魂が揺さぶられる戦いだった。
世界ランキング3位の強豪南アフリカに真っ向勝負を挑み勝利をもぎ取った。
体格で劣る日本に日本人ならではの勝ち方を授けたのは伝説の名将エディー・ジョーンズ。
最強の組織を作るそのリーダー論はビジネス界からも熱い注目を集める。
趣味は日本人観察。
強みも弱みも知り尽くす。
誇り高き侍を育てる。
それが今夜のプロフェッショナル。
(掛け声)去年10月宮崎。
こんにちは。
ラグビー日本代表監督エディー・ジョーンズへの密着取材が許された。
(取材者)とんでもないです。
今日は何されてたんですか?オーストラリア人のエディーは監督就任3年目。
自他共に認める仕事の虫だ。
朝5時過ぎ。
12日間に及ぶ合宿が始まった。
練習は6時スタート。
これほど朝早くから行う代表チームは世界に例を見ない。
エディーは自らの体を温め万全の態勢で選手を待つ。
エディーが指導するのは大学や社会人リーグで活躍する日本の精鋭たち。
だが世界の強豪から見れば体格も馬力もそしてスピードも劣る。
その差をいかに埋めるか。
エディーが課すのは世界一過酷と評される練習だ。
そこには数々の実績をあげてきたエディーならではの哲学がある。
2003年オーストラリア代表を率いたワールドカップ。
エディーは選手たちの強みであるスピードとパス技術を生かした戦術で準優勝に導いた。
(歓声)南アフリカ代表ではタックルを好む国民性に注目。
世界屈指の堅い守備を前面に押し出し優勝に貢献した。
エディーが考える日本の強み。
それはどんなに厳しい練習にも耐え向上心を持ち続ける勤勉さだ。
(エディー)日本人は体格も小さいし経験も少ないので海外の強豪よりもハードに練習しないといけません。
日本人の強みは真面目で忍耐力がある事です。
それは間違いなく世界一です。
他の国の選手ならとっくに逃げ出しているでしょう。
疲れがピークに達した夕方。
エディーは更に鬼と化す。
(鐘)試合形式の練習中に鐘を鳴らし60メートルを全力疾走させる。
(鐘)休む間を与えずプレー再開。
(鐘)
(鐘)エディーが目指すのは日本人にしかできない世界一過酷な練習に裏打ちされた…この日の練習は夜7時過ぎまで続いた。
だがエディーの名将たるゆえんは過酷な練習で選手を追い込むだけではない。
選手一人一人の能力をいかに最大限引き出すか。
その卓越した手腕こそエディーの真骨頂だ。
この日エディーの視線はある選手に注がれていた。
代表初招集のトンガ出身アマナキ。
日本に来て5年。
その才能にほれ込んだエディーが代表に選出したが引っ込み思案なところがある。
その帰り道。
ナキにみんなと一緒に海に入るよう促したがナキは最後まで仲間に加わらなかった。
どうやってナキをチームになじませ戦力としていくか。
翌日エディーはナキを初招集では異例のレギュラーに抜てきした。
ナキは母国トンガ代表を断り日本代表を選んだ。
この先トンガ代表としてプレーする事はかなわない。
この日いつにもまして生き生きとプレーするナキの姿があった。
だが2日後。
エディーは驚くべき手に出た。
レギュラーからナキを外したのだ。
ナキの表情は冴えなかった。
(取材者)ありがとうございました。
ありがとうございました。
組織を戦う集団へと進化させる時エディーは1つの信念を貫く。
(エディー)私はハッピーなチームにはしたくありません。
居心地がいいと能力は発揮できないからです。
時には少し突き放す事で選手が100%安心しないようにしています。
あえて刺激し緊張感をつくり出すのです。
日本が世界の強豪に勝つためにさまざまな改革を行ってきたエディーさん。
脇を固めるコーチの人選にもこだわっている。
日本の弱みを克服するため専門家を招へい。
例えばスクラムは世界最強を誇るフランスのコーチが組み方などを徹底指導する。
タックル強化のために招いたのは総合格闘技の元選手。
体格に劣る日本人こその低くて速いタックルを伝授する。
