印南敦史 - お金,スタディ,書評,資産運用 06:30 AM
松竹梅なら梅を選べ! 大富豪に共通する投資についての考え方
『執事だけが知っている世界の大富豪53のお金の哲学』(新井直之著、幻冬舎)は、2014年に『執事だけが知っている世界の大富豪58の習慣』で話題を呼んだ著者の新刊。著者は、「大富豪」への執事サービスを提供しているという「日本バトラー&コンシェルジュ」代表取締役ですが、つまりはそんな立場に基づいて、本書では大富豪のお金の使い方を明かしているわけです。
大富豪に「違う世界に住む人」というようなイメージを抱いてもおかしくはありませんが、著者によれば、彼らの大半は「ごく普通の人である」なのだとか。つまり本書の根底に根ざすのは、「それらの方々との共通点を見つけることができれば、それが大富豪になる近道だ」という考え方なのです。
朝に弱くて会社をクビになるような人でも、勉強嫌いや人付き合いが苦手な人でも、大富豪になるチャンスは掴めるのです。ちょっと失礼な言い方かもしれませんが、「大富豪も昔はただの人だった」ということです。(序章「世界の大富豪が富を築くまで」より)
第一章「世界の大富豪の富を築く資産の増やし方」から、いくつかを引き出してみます。
火をつけて燃えるものには投資しない
大富豪の投資には、人それぞれ独自の視点や発想があるもの。そんななかで著者が驚いたのは、「燃えるものには投資しない」という考え方だったといいます。もちろん、実際に火をつけて燃やしてみるということではありません。頭のなかで、その投資商品が「燃える」かどうかを想像してみる必要があるということ。このことについて著者は、ある大富豪から以下のように説明されたことがあるそうです。
「災害や戦争など予期しないことが起きても、実体が残るもの、価値か大きく変わらないものは信用していい、という意味だよ」(32ページより)
いわば大富豪は、いま使っている通貨の価値が無になってしまう状況を常に想定しているわけです。そして、どんなにうまい話を持ちかけられても、「燃えるか燃えないか」、いいかえれば「実体があるかないか」を瞬時に見分ける目を養っているということ。ですから当然ながら、株、債権、保険などの一般的な投資商品も、頭のなかで「燃える」かどうかをイメージしている。そうやってふるいにかければ、ほとんどの投資商品は残らないというわけです。
では大富豪がなにを選ぶかといえば、それは「普遍的な価値がある」と認めたもののみ。その代表格が土地で、著者の知る大富豪も「この物件を燃やしてみたら価値は残るかな? 建物は燃えるけれど、土地は残るな」と確認していたのだといいます。社会の変動を受けても、それに耐えうるかを見極めているということです。
その他、金、プラチナなども普遍的な価値があると認められるもの。なぜなら、いま住んでいる国の財政が破たんしても、金やプラチナの価値が暴落することはないから。物質としては高温になれば溶けてしまいますが、とはいえ多少のことでは消えてなくならず、紛争や天災にも耐えうる投資商品だと考えられるのです。また、たとえば特許のような、形がなく、燃やしようがないものにも投資するのだといいます。
戦争や天災に見舞われても、その投資商品はなくならないのか。
会社や国家が破たんしても、その投資商品の価値は残るのか。
大富豪のように「燃やして」みれば、今まで見えなかった隠れたリスクや、見落としがちなリスクに気がつくのです。(35ページより)
資産を増やそうとするなら、ある程度のリスクは仕方がないと考えがち。しかし、そんなことばに左右されず、「大富豪の知恵」を少し借りたいものだと著者は記しています。(32ページより)
松竹梅で迷ったら梅
「うな重と同じように、投資商品にも松竹梅がある」と著者。たとえば投資用マンションを購入するとしましょう。そのとき、マンションの売り出し広告に「最多価格帯4600万円」と書かれていたら、それは全戸のなかでもっとも個数の多い価格の話。実際の物件は、最低価格は2980万円、最高価格は5880万円といった具合に、いちばん安い部屋といちばん高い部屋の価格がかけ離れているケースが多々あるものです。これが、「投資用マンションにも松竹梅がある」ということ。
さて、その場合、大富豪はどのランクを選ぶのでしょうか? 彼らは潤沢な資産を持っているわけですから、「いちばん高価な部屋を買うのだろう」と想像するのは当然の話。しかし意外にも「梅」、つまりいちばん安い部屋を選ぶことが少なくないのだそうです。いちばん高い部屋がいちばんいい部屋であることを承知のうえで、あえてそうするのだということ。その理由は、次のとおりです。
