●懸案であるISD条項
ISD条項とは、Investor-State Dispute Settlementの頭文字をとったもので「国家と投資家の間の紛争解決」に関するルールです。このルールに則れば、企業が国家を訴えることが可能になります。例えば、企業が投資先で国の政策によって不利益を被った場合、投資先の国を訴えることが可能です。アメリカは訴訟大国なので不利益を被った企業が日本に対して訴訟を連発するのではという懸念もささやかれています。
日本国内でTPPに反対している団体に日本医師会があります。日本医師会HPでも次のように書かれています。「日本医師会は、かねてから、将来にわたって国民皆保険を堅持することを強く求めると同時に、ISD 条項により日本の公的医療保険制度が参入障壁であるとして外国から提訴されることに懸念を示して参りました」(以上抜粋)。医師は診療に応じて診療報酬を健康保険支払基金に請求します。現状は、無制限で診療に応じた支払いがなされます。
今後、医薬品などの価格規制に対してISD条項が発動された場合、日本の医療費価格が高騰するので公的医療保険を支えることが困難になります。海外の様々な保険が出回りますから市場環境が激変する可能性も否定できません。
●TPPに参加できるのか
第3次野田内閣時、野党であった自民党は「国の主権を損なうようなISD条項は合意しない」としています。さらに「外国政府の差別的な政策により何らかの不利益が生じた場合、投資家(Investor)である当該企業が相手国政府(State)に対し、差別によって受けた損害について賠償を求める(Dispute)権利を与えるための条項。これが濫用されて、政府・地方自治体が定める社会保障・食品安全・環境保護などの法令に対し、訴訟が起こされる懸念があります」(以上抜粋)、とISD条項が盛り込まれた際の懸念を表明しています。
さらに「わが党は(自民党)は、政府(民主党政権)が 11 月と同様に二枚舌を使いながら、国民の知らないところで、交渉参加の条件に関する安易な妥協を繰り返さないよう、政府に対して、上記の判断基準に沿うことを強く求めていきます」(以上抜粋)、と当時の野田内閣を批判しました。
ISD条項について国益を損なうものとして解釈していたわけですから、ISD条項がTPPに盛り込まれていたら参加できないことになります。交渉には多くの機密事項も含んでいることは理解しますが、ISD条項に関しての情報は開示されていません。今後、合意内容の丁寧な説明が必要になると思われます。
尾藤克之
経営コンサルタント/ジャーナリスト