おととし行われたヨーロッパ王者ウェールズとの試合。
その成果が如実に出た。
平均体重110キロの相手をスクラムで圧倒。
(実況)しっかり止めた。
ナイスタックル。
相手の突破を止める重心の低いタックルを次々と決めた。
そして攻めては世界一過酷な練習をこなす日本ならではの「連続攻撃」で相手を追い詰める。
幾度止められてもいち早く陣形を立て直ししつこく突破を試みる。
一発で抜き去れずとも強みの運動量で打開を図る。
エディーさん秘伝の戦術だ。
(歓声)15回にわたる突破を実らせしぶとくトライを奪い歴史的勝利をつかんだ。
(歓声)
(実況)トライだ。
最後はブロードハースト。
更に強豪相手に連勝を重ね世界ランクは過去最高の9位にまで上昇した。
けれどそれで満足しないのがエディーさん。
新たな練習法を次々と編み出している。
この日持ち出したのはアメフトのボール。
ラグビーボールより軽くて滑りやすいためミスする選手が続出した。
エディーさんの仕掛けに困惑する選手たち。
ここに一つのねらいがある。
(エディー)私たちは失敗から学ぶのです。
人生もそういうものでしょう。
日本の練習で一番間違っているのがミスをしないように練習する事です。
「ノーミス!」「ノーミス!」と叫んでいますがミスするから上達するのです。
宮崎合宿を終えたエディージャパン。
成果を試す重要な試合を迎えた。
勝率9割を誇る世界屈指の強豪マオリ・オールブラックスとの2連戦。
日本代表はエディー就任前にも対戦し43点差で粉砕されていた。
(拍手)この強敵にどう立ち向かうか。
(拍手)
(拍手)ミーティングの途中エディーは突然日本のアニメを見せ始めた。
「何かの原因で地球の温度が上がっとる」。
「怖い!アトム兄ちゃん」。
困難にひるまず立ち向かうアトムのように勇気を持て。
その初戦。
開始40秒いきなり出ばなをくじかれる。
チームの司令塔が強烈なタックルを食らい腰を負傷した。
相手は一気呵成に攻め込んでくる。
受けに回ってしまった日本は相次いで失点した。
(試合終了の笛)
(拍手)40点差をつけられての大敗だった。
(エディー)負ければプライドは傷つきます。
だからこそもっと強くなりたいという気持ちに駆られるのです。
第2戦でどう雪辱を果たすか。
エディーはこの日いつになく激しいげきを飛ばした。
闘争心が感じられなかった稲垣を呼びつけた。
2戦目を迎えた。
いきなり稲垣の果敢な突破。
チームを勢いづかせる。
先発したトンガ出身のナキ。
相手を恐れない気迫のプレーを見せた。
日本らしい連続攻撃からトライ。
(歓声)
(エディー)ラグビーは最も体格がものを言うスポーツです。
日本人は常に上の階級の相手とボクシングをしているようなものです。
だから選手が勇気を見せてくれた時私はとても満足します。
試合残り8分。
ついにリードを奪う。
このまま勝ちきれるか。
だが試合終了3分前。
痛恨のトライを許す。
あと一歩まで追い詰めたものの僅かに届かなかった。
この日ラグビー日本代表監督エディー・ジョーンズさんは東京ドームを訪れていた。
かつてから交流のある巨人原監督と日本人選手の育て方について意見を交わした。
世界の名将と言われるエディーさん。
その豊かな才能は日本との数奇な運命の下に育まれた。
1960年エディーさんはオーストラリア人の父と日本人の母のもとに生まれた。
ラグビー大国オーストラリア。
エディーさんもあっという間にのめり込んでいく。
体は小さく足も速くはなかったが頭脳明晰と評判の選手だった。
大学を卒業後地元のチームでプレーしながら代表入りを目指したが芽が出ず33歳で引退した。
学校の体育教師として働いていた2年後チャンスが訪れる。
突然日本の大学チームからコーチの仕事をしに来てもらえないかという誘いが舞い込んだ。
母親の母国大きな希望を抱いて初来日した。
だがそのプレーを見て愕然とした。
技術もなければ体力もない。
