9クローズアップ現代「“世界一の鉄道”に何が〜多発する事件・トラブル〜」 2015.10.02


今、全国の鉄道で大きなトラブルが多発しています。
乗客35万人に影響が出た運転ミス。
15の路線に運休や遅れが広がる大混乱も起きています。

取材から浮かび上がってきたのは高い利便性の裏に潜む鉄道の脆弱性でした。

正確な運行と高い安全性で世界一といわれてきた日本の鉄道。
今、何が起きているのか迫ります。

こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
鉄道を利用する人の数は世界で最も多いとされる年間236億人。
1分とずれない、正確なダイヤを誇り、日本は世界一の鉄道大国と言われてきました。
しかし今、鉄道トラブルをどうやって防ぐのか問われる事態となっています。
こちらは朝のラッシュ時東京都心を走る電車です。
JR、私鉄、地下鉄にモノレール。
多彩な電車が人を運んでいます。
黄色い点、一つ一つが電車を表していまして駅の数よりも多い1500もの電車が分刻みで走っています。
最近、鉄道会社同士の相互乗り入れが進みますます便利になってきています。
この緻密なダイヤを可能にしているのがIT技術を駆使した最新の運行管理システムです。
スムーズに動いているときは利便性が高いこのシステム。
しかし、いったんトラブルが起きますと、多くの電車が止まったり、遅れたりその影響が広範囲に広がりしかも復旧までにかかる時間が長くなっています。
全国で運休や30分以上電車が遅れる輸送障害と呼ばれる事態は15年で3倍近くに膨れ年間5000件を超えています。
8月以降、トラブルが目立っているのが首都圏です。
8月4日、35万人に影響が出たJR京浜東北線の架線切断トラブル。
延べ8万人近くが影響を受けたJRの鉄道施設への連続放火事件。
相次ぐ事件やトラブルから浮き彫りになったのは最先端のシステムに潜む落とし穴や、鉄道の重要施設が悪意に対して無防備な実態です。

JR東日本の施設に火をつけたとして逮捕された野田伊佐也容疑者です。
JRに対し一方的に恨みを募らせ放火を繰り返していたと警視庁は見ています。
現場となったのは、電車の運行に欠かせない重要な設備ばかり。
利用客の多い山手線や中央線が被害に遭いました。
野田容疑者は、事件との関連をうかがわせる写真や文章をインターネットにたびたび投稿していました。

あっこ切ると、すごいで。
全部止まる。

鉄道の設備に詳しい工学院大学の高木亮准教授です。
鉄道の設備に関する情報が本やインターネットで簡単に手に入るため狙われやすくなっていると指摘します。

燃やされたのは電車の運行に不可欠な電力供給や通信用のケーブル。
フェンスのすぐ脇に敷設されていました。

なぜ、誰でも手が届く所に重要なケーブルが設置されていたのか。
JR東日本ではコンピューターによる運行の管理を進めてきました。
分刻みの緻密なダイヤと安全性を両立させるため電車の位置や信号機などの保安設備の監視を指令室で一元的に行っています。
システムの高度化に伴ってデータをやり取りする通信用のケーブルが増加。
その結果、線路脇などにも多くのケーブルが敷かれることになったのです。
事件を受け、JRでは社員を総動員し、昼夜を問わず見回りを実施。
さらにケーブルを耐火シートで覆うなどの緊急対策に追われています。
年々高度化してきた鉄道のシステム。
しかし、そのシステムに乗務員が対応できず、大きなトラブルに発展していたケースもありました。
8月、JR京浜東北線で起きたトラブル。
本来、止まってはいけない架線のつなぎ目に電車が停止。
その直後、激しくショートし全線がストップしました。

復旧にはかなりの時間がかかります。
運転再開のメドはまだ立っておりません。
大変ご迷惑をおかけいたしますが振替乗車、ご利用ください。

乗客が撮影した車内の様子です。
多くの乗客が、停電した車内に閉じ込められました。
トラブルは翌朝まで続き35万人に影響が及びました。

運転士はなぜ停止してはいけない場所に止まってしまったのか。
背景には、最新の運転システムデジタルATCへの依存がありました。
適切な運転速度を示しオーバーした場合は、自動的に減速、停止させるシステムです。
衝突事故を防ぎながら3分に1本という超過密ダイヤを可能とするために12年前に導入されました。
ショートが起きた今回のトラブル。
ATCは、架線のつなぎ目を通り過ぎた所で停止するよう指示を出していました。
しかし、前方の電車に気付いた運転士は、架線のつなぎ目だと知らずに、手動で停車。
再び動かす際に適切な手順を踏まずショートさせてしまったのです。

