東京から電車を乗り継ぎ、千葉駅を経て、目的地である館山へ向かう間ずっと窓の外には小雨が降っていて、東京から離れていくうちにいつのまにか線路上から見えるようになっていた海は雨のせいで白いノイズのフィルターがかかっていて海というよりは煙の塊がたゆたっている感じで、ああきっと晴れていればもっと綺麗だったのだろうなと少し残念に思ったのだけど、でもその残念だなという気持ちの後ろには希望が静かに光っていた。
私と彼の人生はこれからも続くはずで、来ようと思えばまたここに来れるのだと信じていて、だから諦める必要はなくて何度だって試せるのだ、という希望が常にここにある。
左へカーブを曲がると 光る海が見えてくる
僕は思う! この瞬間は続くと! いつまでも
『さよならなんて云えないよ』/小沢健二
(このエントリの本筋とはまったく関係ないのだけどタモリは小沢健二の音楽が大好きで、この曲のこのフレーズについて今は亡き『笑っていいとも!』のテレフォンショッキングで対面した小沢健二本人の前で「生命の最大の肯定」と表現したらしくて、小沢健二がそれに嬉しそうに頷いたのが1996年。)
(で、昨年2014年の春、件の番組が放映終了される直前にふたたびテレフォンショッキングのゲストとして登場した小沢健二がギターを持ってこのフレーズを歌った。けっして短いとは言いがたい国民的テレビ番組の32年間をやっと終えようというタモリの前で。)
(私はこのエピソードが大好きで、このエピソードを知った時点でタモリも小沢健二も大好きになって、そして彼らについて想う時、私の心には「生命の最大の肯定」という言葉が鐘みたいにリンゴーンと鳴るのだった。)
平日に郊外へ向かう電車はもちろん空いていて、それをいいことに人のいない向かいのシートの上に両膝をつき窓に顔を寄せていたら、もともと一緒に座っていた場所でうたたねしていた彼が動く気配がしたので首を回して見ると彼はねぼけまなこで、まず私を、次に隣に置いてある荷物を認めて、すぐにまた寝入ってしまった。はしゃぐと周りが見えなくなって走ってどこかへ行ってしまう私に対して最適化された寝起きだね、と考えて私もまた海に向き直る。
付き合っての三年間と、結婚しての一年間、どうもありがとう。これからもどうぞよろしくね。