ラグビーの体を成していなかった。
ひどいレベルでした。
でも潜在能力は高く学ぶ意欲もとても強かったです。
教えれば教えるだけ夢中になって吸収し伸びていく選手たち。
エディーさんは基礎の戦術から最先端のコーチング理論まで片っ端から学び選手の指導に日夜明け暮れた。
1年後母国のクラブチームから監督のオファーが届く。
イメージOK?エディーさんの指揮官としての快進撃が始まった。
就任3年目で世界最高峰のリーグで準優勝。
「名将」と言われるまでになった。
その手腕を買われ41歳の若さで念願のオーストラリア代表監督に就任。
2年後のワールドカップで見事準優勝を果たした。
(歓声)だがここからが本当の試練の始まりだった。
「次こそは優勝」世間の期待は高まる一方。
しかしエディーさんは選手の世代交代に失敗し成績は下降線の一途をたどった。
バッシングの嵐。
自宅にゴミも投げ込まれた。
2年後任期途中で解任された。
無力感を感じました。
人生で一番やりたかった仕事を失ったのです。
この先どう生きたらいいんだろうと途方に暮れました。
1週間後。
気付けばエディーさんは日本に向かっていた。
かつて世話になったチームで選手たちと一緒に汗を流した。
皆変わらず目を輝かせながら練習に打ち込んでいた。
エディーさんの中で何かが吹っ切れた。
(エディー)日本の選手は私にオーストラリアで何があったとか聞いてきませんでした。
日本人のすばらしいところです。
とても前向きになれました。
「再びはい上がってみせる」。
エディーさんはオーストラリアに戻り弱小チームの監督を引き受けた。
何の取り柄もない選手たち。
全く勝てず悶々とする日々が続いた。
そんなある日一人の若手選手に目を留めた。
練習を始めて20分がたつと決まって動きが緩慢になり精彩を欠いていた。
データ上では説明がつかない。
エディーさんは1対1で話を聞いた。
すると5分もたたないうちに大声で泣き始めたという。
(エディー)両親が離婚し父親がギャンブル依存症でお金を取り上げられていたのです。
そこで心理学の専門家に相談し父親もサポートしました。
すると彼は見違えるように回復し活躍していったのです。
エディーさんは彼の他にも才能を持て余している若手がいる事に気が付いた。
このチームの最大の強みは若い選手の可能性。
指導者として一つの哲学が刻まれた。
その後世界で目覚ましい実績をあげたエディーさんに3年前日本代表監督の声がかかる。
他にもオファーはあった。
それでも日本を選んだ。
胸に秘めた思いがあった。
私は半分日本人ですし最初にコーチの仕事を与えてくれたのも日本でした。
日本には義理を感じています。
キャリアの最後は日本に恩返ししたいと思っています。
エディーさんは今20年に及ぶ監督生活の集大成として日本チームの強みを見いだし新たな歴史を刻もうとしている。
もう一回。
最大の勝負どころワールドカップまで1年を切った去年11月。
エディー率いる日本代表は更なる強化を目指して東ヨーロッパ遠征に突入した。
エディー就任以来急成長を遂げたとはいえ日本はワールドカップ通算1勝の弱小国。
その日本が世界の強豪国を倒し目標のベスト8を達成するのは容易ではない。
(笛)この日早速エディーの雷が落ちた。
大舞台で勝ち抜くためにエディーの真価が問われる戦いが始まろうとしていた。
選手をしかり飛ばした翌朝。
エディーはスタッフを集めミーティングを開いた。
チームの最大の課題は各ポジションのリーダーにあるとエディーは考えていた。
試合が始まれば監督が逐一指示を出す事はできない。
リーダーが自ら判断しチームをけん引できなければ更なる成長はない。
エディーが特に期待を寄せる一人のリーダーがいた。
チームのスター選手だが自己主張が若干弱い。
(試合開始の笛)3日後に行われたルーマニア戦。
リーダーたちの決断力が問われる格好の展開となった。
相手のプレッシャーが強くなかなか得点が奪えない。