青が進行で、赤が停止と。

JR東日本は、ATCの指示に従っていれば問題は起きないとだけ乗務員に教育。
架線のつなぎ目の場所やショートの危険性は教えていませんでした。

さらに、鉄道会社の枠を超えた、相互乗り入れがトラブルの影響拡大につながっている実態も見えてきました。

8月下旬、東急電鉄で発生した、踏切のトラブル。
36万人に影響が出ました。
このトラブルではまず、東横線多摩川線、目黒線の、東急の3線が運転を見合わせます。
すると、東急線と相互直通運転をしている地下鉄などが、東急線内に乗り入れられなくなりました。
さらに、地下鉄とつながっている西武線や東武線などの私鉄にも影響が拡大。
結果として、15もの路線に運休や遅れが次々に広がったのです。
東急では安全を確認するために踏切や信号が正常に作動するか回送電車を3往復させてチェックしました。
運転が再開したのはトラブルからおよそ4時間後。
ダイヤの乱れは終日、続きました。
専門家は、鉄道会社は利便性の裏に潜むリスクに目を向けるべきだと指摘します。

今夜のゲストは、国の運輸安全委員会の座長を務めていらっしゃいます、安部誠治さんです。
15年間で輸送障害が3倍に増えて、確かに乗り換えなしで、どんどんどんどん行きたい所に行けるようになって、便利になったなと思う一方で、遅れたり、止まったりすることが、本当に多々あって、一体、日本の鉄道システム、どうなったんだろうかと思ってる方も多いと思うんですが。
1日に6000万人運ぶんですよね。
1人の人が行きと帰りを利用するとすれば、半分に割って3000万人ですから、国民の4人に1人が、鉄道を利用してるんですよね。
大変重要な乗り物ですよね。
で、今から28年前に、当時、国鉄というのがあって、それを分割民営化して、JRにしたんですね。
これ大きな日本の鉄道システムの大転換だったんですが、そのときと比べると、安全と安定という2つのキーワードで、見たいんですけれども、安全というのは、事故ですよね。
分割民営化した当時から、約30年たって、実は事故は半分になってるんですよ。
ところが、安定というのは事故と違ってですね、なんかトラブルがあって、列車が遅延したりするわけで、これが実は、JRだけで2倍ぐらい、民鉄だと3倍になってるんですね。
ですから、事故は減ってるんだけれども、安定輸送のほうが非常に問題があって、安定輸送が損なわれると、今、VTRにあったように、都市の、非常に、電車が止まって、皆さん、困ってしまうということが起こってしまう。
まさに都市機能がまひするようなことにも、なりかねないわけですよね。
なぜこのように安定というものが、低下してきてるんですか?
例えば、今回、ケーブルが放火されたということなんですが、鉄道って、うまいことできてですね、ケーブルがそういうふうに放火されると、これ、事故が起こると、大変ですから、安全側フェールセーフに働いてですね、信号が赤になったりしますので、ケーブルが放火されたといって、事故が起こるということじゃないんですけれども、安定のほうが損なわれてしまうわけですよね。
これ、大きく要因が3つありまして、一つがまず自然災害が起こったときに、こういう安定が損なわれて、列車の遅延とかが起こるということですね。
2つ目が、外部に、今回の放火のような形で、ああいう形になってしまうと、列車が止まってしまうので、起こってしまうと。
最後が、会社自体の車両の故障ですとか、システムの異常でそういう列車の遅延等が起こってしまって、輸送障害につながると、こういうことですね。
乗り入れ区間が増えてきた。
そして、その距離が長くなっていくことで、回復するときの時間というのは、相当かかるようになってきたんですか?
便利になりましたよね。
乗り入れができるということは、郊外から都心まで、1本で行けるわけですから、利用者にとっては大変便利なんですよね。
その分、いくつかの鉄道会社をまたいだり、路線をまたぎますから、通常、何も問題がないときは、スムーズにいって、非常に便利なんですが、いったんトラブルが起こって、あるところでトラブルが、障害が起こってしまうと、複数の鉄道会社にまたがってしまいますから、回復が非常に難しい、これがIT技術というか、コンピューター制御の一つの弱点なんですよね。
そのトラブルを、1つずつ防いでいかないといけないわけですが、例えば、架線切断、ショート、トラブルが起きたときには、どこの場所につなぎ目があったのか、場所を知らなかった。
あるいはショートの危険性について、十分、運転する方が認識してなかった。
これ、8年前に同じような事故も起きてるんですよね?
架線のつなぎ目のエアセクションって言うんですけれども、これ、普通の乗務員ですと、乗務員教育で、そこは危ないですよという、リスクの高い場所ですよということを教育するんで、普通の運転士はみんな知ってることなんですが、ATCの線区ですと、ATCに沿って運転しておけば、ATCはそういう危ない所、止めませんから、普通は起こらないんですよ。
しかし、システムというのは、何か問題がありますから、いつか起きますのでね、そういうATCで制御してる線区であっても、実は、架線のつなぎ目って、危ないんですよと、そこへ止めたら、だめですよってことを、乗務員にやっぱり教育をしないといけないんですよね。
それを、やってなかったということなので、リスクに対する対応というか、乗務員教育に、一つの問題点があったように思います。
そして、放火のケースでも、すぐそばに、そのケーブルが、届く所にあったっていうことで、防ぎようがないんですか?
これまた、ちょっと、ややこしい問題ですね。
日本の鉄道って、外部からの攻撃といいましょうか、悪意に対しては、あまり備えをしてないんですよね。
ですので、ぜい弱性、弱いところがあるということが、鉄道側も分かってるんですけれども、それほど、これまで深刻性を持って、それを受け止めてこなかったんですよね。
これだけIT化が進んで、制御がこうなってきますと、通信ケーブルって命ですから、それを防御するというのは、非常に重要な課題なんですよね。
こちらに、コンクリートで包まれたケーブル、こういうものもあるんですね。
これ、普通ですね、ケーブルはこういう形で、守るんですよね。
ただ、例えば、工事中だったりすると、黒い蛇腹といって、今回、焼けたような、あれ、蛇腹というんですけれども、ああいうのがむき出しになったり、長いケーブルですと、メンテの関係上、一部を、ああいう蛇腹にせざるをえない、露出させなければいけないということで、それが簡単に隣接する道路から手が届きやすいとか、火を放り投げれば、火事になるという、まさにそういうことで、事実上、無防備状態になってたというのが、今回、大きく分かったことというか、問題点として指摘できると思いますね。
安定に向けてやるべきこと、多いという気がするんですけれども、トラブルをどう減らしていけるのか、鉄道会社の現場の模索をご覧ください。

