかかります。
100以上の活火山がひしめく日本列島。
今どこで噴火のリスクが高まっているのか?科学者たちは最新のテクノロジーを駆使して地下で進む異変を探ろうとしています。
切り札は最新鋭の観測衛星。
大地の変動を僅か数センチの精度で捉えます。
噴火の可能性を示す地面の膨張。
全国の火山で次々と見つかっています。
更に科学者たちは将来起こりうる最悪の火山災害にも目を向け始めています。
太古の昔から繰り返し日本を襲ってきた破局的な噴火カルデラ噴火です。
直径20キロにも及ぶ火口。
摂氏800度以上の巨大な火砕流が襲います。
火山灰は全国に広がり国全体が危機にひんするおそれがあるのです。
日本の火山で何が起こりうるのか?地下に潜むリスクに迫ります。
今日本で大規模な噴火の危険性が最も高い火山鹿児島県の桜島です。
海岸線に並ぶ集落にはおよそ4,500人が暮らしています。
あの辺りか…。
先月中旬京都大学名誉教授の石原和弘さんの協力を得て火口内部の撮影を試みました。
(飛行音)山頂に近い…ここ数年活発な噴火が繰り返されています。
赤く光って見えるのは高温の溶岩。
地下から噴き出す火山ガスが不気味な音を立てていました。
(ガスが噴き出す音)この夏桜島では規模の大きな噴火に対する警戒感が一気に高まりました。
気象庁によりますと桜島では今日午前7時ごろから桜島の島内を震源とする地震が多発しています。
桜島の直下で火山性の地震が急増し一日で1,000回を超えました。
気象庁は避難の準備を促すレベル4の噴火警報を初めて発表しました。
桜島の火山活動を研究している京都大学の井口正人さんです。
地震が急増したのは規模の大きな噴火が迫っているためだと考えました。
321ゼロ。
(噴射音)井口さんは人工的に振動を発生させる調査で桜島の地下の状態を探ってきました。
振動の伝わり方の違いから噴火につながるマグマがどこにあるのか解析しました。
その結果桜島の地下には膨大な量のマグマをためた大小2つのマグマだまりがある事が分かりました。
地下8キロ付近鹿児島湾の下にある大きなマグマだまり。
そこからマグマが上昇し桜島直下の5キロ付近にも小さなマグマだまりをつくっています。
8月15日に観測された1,000回以上の地震はこのマグマだまりの真上で発生していました。
そのため井口さんは大量のマグマが山頂付近の火口に向かって一気に上昇したと考えたのです。
ところが翌日には地震の回数が激減。
その後規模の大きな噴火は発生していません。
今地下のマグマはどうなっているのか。
その謎に最新の科学が迫ろうとしています。
小林さんは宇宙から送られてくるデータを基に地表の変化を解析しています。
去年打ち上げられた地球観測衛星だいち2号。
上空およそ600キロを周回し日本の地表の変化を観測しています。
だいち2号に搭載されているのが最新鋭の…雲や森林を通り抜ける特殊な電磁波を使って地表の凹凸を数センチの精度で読み取る事ができます。
だいち2号は2週間に1度同じ場所の上空を通過します。
その間に地面が膨張するなどの変化があった場合以前のデータと比較する事で僅かな違いを捉える事ができるのです。
だいち2号で緊急観測を実施して地盤の変動を解析しました。
小林さんが桜島で地震が増える前後の地表の変化を分析した結果新たなリスクが見えてきました。
異変が見つかったのは噴火が危惧された山頂付近の火口ではなくその東側の山腹より麓の集落に近い場所です。
紫色で示した部分で地面が最大16センチ膨張。
これは地下からマグマが上昇してきたためだと小林さんは考えました。
推定されたマグマの位置は2つのマグマだまりの上。
山頂より東側の地下400メートル付近。
ここに東京ドーム1.6杯分に相当するマグマが入り込んだと考えられます。
このマグマが地盤を押し上げ山腹を膨張させたと見られます。
今後マグマが更に上昇すれば山腹から噴火する可能性がある事が分かったのです。
山腹からの噴火は過去に大きな被害をもたらしてきました。
これは今から230年余り前江戸時代に起きた安永大噴火の絵図です。
山腹の複数の場所から噴火が発生している様子が描かれています。
およそ150人が犠牲になりました。
噴火が発生した火口の位置を示します。
安永の噴火は南側と北側の山腹から発生しました。
