断片小説
春休みのことだった。 僕は吸血鬼に襲われた。 血も凍るような、美しい鬼に――襲われた。
遥か上空から落下してきたと思しき『物体』の直撃を、もろに土手っ腹で食らうことになったんだ。
顔が真上を向いて、満天の星が視界に入ってくる――皮肉にも、今夜は雲一つないいい夜で、人生の最後に見る光景としては、それはあながち、悪くないものではあった。 美しい。
『きちきちきちきちきち……』『きちきちきちきちきち……』『きちきちきちきちきち……』 赤い髪に――赤い瞳。 右手首に、唯一赤でない、銀色の無骨な手錠が嵌っていた。手錠のリングが二つとも同じ右手首に掛かっていて、奇妙なブレスレットのように見える。
「殺して解して並べて揃えて晒してやんよ」
「やってみろ――ただしその頃には、あんたは八つ裂きになっているだろうけどな」
戯言だけどね。
物語はこうして始まった。あるいは終わった。 この世に正義があるとして、たとえヒーローがいるとしても、きっとこの物語はそれとは無関係のところで決着する。それはたぶん、愛とか、友情とか、そういうものだ。
それではさようなら倫理。 今までありがとう道徳。
またいつか、どこかでお会いしたときは――一から口説いてくださいね。
End mark.