宮城県内を走るJR仙石線です。
線路脇にはケーブルが見当たりません。
アタックスという最新のシステムを導入したことでケーブルの数が大幅に減ったのです。
電車の位置などを管理するために増加してきたケーブル。
アタックスでは、暗号化された無線によって、電車の運行を管理。
ケーブルは必要ありません。
さらに、複数の無線装置でコントロールしているため1つの装置が故障してもほかの装置でカバーし運行を継続することができます。
2年後には首都圏を走る埼京線にも導入される予定です。
鉄道設備に詳しい高木亮さんはアタックスは、トラブルの対策として、有効だと指摘します。

一方最新のシステムだけに頼らず人の力でトラブルの影響を最小限にしようとしている会社もあります。
東京の品川と神奈川県を結ぶ京急電鉄です。
去年行われた調査では10分以上の電車の遅れは月に1回未満。
相互直通運転をしている首都圏の路線の中で最も少ない結果でした。
その理由は独自の運行管理体制にあると京急は考えています。
ほかの鉄道会社が中央の司令所でコンピューターによる一元管理を進める中京急は地域ごとに置かれた4つの運転区に、管理の多くを委ねています。
その一つ、金沢文庫運転区です。

運転区では、社員が手作業で電車の運行管理を行っています。

上り下り合わせて1日700本。
運転士や車掌を10年以上経験した、現場に詳しい社員が電車を一本一本さばいていきます。

1番、ルートよし。

駅に近づく電車を確認すると操作盤の信号てこを動かします。
すると、線路のポイントが切り替わります。
同時に信号も操作し電車を誘導するのです。

京急では現場を熟知した人を育成し電車の運行管理に深く関わらせることがトラブルに強い鉄道につながると考えています。

ことし8月に実際に起きた事例です。
金沢文庫運転区が管轄する追浜駅で人身事故が発生。
その直後、運転区の判断で2つ先の金沢文庫駅から上りの臨時列車を出し事故から10分以内に折り返し運転を始めました。
同時に、隣の運転区でも折り返し運転の開始を決定。
こうした臨機応変な対応で事故の影響を最小限に抑えることができました。

人の力で遅延を極めて少なくしている鉄道と、そして、大幅にケーブルを減らしたケース、どうご覧になられました?
京急のタイプは、非常時の回復という点では、非常に有効なんですが、ネットワークの営業機能も違いますから、ほかの鉄道会社が、ああいうことでできるかというと、ちょっとまた、これ、別な話なんですね。
それからアタックスは、これも優れものなんですけれども、ばく大な投資でお金がいりますし、電波でやりますから、電波域の不足という問題もあることから、これもなかなか、ちょっとしんどい課題ですね。
いずれにしても日本の鉄道、その安全と安定。
両方の安定の、とりわけ回復が必要な中で、どうすればいいのか、今、何をすべきですか?
半世紀前に、日本の鉄道って1年間に8000件から9000件の事故が起こってたんですよ。
これが事故から学んで、一歩一歩、対策を取って、今、年間800件まで抑え込んできているわけですね。
ですから、起こった事例からきちっと学んで、地道に現場の改善をしていくことが、大事だと思います。
こういう、今回のような架線が火事になってしまって、電車が止まるという、非常にこれは、それ自体は不幸な事案なんですけども、これを、JR東日本、あるいは鉄道会社全体が共有して、どこに問題があったかということを、しっかり学んでやる必要があると思います。
そういう地道な取り組みこそが求められているというふうに思います。
ありがとうございました。
2015/10/02(金) 01:04〜01:30
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「“世界一の鉄道”に何が〜多発する事件・トラブル〜」[字][再]

運転見合わせや遅延など、電車にトラブルが相次ぐ。“世界一”とも言われる日本の鉄道に、いま何が起きているのか。放火などの犯罪にどう対応し、安全を確保するのか。

詳細情報
番組内容
【ゲスト】関西大学教授…安部誠治,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】関西大学教授…安部誠治,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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