更にその後起きた大正時代の大噴火でも東西の山腹に火口ができました。
この時は噴火に伴う地震などで58人が死亡。
山腹の火口から大量の溶岩が噴き出し海に流れ込みました。
海岸沿いの集落がのみ込まれ桜島は対岸の大隅半島と陸続きになりました。
過去に大きな被害が出た噴火はいずれも山腹から発生していたのです。
衛星のデータが浮かび上がらせた山腹からの噴火の可能性。
科学者たちは桜島の活動が大規模な噴火につながる次の段階に進んだと見ています。
マグマはいつ動き始めるのか。
監視が続いています。
火山活動が活発化している日本列島。
過去に繰り返し噴火してきた活火山が110あります
これらの火山は地球を覆う岩盤プレートが日本列島の下に沈み込む事によってつくり出されました
沈み込むプレートが地下100キロほどに達する所。
高い圧力と温度によって岩石が溶け始めます。
こうしてマグマが生まれます。
ところどころにマグマだまりをつくりながら長い時間をかけて上昇。
火山を形づくっているのです
地下でマグマが生み出され続ける日本。
今噴火が起きやすい状態にあると科学者たちは指摘しています
きっかけは4年前に起きた東北沖の巨大地震です
巨大地震が起きる前に活動が活発だった火山です。
九州が中心でした
現在は東日本と北日本でも活発化しています
巨大地震と火山との関係を研究している…
GPSの観測点で捉えた地面の動きを矢印で示します
巨大地震が発生する前日本列島は沈み込むプレートによって西へ押され続けていました
地震が発生すると…
陸側のプレートがずれ動き状況は一変します
日本列島は東北地方を中心に東へ最大5メートル引き伸ばされました
大地が引き伸ばされると岩盤に隙間ができマグマが上昇しやすくなります。
このため噴火に至る可能性が高くなります
藤田さんは大地を引き伸ばす力が今後どのように変化するのか解析しました
これは地震発生直後の状況です。
引き伸ばす力が強い赤や黄色の範囲が東日本と北日本に広がっています
計算によると引き伸ばす力は100年たってもあまり変化しない事が分かりました。
地震が極めて大きかったため火山活動への影響が今後も長期間続く可能性があるのです
次はどこで噴火が起きるのか。
それを予測するのは容易な事ではありません。
去年9月の御嶽山の噴火。
突然の噴火に登山者が巻き込まれ死者行方不明者は63人に上りました。
この時起きたのはマグマが噴き出す噴火ではなく水蒸気噴火と呼ばれるものでした。
水蒸気噴火はマグマの熱の影響で地下水などの圧力が高まって発生します。
(爆発音)マグマが噴き出す噴火に比べると規模が小さく前兆が捉えにくいといわれてきました。
最新の科学はその水蒸気噴火の予測に挑もうとしています。
桜島の地下を分析した小林知勝さんです。
観測衛星のデータの中から水蒸気噴火の前兆と見られる変化を見つけ出しました。
今年6月末ごく小規模な水蒸気噴火が発生しました。
噴火が起きる前大涌谷やその周辺では火山性の小規模な地震が急増していました。
地震の回数は5月半ばピークに達しましたが6月に入ると減少しました。
噴火の可能性は低くなったと考えられていました。
ところが6月末になって突然水蒸気噴火が起きたのです。
この噴火が起きる前大涌谷では地面に異変が起きていた事が分かってきました。
5月地震が相次いだのは大涌谷を含む直径8キロほどの範囲。
この時衛星で観測されていた地表の変化です。
画面の中央に僅かな膨張が見つかりました。
直径200メートル。
大涌谷の中のごく狭い範囲です。
地面の膨張は地震が少なくなったあとも続きその量は25センチを超えました。
水蒸気噴火はまさにここから発生。
初めて噴火の前兆を捉える事ができたのです。
衛星のデータを使えば地下のマグマや水蒸気の動きをいち早く捉えられるのではないか。
小林さんが全国の火山で解析を進めた結果地面の膨張が次々と見つかっています。
ちょうど…福島県の吾妻山。
火山ガスが噴き出す噴気孔の周辺が膨張していました。
今年6月までの9か月間で最大9センチ。
地下のマグマや水蒸気の動きを表していると考えられています。
去年から今年にかけて火山性の地震が増加した北海道の十勝岳。
火口周辺の1キロの範囲がこの1年で最大12センチ膨張していました。