「もちろん、いちばん高い部屋がとても気に入れば迷わず買う。でも、とりあえず投資しておこうかというときは、いちばん安い部屋だ。いちばん高いものにはプレミアム価格が乗っているんだ」(40ページより)
こう答えた大富豪は、ある商品の販売会社を経営しているのだといいます。つまり、売り手の論理がわかるわけです。また、下落率が小さいことも梅を選ぶ理由のひとつ。
「いちばん高い部屋はプレミアム価格になっているぶん、景気が後退したときには大きく値が下がる。その点、いちばん安い部屋はプレミアムが乗っていないから下落率も小さくて、その点ではいちばんバリュー(価値)がある」(40ページより)
価格が上がる局面だけではなく、下がるときのことも考えて投資商品の価値を見極めているということです。そして大富豪は、人を雇うときにも松より梅を選ぶのだそうです。実績のある即戦力のエキスパートより、たとえば学校を卒業したばかりの新人を好むということ。
「経験豊かなエキスパートを年棒2000万円で雇うより、500万円で雇える新卒に賭けるよ。500万円の新人なら同じ投資額で4回失敗できるじゃないか」(41ページより)
人材の投資でも、常にプレミアム価格を意識しているのが大富豪。プレミアム商品に気がつくか、気がつかないか、それだけでも投資商品の価値判断は変わるもの。どれにするか迷ったときは、いちばん安い品を選ぶと買いやすく、売りやすい選択ができるというわけです。(39ページより)
一円玉がいちばんの投資商品
一円玉を集めるのが大好きで、自宅の金庫に膨大な枚数を保管している大富豪がいるのだそうです。不思議に思って質問すると、こう説明されたといいます。
「一円玉を1枚つくるのにいくらかかると思う? アルミの材料費と製造費を合わせると2~3円くらいだ。額面より価値があるんだよ」(61ページより)
他の貨幣や紙幣が額面よりはるかに安いコストでつくれるなか、唯一、一円玉のコストは額面を上回っているのだそうです。大富豪は、そこに価値を見出していたわけです。また、「一円玉を集めることが最悪の事態に備える防衛策」とも考えているのだそうです。
「日本の通貨制度が崩壊したら、お札などは紙くずになるだろう。一円玉は貨幣としての価値を失っても、アルミとしての価値は残る。国が破たんしたら、材料として売ればいいんだよ」(62ページより)
現在、アルミの国際価格は1キログラム210円程度。一円玉と同じ1グラムになおすと0.2円ほどなので、アルミ地金の価値の方が小さいことになります。しかしそれでも、国が混乱するほどの事態になれば、インフレになり、アルミの価値が高まってくる可能性はないといえません。それにしても、大富豪がここまで考えて生活しているのだとすれば、それはやはり驚くべきことではないでしょうか。
一円玉を集めるという行為は、大富豪の先の先までを見通した投資の象徴といえます。(中略)私たちが自宅の金庫に一円玉をたくさん保管するのは現実的ではありません。しかし、大富豪のリスク管理の考え方を取り入れることはできます。例えば、今はさまざまな国の通貨を買うことができます。そのときに金利の高さだけに惑わされず、通貨を発行した国の信用を考えてみるのです。(63ページより)
その国が戦争状態になったり、財政破たんに至る危険はないだろうか。通貨を無計画にどんどん発行していないかと考えてみる。それだけでも、通貨の安全性が正しく捉えられるわけです。また、どの通貨が信用を失うか、予測がつかないこともあります。そこで、比較的安全と思われるいくつかの国の通貨を複数持てば、リスクに強い投資になる。つまり、一円玉を大切にする習慣からは、日本国の通貨であっても、「長い歴史のなかでは価値が変わる」ということまで考えて投資しなければならないという教訓が得られるということ。(61ページより)
冒頭で触れたとおり、本書の最大のポイントは「大富豪も普通の人」であることを強調している点にあります。だからこそ、「自分にもできるかもしれない」という前向きな気持ちにつながりやすいわけです。まさに、豊富な体験を持つ執事だからこそ実現できたことだといえそうです。
(印南敦史)
- 執事だけが知っている世界の大富豪53のお金の哲学
- 新井 直之幻冬舎