昔々、一度だけ食べたビーフシチューがずっと心に引っかかっていた。30年前。鎌倉の某寺で行われた法事に参加していた小学生の僕が、お坊さんがお経を唱えているときに、従兄弟のタツと二人で木魚を指して「仮面ライダー」「仮面ライダー」と騒ぎ、お坊さんと親戚一同から滅茶苦茶叱られたあとに食べたビーフシチューだ。
ビーフシチューは北鎌倉にある「去来庵」さんのものだ。残念なのは、坊さん及び親戚一同からこっぴどく叱られたおかげで、激しく動揺したのだろう、その際の記憶が曖昧になっていることだ。ただ、祖父から「アホなことはするな」「地獄に堕ちるぞ」「恥ずかしい」とくどくど注意されたのあとに食べたビーフシチューがめちゃくちゃ柔らかく美味しかったことだけは覚えている。
あれから30年以上の長い歳月が経った。法事に参加していた親戚も鬼籍に入った人の方が多くなってきた。祖父も亡くなってしまった。僕はあの日、皆で食べた、しょっぱい記憶の中にあるビーフシチューの味を、あの日の記憶を再生しながら、もういちど食べてみたい。
そう思い立って北鎌倉にあるビーフシチューの名店「去来庵」を訪れたのは、まだ暑さの残る8月のことであった。ところが!なんと、8月は夏季休業中であった。
開かずの門前で「どうして調べてないのですか……」と妻に呆れられた。僕のあれやこれやの言い訳に対して、妻は見ざる言わざる聞かざるのガードスタンスを崩そうとしなかった。
出直して訪れた去来庵は門から日本的な落ち着いたイイ雰囲気が満ち満ちていた。山中の庵に向かうような小径を登っていくとこれまたいい感じの外観のお店。 女性客が多かったのは肉食系女子というのが流行っているからなのか。
タンシチューに心惹かれながらも看板のビーフシチューとライスを注文。しばらくして届けられたビーフシチューはあの日食べたものと同じに思えた。具は牛肉とニンジンのみ。シチューは油っこさがなくスルスル味わえる。お肉はトロトロに柔らかく煮込んであるので、ナイフを使わないでも簡単にほぐれて食べやすい。
店員の方が「よろしければライスにかけてお召し上がりください」と言ってくださったので、僕は遠慮なくライスにかけてビーフシチュー丼にしてあっという間に平らげてしまった。美味しかった。ビーフシチューは、昔の記憶を再生する暇がないほど美味しかった。思い出よりも目の前のビーフシチュー。生きていくとはそういうものだ。北鎌倉で食べられる絶品ビーフシチュー超おすすめです。
味わい深い。
まるで山寺のようなお店
落ち着いた感じの店内
ビーフシチュー。
牛肉はとろとろ。具は人参と牛肉のみの男気メニューだ。
フォークだけでほぐれるやわらかいお肉。サイコー。
お店の人の助言にしたがって贅沢なビーフシチュー丼に!
あっさりしてコクのあるシチューとごはんがからんで超美味。
今日のお店
去耒庵
住所:神奈川県鎌倉市山ノ内157
TEL:0467-24-9835
書いてる人
フミコフミオ
海辺の町でロックンロールを叫ぶ不惑の会社員です。90年代末からWeb日記で恥を綴り続けて15年、現在の主戦場ははてなブログ。内容はナッシング、更新はおっさんの不整脈並みに不定期。でも、それがロックってもんだろう?ピース!
ブログ「Everything you've ever Dreamed」:http://delete-all.hatenablog.com/
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