リーダーはこの状況をどう打開するか。
五郎丸たちはキックでこつこつと得点を積み上げる作戦に出た。
大きくリードを奪えないため逆転されるおそれもある。
それでもキックを選び続ける。
(エディー)選手自らが考え行動できるチームが最強です。
私の仕事は自分の仕事をなくす事。
それができれば選手たちで問題を解決できるわけですから。
全ての得点を五郎丸がキックで挙げ難しいゲームを勝ちきった。
だが翌日チームを揺るがす事態が起きていた。
精神的支柱であるキャプテンが故障で離脱。
他にもケガ人が多数出ていた。
次に対戦するグルジアは更に手ごわい相手となる。
経験の少ない若手中心となる試合をリーダーがどう引っ張っていくか。
リーダーたちを集めたエディーはおおまかな戦術を話し終えると部屋を後にした。
あとは自分たちで考えさせる。
OK以上。
五郎丸たちがどこまでチームを束ねられるか。
選手たちは夜遅くまで気迫のこもった練習を続けていた。
エディーは大切にする儀式に取りかかった。
選手一人一人に向けてメッセージを用意する。
試合当日。
エディーは日本語で語り始めた。
(掛け声)気合入れてけ!地元グルジアサポーターの大歓声のもと試合が始まった。
グルジアは体格差にものを言わせ日本を押し込んできた。
先制トライを奪われる。
更に前半終了間際にも失点。
7点をリードされて試合を折り返した。
いくぞ!
(掛け声)その時気がかりな情報がもたらされた。
五郎丸は前半相手のラフプレーで負傷していた。
それでも出場を志願したという。
(後半開始の笛)勝負の後半が始まった。
だが日本は更に不運に見舞われる。
予期せぬ方向にボールが転がりトライを奪われる。
(歓声)
(笛)差を15点にまで広げられた。
このまま一気に押し切られるのか。
今までの日本がそうだったように。
反撃はエディーが日本に授けたあの戦術から始まった。
これまで幾度も強豪を倒してきたパスをしぶとくつなぐ連続攻撃。
何度止められても立ち上がり相手に向かっていく。
連続攻撃は10回に及んだ。
少しずつゴールラインに迫る。
そして残り9分。
日本らしいトライを奪った。
五郎丸もゴールを決め差を詰める。
その後も懸命に追い上げる。
(試合終了の笛)試合終了。
反撃及ばず日本は敗れた。
それでもエディーは笑顔だった。
選手の成長に確かな手応えを感じていた。
(主題歌)翌朝。
エディーは選手たちに声をかけて回っていた。
(通訳)「いい遠征になりましたね」。
ワールドカップで世界を驚かすその日まで。
エディー・ジョーンズの戦いに終わりはない。
2015/10/05(月) 22:00〜22:50
NHK総合1・神戸
プロフェッショナル 仕事の流儀「アンコール エディー・ジョーンズ」[解][字]
エディー・ジョーンズ、アンコール放送!日本代表を率いる名将に密着。個々の才能を極限まで引き出す指導法など独特の組織論を紹介。名将の哲学を読み解く。
詳細情報
番組内容
エディー・ジョーンズ、アンコール放送!今回のワールドカップでは、強豪・南アフリカを相手に歴史的な勝利をおさめた日本代表。小柄な日本人が屈強な外国人を打ち負かす。その戦術を授けたのが、名将エディー・ジョーンズ。選手の才能を極限まで引き出す指導法や「ハッピーにしない」という独特の組織論は、ビジネス界からも熱い注目を集める。番組では日本代表の強化合宿に異例の密着を敢行。名将の哲学を読み解く。
出演者
【語り】橋本さとし,貫地谷しほり
キーワード1
ラグビー
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – スポーツ
スポーツ – その他の球技
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
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