更に九州南部霧島連山の新燃岳。
4年前に噴火した火口の一部300メートルの範囲が今年4月までの半年で最大9センチ膨張していました。
これらが直ちに噴火につながるかどうかは分かりません。
しかし今後地震などほかの観測データと併せて監視する必要があると小林さんは考えています。
衛星を使えば観測態勢が整っていない火山も常に監視する事が可能になります。
宇宙から数センチ単位の大地の異変を捉える最先端の技術。
火山噴火の予測は新たな時代を迎えようとしています。
地下深くで生まれ続けるマグマ
時にすさまじいエネルギーで人類を脅かしてきました
今科学者たちは現代社会が経験していない最悪の火山災害にも目を向け始めています
破局的な被害をもたらすカルデラ噴火です
桜島からおよそ20キロ。
そそり立つ真っ白な崖。
シラスと呼ばれる地層です
高さは40メートル以上。
およそ2万9,000年前たった一度の噴火で積もった噴出物です。
これほど大量の噴出物をもたらす噴火とはどのようなものだったのか
地層の分析から過去の噴火を研究している…
分厚いシラスの大半は火砕流によってできたと見ています
火砕流は5月に噴火した口永良部島でも見られた現象です
高温の火山灰や火山ガスなどが斜面を流れ下り大きな被害をもたらします
シラスの広がりは直径100キロ以上。
2万9,000年前の火砕流は九州南部ほぼ全域に達していました
この巨大な噴火を起こしたのは桜島ではありません。
その北側の鹿児島湾
海底に広がる直径20キロのくぼみ。
この全体が火口だったのです
こうした地形はスペイン語で「大きな鍋」を意味するカルデラと呼ばれています
カルデラ噴火は私たちが知っている噴火とは全く異なると下司さんは考えています
まず地下深くの巨大なマグマだまりからマグマが上昇し大規模な噴火が始まります
噴火が収まらず数日から1週間ほど続くとマグマだまりには次第に隙間ができていきます
放出されたマグマが全体の1割ほどに達した時上にある岩盤が重みで崩落
地下のマグマが押し出されるようにして一気に噴出します。
カルデラ噴火に発展するのです
この時火口からは巨大な火砕流が発生します。
その様子を分かりやすく示した実験です
レディーゴー。
大量のマグマが一度に噴き出すと噴出物は高くは上がりません。
ほぼ全てが火砕流となって流れ下ります
その高さは数百メートルに及ぶと推定されます
周りの空気と混ざり合わないため火砕流は800度以上の高温を保ったまま広がっていきます
日本列島には大小さまざまなカルデラ噴火の痕跡が残されています
北海道にある湖の多くはカルデラ噴火の火口に水がたまってできました
支笏湖のカルデラでは4万年前に巨大な噴火が発生。
火砕流は現在の札幌市まで到達しました
東北にある十和田湖田沢湖
関東では箱根山もカルデラの一つです。
6万6,000年前の噴火では火砕流が現在の横浜市まで達しました
九州には鹿児島湾のほかにもいくつものカルデラが連なっています。
日本で最後にカルデラ噴火が起きたのは7,300年前の縄文時代。
九州の南の海底にある鬼界カルデラです
全国で平均するとおよそ6,500年に1度の割合でカルデラ噴火が発生してきた事になります
科学者たちは将来のカルデラ噴火の可能性を読み解こうとしています。
京都大学の大倉敬宏さんはこれまで繰り返しカルデラ噴火が起きている阿蘇山を研究しています。
阿蘇中岳を中心に直径およそ20キロ。
外輪山の内側がカルデラです。
現在カルデラの中には市街地や農地が広がっています。
阿蘇山の噴火は過去50年間を見るだけでも頻繁に起きてきました。
しかし太古の時代に遡ると桁違いに大きな噴火が4回起きていた事が地質調査から分かってきました。
これがカルデラ噴火です。
中でも最大の噴火は9万年前。
この時火砕流はおよそ150キロ離れた現在の山口県まで到達していました。
これまでの研究では阿蘇山のマグマだまりは地下6キロ付近にあると推定されています。
しかしその大きさは直径2キロほど。
この規模ではカルデラ噴火に至らないと考えられます。
どこかに巨大なマグマだまりが潜んではいないか。
大倉さんは遠くで起きる地震の揺れの伝わり方を分析し地下を探りました。
その結果地下の岩盤の中に揺れの伝わり方が遅くなる柔らかい領域がある事が分かりました。
