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 ■ローカルジャーナリスト・田中輝美さん(39)

 

 伝えていなかった。

 何より知らなかった。

 島根県の隠岐諸島沖に浮かび、「日本領」と報じてきた竹島。3年前の8月、日本人が立ち入りできないこの島に韓国の大統領が上陸し、常駐する韓国警備隊員と握手する映像が飛び込んできた。

 「なんで、こんなことが起きているの?」。島根県の地元紙、山陰中央新報の記者だった田中輝美さん(39)は思わず椅子から立ち上がった。

 2005年、島根県議会で「竹島の日」条例が可決された時には県政クラブの一員として立ち会った。大統領が上陸するその日まで、自分たちは、竹島の日本領有を主張し、それを裏付ける古文書が発見されたことなどを報じてきた。ところが、相手国のトップは突然、後戻りできない行動に出た。

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 非難するだけでは展望は開けない。「国家対国家の問題に終わらせず、国境に近い地元の生活者の視点に立って平和的な解決策を諦めずに考えてみよう」。同僚記者と話し、走り出すことにした。

 取材アポがほとんど入らないまま、対岸の韓国に飛んだ。現地では、竹島の日を定めた島根を「国粋主義者(ナショナリスト)の巣窟」と見ていた。何より驚いたのは、「日本人はみんな、韓国が嫌いなんでしょう?」と、あちこちで言われたことだった。

 日本ではヘイトスピーチが各地で起き、「嫌韓本」が相次いで出版されていた。一方で、韓国では反日デモが繰り返される。日韓双方で非難し合う悪循環。原因の一端は、突出した事象を切り取り、ニュースとして報じる私たちメディアにもあるのではないか。田中さんは自戒を込めて、漁業や学校教育、ショッピングなど、市井の人の日常や意識を探ることに徹した…