直径2キロのマグマだまり。
その下幅20キロほどのオレンジ色の領域にマグマが含まれている可能性があります。
ただその位置は地下13キロと深いためすぐに噴火するとは考えられていません。
大倉さんは今後カルデラ噴火につながるマグマだまりなのかどうか調べていく必要があると考えています。
もしも今カルデラ噴火が発生したらどれほどの災害が起こりうるのか?今回NHKは科学者たちの協力を得て9万年前に阿蘇山で起きた最大の噴火を基にシミュレーションしました。
噴火が始まる数か月以上前。
阿蘇山周辺ではマグマの上昇に伴う地震が多発するようになります。
(地鳴り)
(噴火の音)やがてカルデラの中央付近で大規模な噴火が発生します。
(噴火の音)この大規模な噴火が1週間ほど続き地下のマグマだまりからおよそ1割のマグマが放出されます。
すると大きな地割れができ始めます。
岩盤の崩落です。
(岩盤が崩落する音)直径20キロの岩盤がマグマだまりに落下。
マグマが押し出されます。
カルデラ噴火の発生です。
(噴火の音)マグマは巨大な火砕流となってあらゆる方向に広がっていきます。
時速は最大で900キロ。
100キロ離れた福岡市に10分ほどで到達するスピードです。
火砕流の温度は800度以上。
九州の広い範囲が壊滅的な被害を受ける事になります。
更に大量の火山灰が全国に広がっていきます。
3日後までに積もる火山灰は最大大阪市で30センチ。
東京や札幌市で5センチと推定されます。
火山灰は大規模な停電を引き起こすほかあらゆる交通機関をまひさせます。
日本全体が危機にひんするような事態が考えられるのです。
ひとたび起きれば破局的な被害をもたらすカルデラ噴火。
その発生を予測するための研究も始まっています。
高温高圧の環境をつくれる実験装置で地下深くの状態を再現。
どのような条件があれば巨大な噴火が起きるのか探ろうとしています。
これまでの研究から地下にたまったマグマが一定の厚みに達した時に上昇し始める事が分かりました。
今後地下のマグマの量や状態を把握できればカルデラ噴火がどれくらい迫っているか見極められるようになると中村さんは考えています。
火山の噴火が相次ぐ日本列島。
私たちの足元にはまだ見ぬリスクが潜んでいます。
桜島を望む鹿児島湾です。
地元でたぎりと呼ばれる泡が海中から沸き上がっています。
海底から熱水と火山ガスが出続けているのです。
海底で噴火が発生すると思わぬ災害が起きるといいます。
それは津波です。
海底の地形が急激に変わる事で引き起こされます。
大規模な海底噴火が起きると僅か3分で最大10メートルの津波が沿岸を襲うおそれがある事が分かりました。
観測衛星で噴火の前兆を捉えようと研究を続ける…僅かな変化も見逃すまいと新たな解析手法の開発を進めています。
地面の膨張を捉える精度をこれまでの数センチから数ミリにまで上げようとしています。
地下深くで今も生まれ続けるマグマ。
私たちはまだその本当の脅威を知らずにいます。
命を守るために…。
地下に潜むリスクを探り続けなければならないのです。
2015/10/04(日) 21:00〜21:50
NHK総合1・神戸
NHKスペシャル 巨大災害 第3集「火山列島 地下に潜むリスク」[字]

活火山だけで110ある日本の火山。そのいずれかで、大規模な噴火が起きるのではないかと危惧されはじめている。噴火の予兆はつかめるのか。研究の最前線に迫る。

詳細情報
番組内容
鎌倉時代以来とされる噴火が確認された箱根山では、観測衛星「だいち2号」によって、噴火の予兆と考えられる地表の膨張が確認された。他にも地震波トモグラフィーとよばれる人工地震を使った解析によって、地下のマグマの位置や大きさが特定されるなど、最新鋭の観測網によって日本の火山の“いまの姿”が明らかになってきている。科学者たちは、甚大な被害をもたらす「巨大カルデラ噴火」による火山災害にも目を向け始めている。
出演者
【語り】武内陶子,石澤典夫

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ニュース/報道 – 報道特番

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